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第2回 Hyper-Vと最新のストレージ・テクノロジの併用Windows Server 2012 R2時代のHyper-Vサーバ設計術(1/4 ページ)

Windows Server 2012 R2のHyper-Vをベースにして、今使える仮想化システムの技術トレンドや設計、機器の選択方法などについて解説する設計ガイド。今回はHyper-Vの性能を引き出すストレージ技術のトレンドや機器選択ガイド、設計上の注意点などについて解説する。

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Windows Server 2012 R2時代のHyper-Vサーバ設計術
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連載目次

本連載では、Windows Server 2012 R2のHyper-Vをベースにして、現在求められる仮想化システムの技術トレンドや設計、機器の選択方法などについて、全4回で解説します。


 前回は、CPUやメモリといった“頭脳”部、つまり計算処理を担う部分の設計について解説した。今回はI/O処理を担う“足回り”の1つである「ストレージ」について解説する。

 ストレージの重要性はPCの購入をイメージすると理解しやすい。最近のPCはCPUやメモリよりもHDDをSSDにアップグレードした方が体感速度は向上するだろう。これは、昨今のPCのボトルネックはディスクにあるということだ。これと同様に、今日の仮想化システムもディスク周りが原因で全体性能を低下させている傾向がある。ストレージはサーバやネットワークと比べて単価の高い買い物だ。性能とコストのバランスを取りながら、堅実な設計を目指していこう。

共有ストレージの必要性

 Hyper-Vで利用できるストレージは、サーバ内蔵HDDなど1台のサーバが占有するローカル・ストレージと、複数のサーバから接続できる共有ストレージに大別できる。Windows Server 2012のHyper-Vからはローカル・ストレージ間でもライブ・マイグレーションができるようになったが、ライブ・マイグレーションはあくまで正常状態のHyper-Vホスト間で利用できる技術であり、障害対策にはならない。

 サーバダウンといった障害対策に対応するには、従来どおりフェイルオーバー・クラスタリングが必要であり、共有ストレージを選択する必要がある。

  ローカル・ストレージ 共有ストレージ
ライブ・マイグレーション
フェイルオーバー・クラスタリング ×
対応するストレージ サーバ内蔵HDD
DASストレージ
SANストレージ
NASストレージ
表1「Windows Server 2012 R2 Hyper-Vで利用できるストレージ」
Windows Server 2012のHyper-Vからは、ローカル・ストレージでもライブ・マイグレーションが利用できるが、障害対策を考えると引き続き共有ストレージが必要となる。
DAS:Direct-Attached Storage
SAN:Storage Area Network
NAS:Network-Attached Storage

 一くくりに共有ストレージといっても、ストレージ専用のプロトコルでブロックアクセスするSANストレージと、共有フォルダのようにファイルアクセスするNASストレージの2種類があり、さらに接続するプロトコルや伝送方式などで細分化される。VMwareなど他製品と同様に、Hyper-Vも接続方式によって性能や利用できる機能が左右されるため、それぞれの特徴を良く理解しておく必要があるだろう。

SANストレージの比較

 SANストレージとしては、FCプロトコルベースのFC/FCoEと、SCSIプロトコル・ベースのShared SAS/iSCSIに大別される。それぞれにネイティブ通信するタイプとイーサネット上で通信するタイプがある形だ。

  FC FCoE Shared SAS iSCSI
伝送方式 FCネイティブ ロスレス・イーサネット SCSIネイティブ イーサネット
現在主流の転送帯域 16 Gbps
8 Gbps
10 Gbps 48 Gbps*1
24 Gbps*1
10 Gbps
1 Gbps
ゲスト・クラスタリングの実現方式 VHDX共有
仮想FC
VHDX共有
仮想FC
VHDX共有 VHDX共有
仮想NIC
プロセッサ負荷の軽減 ×*2
設計・構築の容易さ ×
対応機器の豊富さ × ×
適合するシステム規模 大〜中 大〜中 中〜小 中〜小
表2「Windows Server 2012 R2のHyper-VにおけるSANストレージの比較」
FCは高価でiSCSIは安価といったイメージが強いが、10Gbpsクラスで検討すると必ずしもそうではない。表内の「ゲスト・クラスタリング」については、最終回で解説する。
FC:Fibre Channel
FCoE:Fibre Channel over Ethernet
SAS:Serial Attached SCSI
iSCSI:Internet Small Computer System Interface
*1 1本のマルチリンク・ケーブル内に12Gbpsや6Gbpsのレーンが4本束ねられている。
*2 ハードウェア・イニシエータやSR-IOVなど、特殊なNICであればオフロード可能。

iSCSIの価値は薄れつつある

 従来、中規模クラスではコストや手軽さからiSCSIを選択するケースが多かった。しかし、最近はiSCSIにあまり割安感がなくなってきている。これは、1ホストあたりの集約率が増加したことや、よりディスク・アクセスの多いアプリが仮想化されつつあるためだ。I/Oの全体量が増えたことで、1Gbps程度のiSCSI回線では“足回り”がボトルネックとなる傾向が強くなり、サーバ台数を無駄に増やすことになる。これは実にもったいない設計だ。

