システムエンジニアはなぜ、ヒゲをそるべきなのか:あるエンジニア、かく語りき(1)(1/3 ページ)
一介のエンジニアが人生の節目節目で考えたこと、今回は「学生から社会人へ」。立場が変化したことでどのような認識の変化があったのかをつづります。
「あるエンジニア、かく語りき」、第0回では私がなぜこの連載を始めようと思ったのかを書きました。今回から始まる本編では、一介のエンジニアが人生の節目節目で考えたことをつづります。今回は「学生から社会人へ」。私が新卒で働き始めたころの話です。
大学を卒業して就職し、仕事としてソフトウェア開発を行う人間になったことで、大きな認識の変化がありました。今考えると、とても一面的だったりナイーブだったりします。それは大学時代の自分の考えであったり、新卒1年目にたどり着いた(と思っていた)「真理」だったり。それでも学生から社会人になり、また趣味で自分のための開発をしていたのが職業として組織の課題解決のための開発をするようになり、立ち位置が変わった体験は印象深いものでした。
大学生の身分、サラリーマンの身分
会社に入って何カ月かして、自分の意識が変化していることに気が付きました。まず挙げるべきは、計画性についてです。
- 生活についての心配をあまりしなくなった
- 先々のことを考えた計画を立てるようになった
これが、私にとって最初に現れた「社会人と学生の違い」でした。
労働していない学生は、いってしまえばほとんど消費者です。親などの稼ぎで生活し、自らは価値の生産にほとんど関わりません。大学と以外の世界は狭く、社会における「役割」がまだありません。
それに対して、社会人とは「労働して納税すること(現在の社会を支えること)」という役割を社会からはっきりと期待されています。
社会は構成員がその役割をきちんと果たせるように、いろいろな制度や仕組みを備えています。失業保険であるとか、子育て支援であるとか、労働基準法とか雇用機会均等法とか。そういうものはすべて、その社会の構成員が会社に勤めて納税し、次の世代を育てられるように設計されているのです。
これが「計画性」につながります。
先日Twitterで「将来の希望や見通しが立たなければ、計画性や我慢強さという性質は機能しない」という発言を読んで膝をたたきました。それは、まさにかつての自分だったからです。私は学生時代、自分の将来をまったくイメージできず、その場その場でできることを刹那的にしながら、ずっと「何か面白いことはないかなぁ」とつぶやいていました。
就職してからは衣食住の心配がほとんどなくなり、半年や1年先までの計画が立つようになりました。また、会社からは「後輩を率いてバリバリやる開発者」という近い将来の役割が期待されました。すると「いずれ役に立つかもしれないからLispを勉強しておこう」とか、「うちの会社にはC#すげぇ強い人いないっぽいから、真面目にやれば俺の強みになるかも」という「将来」への投資に魅力を感じられるようになりました。その瞬間が面白いかどうかだけではなく、効果的か、将来的に役立つかどうか、というものの見方を獲得したのです。
安全が保障され、役割が示されることで、計画的な行動がとれるようになった。それが学生からサラリーマンに身分が変わったことで起こった、大きな変化でした。
規範が合理的に説明できる世界で生活すること
就職したことでもう1つ変化した点は、規範の在り方が理解しやすくなったことです。
「期待されている義務を果たすことで保障が得られる」という関係はシンプルで理解しやすいと思います。学生時代までは、それらがとても不透明でした。
子どものころや学生時代は、礼儀やマナーなどの漠然としたものを尊重しなければならない理由が全然分かりませんでした。「世の中はそういうものだから」「多くの人がそう感じるから」という暗黙のルールは理解しているものの、「それを自分が尊重しなければならない」理由がピンと来なくて悩んでいたのです。
例として「ヒゲをそる(整える)」という行為を考えてみましょう。
私が新卒で入社した中堅システムインテグレータA社は、官公庁や大手のシステムインテグレータが主なクライアントでした。つまり、比較的ドレスコードやビジネスマナーに厳しい文化の人々が多かったのです。
彼らは取引先に対してもそういう評価の仕方をします。だらしないとか、きちんとしているとか。従って私たちも、彼らと交流するときにはスーツを着てネクタイを締め、折り目正しくし、靴を磨いてヒゲをそるべきなのです。それが私たちのビジネスの成功に寄与するからです。「ヒゲをそらない」ことはクライアントの心証を悪くする可能性があるので避けるべきだ、という規範には合理性があると感じます。上司がヒゲを好きだとか嫌いだとかはあまり関係がないのです。
「遅刻をしない」というのも同じです。
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