自動運転やエッジAIで活用されている「エッジコンピューティング」の仕組みや課題をおおまかに把握しよう:ビジネスパーソンのためのIT用語基礎解説
IT用語の基礎の基礎を、初学者や非エンジニアにも分かりやすく解説する本連載、第25回は「エッジコンピューティング」です。ITエンジニアの学習、エンジニアと協業する業務部門の仲間や経営層への解説にご活用ください。
1 エッジコンピューティングとは
エッジコンピューティングは、データが生成される場所(エッジ)に近いところでデータを処理する技術のことです。エッジコンピューティングでは、IoTデバイスなどデータが発生する現場でデータを処理します。これにより、クラウド上のサーバなどとの通信遅延(レイテンシ)を減らせ、リアルタイムでの応答が必要な場面で強みを発揮します。
クラウドとエッジの組み合わせにより、システム全体の柔軟性を高められることから、次世代の技術インフラとして注目されています。
2 エッジコンピューティングの仕組み
エッジコンピューティングの仕組みは、データを分散して処理することに基づいています。
通常、データはセンサーなどのIoTデバイスやスマートフォン、コンピュータからクラウドやオンプレミス(※1)の情報システムに送られて処理されますが、エッジコンピューティングでは、デバイス自体や近くに配置されたエッジサーバで処理します。具体的には、デバイスが収集したデータに対し、リアルタイムでフィルタリング(※2)や分析などを行います。その後、重要なデータのみを情報システムに送信するため、ネットワークの帯域幅の使用を最小限に抑え、情報システムへの通信負荷の軽減を実現します。
3 エッジコンピューティングのメリット
3.1 通信遅延(レイテンシ)の削減
データを生成する場所で直接処理することで、情報システムにデータを送信する時間を短縮できます。情報システムとの通信が減るため、情報システムとの物理的な通信距離の遠さやネットワークの混雑などを起因とした通信遅延を削減できます。これにより、ミリ秒単位で応答を求められるリアルタイム性の高いアプリケーションで特に効果を発揮します。
3.2 通信データ量の削減
エッジでデータを事前処理し、重要な情報のみをクラウドに送信することで、大量のデータを情報システムに送信する必要がなくなり、ネットワーク帯域を効率的に活用できます。通信データ量を抑えることで、ネットワークコストの削減や、ストレージや処理能力などの情報システム側のリソースの負荷軽減につながり、結果としてシステム全体の負荷軽減に寄与する可能性があります。
4 エッジコンピューティングの活用事例
エッジコンピューティングは、リアルタイムのデータ処理が求められる多くの分野で活用されています。
4.1 IoT(モノのインターネット)
IoTデバイスは、センサーやカメラなどで大量のデータを収集します。エッジコンピューティングを活用すると、これらのデバイスがよりリアルタイム性の高い処理を実装できるため、機能拡張などの価値向上を実現します。
4.2 自動運転車
自動運転技術では、膨大なセンサー情報をリアルタイムで処理する必要があります。エッジコンピューティングを活用することで、車両内で即時にデータを処理するため、情報システムを介さずに迅速な判断が可能となり、事故の回避や安全運転に寄与します。
4.3 エッジAI
エッジAIは、AI(人工知能)を活用したデータ処理を、クラウドではなくエッジデバイス(カメラやセンサー、スマートフォンなど)で実行する技術です。
データをクラウド上のAIシステムに送信せず、現場で即座に処理できるため、リアルタイムでAIの恩恵を受けられます。例えば、製造業の品質管理では、製品を検査するカメラにエッジAIを組み込み、即座に不良品を判別することで、生産ラインの停止を減らすなどの活用がされています。しかし、AI活用に伴いエッジサーバやデバイスに高い処理能力が要求される点には注意が必要です。
5 エッジコンピューティングの課題
5.1 セキュリティリスク
エッジコンピューティングはデバイスやローカルサーバでデータを処理するため、IoT機器などのエッジデバイス自体がサイバー攻撃の対象となる可能性があります。
分散されたデバイスがネットワークに接続されているため、セキュリティの管理が複雑になります。デバイスのソフトウェアやファームウェアは常に最新の状態を維持することが重要です。
5.2 開発、運用コスト
エッジコンピューティングは分散型アーキテクチャのため、エッジデバイスの設定や保守、データの一貫性確保といった管理が複雑化し、運用コストが増加する可能性があります。
メリットに挙げた通信データ量の削減によるコストダウンが見込めるものの、ビジネスの拡大に伴い多数の拠点が必要となった際など、エッジデバイスやサーバが増える場合に当初の想定を超えた多額の運用コストが継続して発生する可能性があります。リモートでエッジサーバやデバイスを一元管理できる仕組みを作るなど、運用コストを削減する取り組みが重要です。
6 今後のエッジコンピューティングの展望
エッジコンピューティングは、今後さらなる発展が期待される技術であり、その市場規模は継続して拡大していくことが予測されています。
参考:総務省 エッジコンピューティング/エッジインフラ
特に5G(※3)の普及によって、より高速で低遅延の通信環境が整い、エッジコンピューティングのメリットであるリアルタイム性が一層強化されます。これにより、エッジコンピューティングの活用事例として挙げたIoTや自動運転、エッジAIなど、リアルタイム処理が求められる分野での利用が加速することが予測されます。
エッジコンピューティングの普及に伴い、クラウドとエッジを組み合わせたハイブリッドなインフラが構築され、より柔軟で効率的なシステムが実現するでしょう。
古閑俊廣
BFT インフラエンジニア
主に金融系、公共系情報システムの設計、構築、運用、チームマネジメントを経験。
現在はこれまでのエンジニア経験を生かし、ITインフラ教育サービス「BFT道場」を運営。
「現場で使える技術」をテーマに、インフラエンジニアの育成に力を注いでいる。
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