 昨今のプロセッサ側の集約率とバランスを取るのであれば、ストレージは最低でも5Gbpsは確保しておきたい。今後のデータ量の増加を考えるなら、最低でも8Gbpsは見た方がよいだろう。加えて二重化も必要だ。さて、これを1Gbpsのネットワークを束ねて実現するとなると、NICとスイッチのポートは一体いくつ必要になるだろうか?

 もちろん、10GbpsでiSCSIを使えば帯域は不足しないだろう。しかし、それではiSCSIの価値は失われてしまう。FCと比べたiSCSIの魅力はスイッチなどの機器コストが低いという点にあるが、10GbpsにしてしまうとFCとコストが変わらなくなってしまう。コストと性能が同じであれば、プロセッサに負荷がかからず、信頼性も高いFCにした方がよいだろう。iSCSIの方が簡単という意見もあるが、トラブルなく運用していくには、iSCSIセッションやマルチパス(MPIO:Multipath I/O)の設定、フレームの最適化といった、ストレージとイーサネットの両方のスキルが求められる。また、10Gbpsイーサネット(10GbE)をベースにするのであれば、iSCSIとFCoEはどちらにすべきか、という議論もあるだろう。

限定された規模ならShared SAS

 「帯域が必要なのは理解できるが、FCや10GbEでは予算が合わない」と悩むユーザーも多いかもしれない。中規模くらいまでであれば、日本ではあまり知られていない接続方式として「Shared SAS」というものがある。これは、内蔵HDDやテープ装置との接続で使われる「SAS(Serial Attached SCSI)」の応用技術で、SASケーブルを使って堅牢なSANを構成するものだ。

 Shared SASはその名前のとおり、SCSIプロトコルをネイティブに利用するため、信頼性が高く、Windows Serverフェイルオーバー・クラスタ(WSFC)といったクラスタリング技術とも親和性も高い。使われるケーブルはマルチリンク(4x)と呼ばれるもので、1本のケーブル内に4つのレーンが束ねられており、6Gbps規格であれば24Gbpsもの帯域が得られる。ケーブル内で束ねられたレーンはMPIOを設定する必要がないなど、設定も非常に簡単だ。FCと同様にアダプタ上のチップが処理を担うため、プロセッサへの負荷もほとんどない。しかし、最大の魅力はそのコストだろう。Shared SAS用のアダプタやケーブル・スイッチなどは、FCや10GbEの半分以下で調達できる。

 夢のようなテクノロジであるShared SASであるが、いくらかデメリットもある。SASのケーブルは4つのレーンを束ねている関係で、太く取り回しがしづらい。また長さも8m程度が上限であり、サーバとストレージのラックが離れていると届かない可能性がある。

■SASのHBA

SASのHBA

■SASスイッチ

SASスイッチ

■SASストレージ

SASストレージ
図1「コストパフォーマンスに優れたShared SAS製品群」
SASソリューションでは、HBA(ホスト・バス・アダプタ)はデュアルポートで2.5万円程度など、非常に機器コストが安価でありながら、プロセッサに負荷を掛けないなど、高価なFCのメリットも併せ持つ。また、速度についても4つのレーンを束ねるマルチリンク技術によって、ケーブル1本で24Gbpsや48Gbpsの速度が出るなど、圧倒的に高速である。
【写真上】HBAの例。これはHPの「H221ホストバスアダプター」。カード自体はイーサネット・アダプタのように小型だが、ケーブルはかなり太く、取り回しの点だけは不便だ。
【写真中】SASスイッチの例(ブレード・サーバ用)。これはHPの「HP 6Gb/s SAS BLスイッチ」。FCスイッチのSAS版に相当するものであり、サーバからこれを介して複数のSAS対応ストレージやテープ装置を接続することで、SASによるSANを形成できる。
【写真下】SASストレージの例。これはHPの「P2000 G3 MSA SASストレージ・システム」。2.5インチのディスクなら最大24台搭載できる。コントローラを変更すると、さまざまなインターフェイスを利用できる。これはSASコントローラを2つ増設したところ。背面上部にある4つの横長の四角がSASポート。


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