JGN-X、Wi-SUN、そして“時”——NICTが作るネットワークの未来:NICTオープンハウス2014リポート
独立行政法人 情報通信研究機構(NICT)は2014年11月27、28日の2日間にわたり「NICTオープンハウス」を開催している。ネットワーク編では現在、そして近未来のネットワークを取り上げた展示を紹介しよう。
独立行政法人 情報通信研究機構(NICT)は2014年11月27、28日に「NICTオープンハウス2014」を開催した。このイベントはNICTの最新の研究成果を講演、デモンストレーション、パネル展示を通して紹介するものだ。本記事ではネットワークに関連する、気になった展示を二つと、誰もが知るプロトコルの基礎となる仕組みをリポートしよう。
次世代ネットワーク実装のためのテストベッド「JGN-X」をフル活用するために
NICTテストベッド研究開発推進センターは、多様なアプリケーションの実証実験やネットワーク技術の研究開発のため、大規模な研究開発用テストベッドネットワーク「JGN(Japan Gigabit Network)」を1999年から運用している。JGNは時代とともに最先端の機能を取り込み、現在では大規模エミュレーターとして運用が行われている「StarBED3(キュービック)」とともに、新世代通信網テストベッド「JGN-X」として運用が行われている。
JGN-Xは日本全国、さらには海外におよぶ広域ネットワークをL2、L3レイヤーで構築しており、各種実証実験のための基盤サービスとして、純粋な基盤技術研究だけでなく、防災分野や医療分野などでの利用を見据えたプロジェクトに活用されている。
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これが世界最大規模のテストベッドの全貌だ:
潜入! 北陸StarBED技術センター(@IT)
http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1303/15/news003.html
川口洋のセキュリティ・プライベート・アイズ(42):
そのときStarBEDが動いた――「Hardening One」の夜明け前 (@IT)
http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1212/10/news015.html
JGN-Xでは、SDN/OpenFlow技術のためのテストベッド「RISE」を構築、運用している。RISEの利用者はOpenFlowコントローラーを持ち込むことで実証実験が可能な環境を提供しているが、これまで環境を構築するまでに約2時間程度かかっていたとのことで、RISEを運用するための作業工数が大きいことが課題であった。その解決のために、新たにRISE Orchestratorを開発した。このシステムの構築により、これまで利用申請書の記入してもらい、その紙をベースに設定していた作業がセルフサービス的に行え、最短10分程度で設定が完了するようになったという。
このシステム自体はRISEの運用者のためのサービスであるが、バックエンドには「Testman Testbed Orchestration Framework」により各種ネットワークオーケストレーターを統合管理し、フレームワークとしてとりまとめているという。JGN-Xは世界でも最大規模のOpenFlowテストベッドとなっており、海外からの利用も可能なものであるため、構築作業の効率化の効果は大きいといえよう。
関連リンク
JGN-Xが提供するSDN/OpenFlowテストベッド「RISE」(NICT)
http://www.jgn.nict.go.jp/ja/nwgn-front/interview/003_2.html
無線通信規格「Wi-SUN」は活用段階へ
NICTが中心的な役割を果たし、IEEE802.14.4g/4eとして国際標準化された「Wi-SUN」をご存じだろうか。単3乾電池3本で10年以上動作する(1カ月2000回通信を想定)という消費電力と、通信距離は500メートル程度、かつ最大30台までのマルチホップ通信が行えることから、スマートメーターなどへの搭載だけでなく、農業用センサーや災害地モニターなどにも応用が考えられているものだ。
Wi-SUNは無線機の認証団体「Wi-SUNアライアンス」も設立されており、Wi-Fiにおける「Wi-Fiアライアンス」の登場と同じく、規格設立段階から活用段階に移行している。現在、「Wi-SUN ECHONET Lite」がエコーネットコンソーシアムにより策定され、これが東京電力の宅内エネルギー管理システムとして採用が決定、2020年までに全管内2700万戸に導入が見込まれている。
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無線通信技術 Wi-SUN:
「2年後にはスマホにもWi-SUN」――標準化を先導するNICTがWi-SUN普及に自信(EE Times Japan)
http://eetimes.jp/ee/articles/1310/09/news098.html
Wi-SUNプロファイルはL1層、L2層が規定されており、L3層以上はある程度自由にアプリケーションを構築できる柔軟性を持っている。上記のWi-SUN ECHONET Liteを拡張することだけでなく、独自のルーティングトポロジー「HMT(Hierarchical Mesh Tree:階層型メッシュツリー)」の導入による高効率ルーティング制御の実現など、Wi-SUNプロファイルのさらなる多様化も目指している。
「IoT」と言ってしまうと若干構えてしまうエンジニアも多いかと思うが、Wi-SUNのようなプロトコル/無線機をイメージすると、各種機器にAPI経由にてアクセスできるという仕組みが身近に存在する——そう考えれば興味が湧くのではないだろうか。
関連リンク
国際無線通信規格「Wi-SUN」が次世代電力量計「スマートメーター」に無線標準規格として採用(NICT)
http://www.nict.go.jp/publication/NICT-News/1402/01.html
時を作る——“ntp”の基はここにある
サーバーの内部時刻設定は、ほとんどの場合「ntp」を使って、ネットワークを経由して時刻合わせをしていることだろう。複数のサーバーが強調してプロセスを動かす現代のネットワークにおいては、「時刻合わせ」はより重要性を増しているといえる。
その「時間」を、ネットワークの世界に限らず配信しているのが、NICTの「日本標準時グループ」だ。ここで日本標準時を決定し、維持、供給している。
日本標準時を決定しているのは「原子時計」で、セシウム原子を周波数を基に、91億9263万1770回振動した時間を「1秒」として標準時を作り出している。とはいえ、この振動した時間を検出する技術は日々進化しており、NICTの電波計測研究所ではより究極的な正確さを求め、光格子の中にストロンチウム原子を閉じ込めレーザー光の干渉縞を計測する「ストロンチウム光格子時計」や、1個のカルシウムイオンを電極内に閉じ込め、レーザー照射による計測結果を得る「カルシウムイオン光時計」など複数の計測技術を研究中だ。
より高精度の時間を計測できるようになることで、東京大学(東京・文京区)とNICT(東京・小金井市)で同一の光原子時計を計測した結果の、標高差56メートルが生み出す一般相対性理論による誤差すらも計測できるようになったという。
NICTは最先端の研究を行いつつ、それをいかに民間へ技術移転するかについても考えつつ事業を展開している。NICTオープンハウス2014にて展示されていた、各種ネットワークセキュリティ技術に関しては改めて別記事にて紹介する予定だ。
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