税込み108円のコーヒー、売り上げは幾ら?:お茶でも飲みながら会計入門(97)
鉄道会社の売り上げは、ICカードにチャージしたとき? そのカードで電車を利用したとき?――知ってるようで知らない「売り上げ」のルールを解説します。
「年商○○億円」という言葉があります。年商とは「1年間の会社の売り上げ」を指します。年商(売り上げ)は会社の規模を計るものさしとしてよく使われますが、どのように測定されるのでしょうか。今回は売り上げについて解説します。
【1】会社がお客さんからもらう代金
大ざっぱに言ってしまえば、売り上げは「会社がお客さんからもらう代金」を指します。コンビニエンスストアを例にとって考えましょう。
例えば、消費者が税込み108円のコーヒーを買えば、税抜き金額である100円が売り上げです。消費税はのちのち納税しますので別です。もちろん消費者との取り引きに限りません。相手が企業でも公共団体でも、お客さんからもらう代金は等しく売り上げです。
ただし、本業とは別のところから臨時収入があった場合などは、売り上げではありません。例えばコンビニエンスストアを営む会社が、保有している株式を売却して利益が出た場合には、売り上げとなりません。
一年間の売り上げを集計した結果は、会社の損益計算書の一番上に「売上高」という項目で表示され、「年商」となります。
【2】もう少し複雑な例
取り引きは、コンビニエンスストアのように、商品が明確で、値段も決まっていて、現金で決済するものばかりではありません。身近な例をもう一つ見てみましょう。
電車に乗るときに利用するスイカやパスモなどのICカードは、あらかじめ一定金額をICカードにチャージして、電車を利用する都度、利用料が差し引かれます。鉄道会社は利用者がチャージした時(=お金が入ってきた時)に売り上げとしてもよいのでしょうか。
答えは「否」です。ICカードは、利用しなかった場合に返金する可能性があります。そのため、ICカードにチャージしただけで売り上げとするのは早過ぎます。「チャージ後」「お客さんが電車を利用した時」に、その「利用料」が売り上げとなります。
【3】売り上げのルールは企業によってさまざま
世の中には実にさまざまな取り引きがあります。会計基準では、以下の二つの要件を両方満たしたときを売り上げとしています。
- 商品あるいはサービスの提供が完了していること
- その結果、現金を受け取れる状況となっていること(その時点で実際に入金されていなくともよい)
これを受けて、各社ごとに自社取引の性質や業界慣行などを勘案して、具体的な基準を定めます。典型例を見ていきましょう。
- IT企業A社は、大規模案件を除いて「検収書を入手したとき」を売り上げとする(検収書入手時点で、サービス提供は完了して、現金を受け取れる状況となっていると考えられる)
- 精密部品メーカーB社は、「製品を出荷したとき」を売り上げとする(出荷した時点で商品の提供が完了していて、現金を受け取れる状況となっていると考えられる)
- 輸出商社C社は、「船積みしたとき」を売り上げとする(輸送条件から船積みした時点で役務提供が完了していて、現金を受け取れる状況となっていると考えられる)
売り上げ基準は、実務的には会社ごとに多少のバラツキがあります。例えばB社は納品日基準を採用することも可能です。ただし、同じ会社の中では統一ルールである必要があります。つまりB社は、製品甲には出荷基準を採るが、製品乙には納品日基準を採用するといったことはできません。
売り上げについてみてきました。売り上げは業績評価にも密接に結び付いていて、決算月には目標達成のために書類の入手をせかされることもあるかと思います。売上要件について誤認のないように売上基準書を作成している会社も多くあります。普段はあまり意識していないかもしれませんが、自分が働いている会社の売上基準書を入手して、見てみるのもいいかもしれませんね。それではまた。
イラスト:Ayumi
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イラストAyumi
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筆者プロフィール
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピューターの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
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