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東芝はどのように工事進行基準を操作して不正を行ったのかお茶でも飲みながら会計入門(101)(1/2 ページ)

元ITエンジニアで現会計士の吉田延史さんが会計用語や事象を解説する本連載。今回は東芝の工事進行基準による売上計上の不正がどのように行われたのか、イラストを交えて分かりやすく解説します。

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「お茶でも飲みながら会計入門」

連載目次

 会計システムに携わるITエンジニアに、業務知識として会計の基礎知識をお伝えする本連載。前々回は新入社員が知るべき会計用語の基礎を解説し、前回は連載100回記念としてエンジニアだった筆者が会計士にキャリアチェンジしたいきさつをお届けしました。

 今回は、東芝が行った工事進行基準による売上計上不正を解説します。大規模システム開発案件でも採用されている売り上げのルール、工事進行基準とはどういうものなのか、東芝はどのような不正を行ったのかを学びましょう。

 本連載の趣旨については「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。

 大きな話題になった東芝の不正会計問題。複数の問題が指摘されていますが、中でも重要だったのが「工事進行基準」による売上計上です。東芝問題以外でもたびたびビジネスの場面で登場する工事進行基準について、今回は解説します。

本日現在までの特別調査委員会の調査の過程において、一部インフラ関連の工事進行基準案件において、工事原価総額が過少に見積もられ、工事損失(工事損失引当金を含みます)が適時に計上されていないなどの事象が判明しており、また、工事進行基準案件における工事原価総額の見積もりの問題以外にも、さらなる調査を必要とする事項が判明しており、これらの事実関係の詳細調査および発生原因の究明にはなお時間を要する見込みとなっております。


【1】工事進行基準は売上基準の一種

 東芝の不正は、簡単に説明すると「原価の数字を操作して、売り上げを実際より多く見せかけた」ことが問題でした。具体的にどのようなことが行われたのか、順に説明していきましょう。まずは、本来あるべき姿についてです。

 売り上げとは、企業が本業で得た収入を指します。売り上げには計上するタイミングがあることは、連載第97回「税込み108円のコーヒー、売り上げは幾ら?」で解説しました。どのタイミングで売り上げとするかについては、世の中にはさまざまな仕事があることから、会社ごとに適切な統一ルールを定めます。

 工事進行基準は、進捗(しんちょく)率に比例して少しずつ売り上げとして計上していく売上基準の一種で、大規模システム開発や建設工事などで採用されています。

契約金額総額×進捗率=売り上げ

 30億円規模の建設工事を例に取ります。工事は以下のような進行度合で進んでいたとします。

年度 :進捗率

1年目:30%

2年目:80%

3年目:完成

 この場合の年ごとの売上金額は、以下のようになります。

売上総額×進捗率=その年の売上金額

1年目:30億円×30%= 9億円

2年目:30億円×50%=15億円

3年目:30億円×20%= 6億円

 さて、進捗率はどう測定すればいいのでしょうか。

 10階建てのビルを建設していて、3階部分まで完成したら、進捗率を30%とすればいいのでしょうか。

 実際には1階部分に着手する前に基礎工事などがあるので、そう簡単な話ではありません。そこで、一般的には工事原価の割合を進捗率とすることが多いです。まず、完成のために要するであろう原価(材料費、労務費、経費など)を積算し、年ごとにそのうちどれくらい消化したのかを測定します。

 先ほどの建設工事の例で、完成までに要する原価総額を20億円と見積もったとします。1年目の時点で原価が6億円発生していたとしたら、進捗率は、以下のようになります。

その年に掛かった原価÷原価総額=進捗率

6億円÷20億円=30%

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