第5回 サーバ版Hyper-Vの概要:Windows Server 2012クラウドジェネレーション(1/2 ページ)
災害対策のためのレプリカ(複製)や強化されたマイグレーション機能、仮想ディスクのパフォーマンス向上対策、高機能なスイッチなど、Hyper-Vの新機能の概要を解説
今回はWindows Server 2012の重要な新機能の1つ、Hyper-Vについて、その概要を解説する。
Windows Server 2008で最初のHyper-V 1.0が導入されて以来順次改良が重ねられ、Windows Server 2008 R2のHyper-V 2.0に続いて、Windows Server 2012のHyper-Vで三代目となった。ただしこれは正式にはHyper-V 3.0とは呼ばないようである(内部的なファイルのバージョン番号はまだ2.0のまま)。そのため本連載でも、単にWindows Server 2012のHyper-Vと呼ぶことにする。
今回は概要編として、Windows Server 2012のHyper-Vの主要な機能について簡単に見ておく。最初に、Windows Server 2012のHyper-Vの概要をまとめておく。
機能 | 新機能/強化 | 概要 |
---|---|---|
Hyper-Vレプリカ | 新機能 | 障害対策やバックアップのために、仮想マシンや仮想ディスクの複製を非同期に作成する。障害発生時はすぐに複製先に仮想マシンに切り替えて、サービスを継続できる |
ライブ・マイグレーション | 強化 | クラスタ化された仮想マシンだけでなく、非クラスタ環境の仮想マシンでもライブ・マイグレーションを実行できる。また複数のライブ・マイグレーションを同時に実行できる |
ストレージ・マイグレーション | 新機能 | 実行中の仮想マシンの仮想ディスクを、別のサーバや共有域にダウンタイムなしで移動させる |
仮想ファイバー・チャネル | 新機能 | ゲストOS内からファイバー・チャネル記憶域に接続する |
新仮想ディスク形式 | 強化 | 従来よりもサイズが大きく、高パフォーマンスの新仮想ディスク形式(.vhdx)をサポート。最大64Tbyteの仮想ディスクを作成できる。ホストOS(親パーティションのOS)にもマウントできる |
4KBディスク・セクタ・サポート | 新機能 | 512eおよびネイティブ4Kbytesセクタのサポート。これによりパフォーマンスの向上が期待できる |
仮想スイッチ | 強化 | ネットワークの仮想化やマルチテナントのサポート。パケットの監視や転送、フィルタ機能の追加などの機能拡張が可能な仮想スイッチ・アーキテクチャ |
Hyper-Vネットワーク仮想化 | 新機能 | NVGREカプセル化やIPアドレス書き換えを使った、ネットワーク仮想化によるセキュアなマルチテナント管理機能 |
ポート・ミラーリング | 新機能 | 仮想スイッチのポートを別の仮想マシンへミラーする機能。パケットのモニタなどに使える |
オフロード・データ転送 | 新機能 | ホストや仮想マシンを介さず、オフロード・データ転送(ODX)に対応したデバイスや仮想ディスク間で直接データを転送する技術 |
Hyper-Vリソース・メータリング | 新機能 | リソースの利用状況の把握や課金などのために、仮想マシンごとのCPUやメモリ、ネットワーク使用率などのモニタリングが可能になった。PowerShellやAPIなどで取得可能 |
オンライン時のスナップショットの統合 | 新機能 | 仮想マシンの実行中にスナップショットのマージなどの操作が可能になった(仮想マシンを止める必要がない) |
クライアントHyper-Vのサポート | 新機能 | クライアントOSであるWindows 8でもServer版のHyper-Vと同等の機能が利用できるので、管理の共通化が図れる |
Windows PowerShell用Hyper-Vモジュール | 新機能 | 150個近いHyper-V用Windows PowerShellコマンドレットのサポートにより、Hyper-Vのすべての管理を行える(Hyper-Vオートメーション・サポート) |
RemoteFX | 強化 | Windows 8対応(マルチタッチ対応)やUDPベースのリモート・プロトコルによるWAN対応(レイテンシの遅い回線でも快適に利用可能)などが強化された |
