ニコ動のコミック版? 動いてしゃべってアフレコできる「モーションコミック」を追う:ものになるモノ、ならないモノ(62)(1/2 ページ)
クリエイターを育てるためのプラットフォームにしたい――声優やコミッククリエイターのための「モーションコミック」や「SAY-U」、そして「ENSOKU」を展開しているシフトワンの動きに注目してみた。
「アイドルになりたい」というのと似た感覚で「声優」というポジションに憧れる人が目立つようになったのはいつ頃からであろうか。筆者の記憶が正しければ、1970年代後半の「宇宙戦艦ヤマト」ブームあたりにその源流を見いだすことができる。当時、10代だった筆者は、深夜放送の特別枠で放送していたラジオ劇「宇宙戦艦ヤマト」で、声優たちが熱演するのを布団をかぶって聞いていた。沖田十三役の納屋悟朗氏(2013年没)、古代守役の広川太一郎氏(2008年没)など“本物”の声優が登場する本格的なラジオ劇だった。
番組の中で、スタジオ見学に参加したファンが声優に思いを語るコーナーがあった。それぞれのファンがお気に入りの声優たちに熱く語るメッセージを聞いていると、感情移入が過ぎて声優本人と劇中のキャラクターを同化させてしまっているさまが聞き取れ「この人たち、そのままイスカンダルにワープしてしまうのでは」と、聞いているこちらが恥ずかしくなった記憶がある。そのとき初めて、声優という職業が、歌手や俳優と同様に、スター然とした憧れの対象になっていることを知った。
その後、1980年代から声優のアイドル化が雪崩を打つように進行し、昨今の盛り上がりにつながっていることはご存じの通りだろう。
誰でも声優になれるソーシャルアフレコアプリ
……と、今回は長めの前振りで「おまえは何が言いたいのか」と怒られそうだが、「SAY-U」という誰でも声優になれるiPhoneアプリとそれを提供する「シフトワン」という会社の“クールジャパン”な活動に興味を引かれたので、声優というキーワードに触発されてこのような思い出話を炸裂させてしまった。
「SAY-U」は、「みんなでアフレコできるソーシャルアフレコアプリ」というキャッチコピーの通り、アプリ内の「モーションコミック」と呼ばれる、静止画ではないが動画でもない“半動画”コミックに対し、ユーザー自身が声優になりきって台詞を録音することができるアプリだ。録音した台詞をサーバーに送信することで他のユーザーが録音した台詞と合体し、一つの完成した作品となってアプリ内で公開される仕組みだ。
台詞の録音は、iPhoneの録音機能を利用するのでいたって簡単だ。パソコンやマイクを用意する必要はない。録音ボタンをオンにし、画面に表示した吹き出し型式の台詞を読めばいい。長い台詞は、分割して録音することができ、プログレスバー型式で読む速度を示してくれるので、タイミングに迷うこともない。ご丁寧にリハーサル機能もあるので、練習してから録音を行うことも可能だ。もちろん、NGが出たら録り直しも可能だ。
録音中は効果音とBGMが流れ、物語の世界に没入することができる。2014年の11月にサービスをスタートしているが、既に約4000人のユーザーがこのアプリでアフレコを楽しんでいる。
ここで「SAY-U」内に表示される映像である「モーションコミック」について説明しておこう。ユーザーは、アプリ内に提示された複数のモーションコミックから選んで、台詞をつける。モーションコミックは、その名が示す通り、元は静止画であるコミックの一部分に動きを付けたり、声優による台詞や効果音、BGMを付けた簡易動画のことだ。登場するキャラクターの口や目だけが台詞に合わせて動くなど、スライドショーの一部に動きを付けたパワポのプレゼン資料を連想するといい。
「SAY-U」に声優として参加せずとも、台詞付きのモーションコミックを視聴者として楽しむこともできる。その場合、一つのキャストに対し複数のユーザーが声優として台詞を吹き込んでいるので、単にモーションコミックのタイトルを選ぶだけでなく、各コミックに好みの声優をキャスティングすることも可能だ。
「ソーシャルアフレコアプリ」という触れ込みの通り、それぞれの声優をハートボタン(いいねボタン)で応援したり、メッセージを送信したりすることができる。そうなると、おのずと声優のランキングができあがる。
原稿執筆時点での一番人気の声優さんは、かなりの数の作品に登場している。その声を聞いてみると、プロも顔負けの本格的な演技で感心する。ユーザー参加型のアプリということで、素人然としたぎこちない棒読みを想像していただけに、そのギャップに驚かされる。声優のタマゴなのだろうか。それとも、プロが享楽的にお忍びで演じているのだろうか。一番人気の人だけでなく、ランキング上位にいる他の声優さんたちもレベルが高く、いずれも本格的な演技をしており驚かされる。彼らの演技をパソコンでも楽しむことができるサイト「SAY-U 最近シェアされたコラボ一覧」もある。
声優やクリエイターを育てるためのプラットフォームにしたい
シフトワン メディアビジネス部リーダーのいとうのりお氏に話を聞いた。「SAY-Uは今後、声優やクリエイターを育てるためのプラットフォームとして運用していきたい」という。なるほど、単なるアフレコお楽しみアプリではなく、インキュベーションとしての役割を担わせようというわけだ。
しかし、「声優を育てる」というのは理解できるが「クリエイターを育てる」というのはどういう意味であろうか。実は、声優だけでなく、モーションコミックについても「漫画家のタマゴなどが、自作のコミックを投稿できるような仕組みを提供する予定」だという。
制作環境や投稿の仕組みについては「まだ発表できる段階にない」ということで教えてはくれなかったが、仮に、下の「ULTRAMAN」のモーションコミックのようなものを作ることができるのであれば、奮起するクリエイターもいるだろうから、活発な投稿が期待できるのではないだろうか。
「SAY-U」が声優やクリエイターを育てるためのプラットフォームというのは理解できるのだが、気になるのは、「SAY-U」のビジネスモデルだ。無料アプリ、ユーザー登録も無料、広告もなし、となると収益はどこから得るつもりなのだろうか。「課金や広告からの収益を検討はしているが、当面の間はこのアプリ単体で収益を追いかけることは考えていない」という。
だが、将来的にこのアプリから人気の声優やクリエーターが育つようなことになれば話は変わる。人気作品のIP(Intellectual Property、知的財産)を管理することができれば「ゲームやキャラクターグッズへのライセンス付与といったビジネスが可能」となり大きな収益が見込める。ただし、すぐに結果の出るビジネスではないので、企業としての忍耐と基礎体力が求められるだろう。
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