「分かる、できる、本当に使える、OpenStack超入門」セミナーリポート〜ユーザー、ベンダーが本音で語った「できること、変わること」〜:特集:OpenStack超入門(8)(1/3 ページ)
2015年6月16日、編集部が開催した「分かる、できる、本当に使える『OpenStack』超入門」。OpenStackユーザーとソリューションベンダーが全方位的にOpenStackの導入・活用の勘所を掘り下げた。
@IT編集部は2015年6月16日、「分かる、できる、本当に使える『OpenStack』超入門」を開催した。ここ数年、国内でも注目が高まっているOpenStackだが、これまでは「本当に企業で使えるのか」といった実用性に対する関心が高く、検討以前の情報収集段階にある企業が大半を占めていた。だが昨今はWebサービス系企業の導入事例が相次いで発表された他、各種メディア、ベンダーによる情報提供もあり、一般の従来型企業でも検討の俎上に上る例が増えている。
そこで今回のセミナーでは「実運用」にフォーカス。「OpenStackをどのように使えばビジネスに生かせるのか」「ビジネスの目的のために、どのような実装方法が最適なのか」をテーマに、活用パターンから実装・活用ノウハウまで、現実的な観点から幅広い情報を紹介した。ここでは基調講演、ベンダーセッション、特別講演の模様をお届けしよう。
アドテクのシステム基盤にOpenStackを採用するサイバーエージェント
セミナーは「公開取材 サイバーエージェント、ヤフーに聞く、OpenStack導入・活用の裏話」で幕を開けた。
アイティメディア エグゼクティブエディター 三木泉がサイバーエージェントとヤフーのOpenStack導入担当者にOpenStackの魅力と課題を公開取材するというスタイル。あらゆる角度からの質問に対し、現場を知るユーザーならではのリアルな本音が飛び出す内容となった。
まず登壇したのは、サイバーエージェント アドテク本部の長谷川誠氏と田上亮氏だ。両氏の所属するアドテク本部は、広告データを統合的に分析するための「DMP(Data Management Platform)」や、効果的な広告配信のための「SSP(Supply-Side Platform)、DSP(Demand-Side Platform)」といったさまざま技術を扱う。それら技術の基盤としてOpenStackを活用しているという。
「現在、システムの8割程度がOpenStackの上で動いています。インスタンスは1000超で、コア数で言うと5000コア。Nova Computeノードは250といった規模になります。運用は、われわれ2人にネットワーク担当の1人を加えた合計3人で行っています」(田上氏)
ゲームやコミュニティサービスで知られるサイバーエージェントだが、そもそも同社の屋台骨を支えてきたのは広告事業だ。周知の通り、広告事業はビッグデータ活用の主軸となるところ。いわば同社ビジネスの最前線をOpenStackが支えている格好だ。
「導入を決めたのは2014年の初頭です。ベンダー各社がOpenStackにコミットし始め、コミュニティも勢い付いてきたころです。もともと弊社は、オープンソースソフトウエア(以下、OSS)を積極的に使う文化が根付いていて、責任を持って業務を行えると分かれば、新しいソフトウエアやミドルウエアでも採用する文化があります。また、そのころにはOpenStack自体もビジネスで実際に“使える”ようになっていました」(長谷川氏)
OpenStackに注目したのは、物理マシンや仮想マシンを基盤として集中管理し、さらにクラウドのオーケストレーションを行うことができるためだ。2014年以前にもOpenStackを社内で利用していたが、当時はまだネットワークの「Neutron」や、ダッシュボードの「Horizon」などのコンポーネントがそろっていないこともあり、採用を見送っていた。それが2014年の「Icehouse」リリースで、きれいなマルチテナンシーができるようになった。サーバー、ネットワークの管理を部門ごとに分離できるようなったことが決め手となり、採用が決まったという。
「壊してやり直すことが自由にできる」
1年ほど運用してあらためてメリットを感じたのは、まず、「お金が掛からないこと」だという。「好きなときに作って、好きなときにテストする。壊して、やり直すことが自由にできます。コミュニティも活発で情報も入手しやすい」と長谷川氏。
スキルが獲得できることもメリットだという。「OpenStackはOSSの塊です。いろいろな知識が求められるし、知識がないとトラブルシューティングに時間がかかります。逆に言うと、OpenStackに触れることがスキルアップにつながります」(同氏)。もちろん、さまざまなマシンを集中管理できるようになったことも大きなメリットだ。現在は仮想マシンのみだが、将来的にはベアメタルサーバーの管理も視野に入れている。
一方、不便な点は、コンポーネント同士のつながりをきちんと把握する必要があることだという。「主要コンポーネントが、相互にどう通信し、情報を渡し合っているかを知らないと、そもそも何をどこにインストールして、どこにコンフィグを書いたらいいかも分かりません。個々のコンポーネントをきちんと設定しないと動かないということも。環境構築にOSSの構成管理ツール『Ansible』を使っていますが、コンフィグが増えたときどう差分を反映させるかについても大きな手間が掛かりました」(田上氏)。
半年ごとのアップデートも負担になるという。サポートは2バージョンまでなので、1年後にはサポート対象から外れる。「ようやく動くようになったら、次のバージョンが出る状況。せめて3〜4バージョンまでサポートしてくれるとうれしい」と長谷川氏。この他、共通ライブラリ「Oslo」の出来や、ロギング回りで、解決すべき課題が残されていることを報告した。
OpenStackに興味を持っている企業に対しては、両者「まずは使ってみることが大切」と口をそろえる。「OpenStackの場合、使ってみないと良さが分からない部分がある。ユーザー事例をたくさん出して盛り上げていくことが将来的にはためになる。エンジニアとしてのスキルアップにもつながるので、ぜひ触ってみてほしい」と長谷川氏。
田上氏は「OpenStackをIaaSプラットフォームと捉えてしまうと損です。そうではなく、規定されたリソースセットをAPI越しに使えるようにするプラットフォームだと考えた方がいい。データベースやバックエンド、Hadoopなど、新しいコンポーネントが出てくれば、それらをつけ足していくことができます」と、今後の拡張性にも期待を寄せた。
実際の適用範囲についても、「本番トラフィックを受けるという用途だけではなく、開発用サーバーや、CI(Continuous Integration)のバックエンドサーバー、数値解析サーバーなど、使い道はいくらでもある」(田上氏)と、企業でのさまざまな利用に耐えられることを訴えた。
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