VHDファイルに対するサーバ役割/機能の追加 | 新機能 | Windows Server 2012をインストールした仮想ディスク・イメージに対して、(仮想マシンはオフにしたまま)直接Windows OSの役割や機能を追加できる。大量展開の場合に有用 |
仮想マシンの世代ID管理 | 新機能 | Active Directoryドメイン・コントローラを仮想マシン上で実行するとスナップショットの適用によって問題が発生する可能性があるが、これを避けるために仮想マシンに世代識別用のIDを導入した |
スケーラビリティが向上した仮想マシン実行環境
Windows Server 2012のHyper-Vでは、Windows Server 2008 R2のHyper-V 2.0と比べて仮想マシン実行環境(仮想ホスト)の最大仕様が拡張され、より大規模な仮想ホスティング・サービスも提供できるようになっている。
OS | Windows Server 2008 R2 | Windows Server 2012 |
---|---|---|
ホストの最大コア数 | 64 | 320 |
ホストごとの最大仮想CPU数 | 512 | 2048 |
ホストの最大物理メモリ | 1Tbytes | 4Tbytes |
VMごとの最大CPU数 | 4 | 64 |
VMごとの最大メモリ・サイズ | 64Gbytes | 1Tbytes |
ホストごとの最大同時アクティブVM数 | 384 | 1024 |
最大仮想ディスク・サイズ | 2Tbytes(.vhd) | 64Tbytes(.vhdx) |
ゲストNUMA | 不可 | 可 |
クラスタ内の最大ノード数 | 16 | 64 |
クラスタ内の最大VM数 | 1000 | 8000 |
スケーラビリティがアップし、より大規模な仮想環境が構築できるようになった。
エディションによるHyper-Vの違いは仮想化インスタンス権のみ
Windows Server 2012のStandardとDatacenterエディションでは、付属する仮想化のインスタンス権に違いがあるだけで、それ以外の差はない(連載 第1回の「Windows Server 2012の製品エディション」参照)。またHyper-Vのハイパーバイザだけを含む製品として「Hyper-V Server 2012」が無償で提供されているが、これには仮想化のインスタンス権は含まれていない。
エディション | Datacenter | Standard | Hyper-V Server 2012 |
---|---|---|---|
概要 | データ・センターやプライベート・クラウドなど、特に大規模仮想化環境に対応したサーバOS | 非仮想化環境もしくは小規模仮想化環境向けサーバOS | 仮想化の実行環境のみのエンジン。無償で提供される |
機能 | 全機能が利用可能 | 全機能が利用可能 | ハイパーバイザのみ含む |
仮想化インスタンス権 | 無制限の仮想化インスタンス権 | 2つまでの仮想化インスタンス権 | なし |
ライセンス・モデル | 無制限の仮想化インスタンス権 | 2つまでの仮想化インスタンス権 | − |
サポート物理プロセッサ数(ソケット数) | プロセッサ+CALライセンス | プロセッサ+CALライセンス | − |
備考 | − | − | USBメモリからのブートが可能 |
コラム:クライアント版Hyper-Vとの違い
なおWindows Server 2012のHyper-Vは、クライアントOSであるWindows 8のHyper-Vとコア部分は共通化されている。Windows 8のHyper-Vについては連載「Windows 8レボリューション」の第11回「クライアントHyper-V」ですでに解説しているので、参考にしていただきたい。一部再掲しておくと、サーバ版のHyper-Vと比較すると、Windows 8のHyper-Vでは以下の機能が使えなくなっている。
- Remote FX機能
- 仮想マシンのライブ・マイグレーション(実行したままの移動)
- Hyper-Vレプリカ(仮想マシンの複製。バックアップに利用できる)
- SR-IOV(Single Root I/O Virtualization)ネットワーキング(ハイパーバイザを介さず、直接I/Oアクセスを行う技術)
- Synthetic Fibre Channel(ゲストOSから直接Fibre Channelにアクセスする技術)
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