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鯖江市のオープンデータはどう進展してきたか地域の活性化につなげたい

6月4日、福井県鯖江市、jig.jp、アマゾンデータサービスジャパン、SAPジャパンは共同で、鯖江市のオープンデータへの取り組みを説明した。4者は今後、他の自治体における同様な取り組みの広がりと、公開データを活用したアプリやサービスの普及に務めていく。

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 オープンデータは地域の活性化につながる――。6月4日、福井県鯖江市、jig.jp、アマゾンデータサービスジャパン、SAPジャパンは共同で、鯖江市のオープンデータへの取り組みを説明した。jig.jpはさらに、鯖江市への協力活動で得た経験を生かし、同日に「オープンデータプラットフォーム」サービスを提供開始したと発表した。

 鯖江市市長の牧野百男氏は、「市民がボランティアや市民活動を通じて行政に直接参加する」という意味で市民が主役だという考え方に基づき、行政を進めているという。このために、市は積極的に市民に対して情報を公開し、また市民との間で情報を共有していく取り組みを進めてきたと説明した。特に若者に対しては、地域活性化プランコンテストの実施やJK課の設置など積極的な働き掛けを行ってきた。オープンデータへの取り組みもこの延長線上の1つの柱として位置付けているという。

 オープンデータに関する具体的な活動は、鯖江市民であるjig.jp代表取締役社長の福野泰介氏からの提案で始まった。福野氏自身、World Wide Web Consortium(W3C)のティム・バーナーズ=リー(Tim Berners-Lee)氏の、世界共通データ活用基盤を目指すセマンティックウェブの考え方に共鳴し、オープンデータのプラットフォーム提供で社会をよくすることができると考えていたという。提案を聞いた市長は即決。jig.jpの協力でオープンデータに関する活動を開始した。その後2013年度の総務省オープンデータ実証実験を生かすなどして整備を進め、約40種のデータを公開するに至ったという。このほか鯖江市は地方自治体として世界で初めてW3Cに加盟、関連イベントを開催するなどしてきた。


鯖江市は、データを公開するだけでなく、使ってもらうための取り組みを進めている

 牧野市長は、「行政でやるべきことには限りがないが、財源は限られている。オープンデータはデータを公開するだけで民間の人々が(アプリやサービスを)つくってくれ、住民サービス向上につながる」のがありがたいという。ただし、公開したデータをどう使ってもらうか、一方で職員のリテラシーをどう上げるかも課題だとしている。


中央左が鯖江市長の牧野百男氏。左はアマゾンデータサービスジャパンの玉川憲氏、中央右がjig.jpの福野泰介氏、右がSAPジャパンの吉越輝信氏

 オープンデータといってもいろいろある。中央省庁レベルでは所得統計や国勢調査などの統計データをどう公開するかという話になる。だが福野氏は、「政府レベルでは事後のデータになってしまう。自治体レベルでは生活に密着したデータを提供できるのが面白い」と話す。「熊が出た」という情報に連動して、軒先に熊の看板を立たせて老人に警告するなど、デジタルデバイドの克服にもつながることができるという。自治体によるInternet of Things的な取り組みが進めば、リアルタイムで提供できるオープンデータが多様化し、アプリにも新たな可能性が生まれてくる。福野氏はさらに、Google Glassのようなウェアラブル端末が普及すれば、AR(拡張現実)などを活用した新たな情報の消費スタイルが登場し、それはメガネづくりで海外にも知られる鯖江市にとって、新たなビジネスの可能性につながるとしている。

世界で共通に使えるオープンデータアプリの基盤を

 jig.jpは、これまでの鯖江市との取り組みで得た経験を基に、全国の自治体を対象としたサービス「オープンデータプラットフォーム(ODP)」を提供開始したと発表した。

 これはAWS上で提供されるサービス。1つの特徴はデータ登録の容易さで、役所の担当者はExcel上で、データの種類に応じて決められたスキーマに基づいてデータを作成、これをExcelスプレッドシート形式で登録すればよい。ODPサービス側で自動的にフォーマット変換を行い、Linked RDFという、オープンデータにおいて最も推奨される形式で保存されるという。一方で同サービスでは、これもオープンデータの活用では世界標準になりつつあるというSPARQLというデータアクセス言語で、アプリケーションから直接データを呼び出して使える。オープンデータに関する知識やノウハウがまったくない自治体でも、世界で最先端の情報公開が即座にできると福野氏は主張する。


世界標準になりつつあるデータフォーマット、データアクセス言語を使うことで、グローバルなエコシステムに参加できるという

 福野氏は、「データを公開しても、誰も活用してくれない」という問題を解決することが、このサービスの大きな目的の1つだと話す。さまざまな自治体や政府機関が共通のデータフォーマット、共通のデータアクセス手段を提供できれば、アプリやサービスを開発する人々は個別に対応する必要がなくなるからだ。

 jig.jpでは今後3年間で500契約の受注を目指す。基本サービスで年間150万円(税別)という値付けの理由を聞くと、「アプリ1つを外注するのに4、500万円は掛かる。また、広報誌を作るのに1500万円掛けているケースもある」。これらに比べて安く、一方で同社が事業として継続していける価格にしたと答えた。

 アマゾンデータサービスジャパンは、鯖江市とjig.jpの取り組みを支援してきた。AWSは鯖江市とjig.jpの取り組み、そしてjig.jpが発表した新サービスのインフラとして使われている。アマゾンデータサービスジャパンの技術本部本部長 玉川憲氏は、AWSが安価で、利用自治体数やデータ量、アプリからのデータアクセス量が少ない場合でも、あるいは急速に増えたとしても容易に対応でき、さらにAWSが世界中で提供されているためグローバル展開も容易だという点で、サービス自体がオープンデータへの取り組みに適していると話した。

 同社は、オープンデータで課題となっているアプリ開発の促進にも貢献できるという。国内に存在する約40のAWS関連開発コミュニティに対し、データ活用手法を伝えていくほか、アプリの流通にアマゾンのAndroidアプリストアを活用できるとする。玉川氏は、「類似のサービスや取り組みがほかにも登場することで、ネットワーク効果が得られるようになる。鯖江市とjig.jpを支援することから得られる経験値を生かしていきたい」と話している。オープンデータはインターネット上で新しいことをやろうとするスタートアップ企業全般にとって、大きな価値があるという。

 SAPジャパンは、鯖江市とjig.jpの取り組みの成功に向け、SAP自身も採用している「Design Thinking」の考え方の適用支援を行っているという。またjig.jpは、今後のデータ利用の増大に備えてSAP HANAの利用を検討していて、SAPジャパンと共同で実証実験を実施した。

 SAPジャパン クラウドファースト事業本部の吉越輝信氏は、鯖江市が不安を抱えながらも挑戦を続けているマインドに共感して、支援を決めたという。「オープンデータは、多数の自治体や民間のデータが組み合わせられることで生きる。SAPは他の自治体や自社の既存企業顧客に同様な取り組みを呼び掛けている」と話す。SAPはCode for Americaをスポンサーしているなど、米国などでも関連する活動の実績があり、日本国外との連携についても支援が可能という。吉越氏は、オープンデータを通じて官民のデータ活用が広がること自体が、SAP HANAのような製品へのニーズにも、いずれつながってくるとしている。

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