バンナム、スクエニ、東ロボ、MS――人工知能や機械学習はゲーム開発者に何をもたらすのか:CEDEC 2015まとめ(4/4 ページ)
8月26日に開催されたゲーム開発者向けイベントの中から、バンナム、スクエニ、東ロボ、MSなどによる人工知能や機械学習、データ解析における取り組みについての講演内容をまとめてお伝えする。
AI女子高生「りんな」や「Halo 4」の事例に見る機械学習/データ解析環境
先のセッションでは、AIの構成要素として機械学習やデータ解析が挙げられていたが、開発者が機械学習、そしてその先にあるAIを活用するには、現在どのようなツールが提供されているのだろうか。
「CEDEC 2015」において、日本マイクロソフトは機械学習やデータ解析への取り組みを進めたいと考えるゲームの開発者、運営企業に対し、「宝の山を捨てていませんか? クラウドだから簡単! 大量データの分析と将来予測」と題したセッションの中で、同社のクラウドサービスである「Microsoft Azure」(以下、Azure)上で利用できるさまざまなデータ解析ソリューションについて紹介した。
日本マイクロソフト デベロッパー エバンジェリズム統括本部 テクニカル エバンジェリストの井上大輔氏は、冒頭にAzureの現況を説明した。5年前に3つのサービスからスタートしたAzureは、クラウドプラットフォームとしての利点を生かし、継続的な改善と機能強化を続けている。昨年1年間に追加された新機能は500を超え、Azure上に構築されたストレージオブジェクトの数は、全世界で50兆を超えているという。
「Azureでは、先月できなかったことが、今月にはできるようになっているという状況が常に続いている。また、マイクロソフトのクラウドサービスではあるものの、Windows関連のサービスだけではなく、CentOSなどのLinux系に対応した仮想マシンもホストできるようになっており、飛躍的にユーザーを伸ばしている」(井上氏)
データ解析プラットフォームとしての利用事例については、コネクテッドカーを実現するトヨタの「Smart Center」、ならびにXbox向けゲームである「Halo 4」のユーザーログに基づく離脱者低減に向けた取り組みなどが挙げられた。
「バッチ」にも「リアルタイム」にも対応可能なサービスを用意
Azureにおけるデータ解析関連サービスは、ここ1年で大幅に強化されているという。ゲームに限らず、IoTへの世界的な関心の高まりを受けて、あらゆる産業分野でセンサーから取得したデータを蓄積し、その解析結果をビジネスに生かす取り組みが盛んになっているという背景がある。
井上氏は、IoTにおけるデータ解析の取り組みに当たって「2種類」のデータの処理方法について考慮すべきだとする。その二つとは「バッチ処理」と「リアルタイム処理」だ。
「バッチ」とは、日単位、月単位など、ある程度まとまった期間に取得された大量のデータに対して処理と解析を行うプロセスになる。解析結果の活用範囲としては、売上日報のような定型のリポートや、任意の視点で実績を可視化する「セルフサービスBI」、過去の事実から未知の傾向を発見する「データマイニング」、そして、過去のデータを大量に学習することで予測モデルを作成する「機械学習」(マシンラーニング:ML)などがある。
Azureでは、こうしたデータの解析、活用のために必要な機能の全てをサービスとして提供しているという。定型リポートは「SQL Server Reporting」、セルフサービスBIなら「Power BI」や「Excel」、データマイニングなら「SQL Server Analysis Service」、機械学習については「Azure ML」といった具合だ。データの蓄積と処理については、SQL Serverをベースとしたデータウエアハウス「SQL Data Warehouse」や、Hadoopの環境をAzure上で提供する「HDInsight」などが用意されている。
「SQL Data Warehouse」では、コンピュートノードとストレージノードとを個別に管理、調整できる他、リソースの増減が数秒で行える柔軟性、SQL標準との高い互換性、クラウド上とオンプレミスの双方で同等のシステムを提供している点などが「AWS Redshift」などの他のクラウドデータウエアハウスに対する優位性になるとする。またリソース量に応じて「月額で数万から数十万円の価格感で利用できるコストの安さも競争力になる」とする。
近年、特に関心が高まっている機械学習についても「Azure ML」と呼ばれるサービスで提供している。マイクロソフトでは近年、機械学習の応用例として、人物が写っている写真から、その人の年齢や性別を推測する「How-Old.net」や、LINEチャットで女子高生のような応答を返すAIの「りんな」などを公開して話題を集めた。
その他にも、Azure MLによる多くのサンプルが現在「Azure Machine Learning Gallery」で公開されている。「こうした機械学習による環境をオンプレで実現しようとすると、従来は数千万単位の初期投資が必要で、それを使いこなすのにも、運用していくのにも大変な手間が掛かった。Azure MLでは、そうした手間を掛けることなく、本来のデータ解析とモデル作成、それを基にしたサービスの提供といったプロセスを低コストで実現できる」(井上氏)
「今、まさに起こっていること」への対応を可能にするリアルタイム処理
大規模データ処理に当たって考慮すべきもう一つの要素は「リアルタイム」である。これは、過去の特定の期間に収集したデータをまとめて処理する「バッチ」とは異なり、リアルタイムで発生しているイベントの状況から、「サービスで今、何が起こっているか」を検知し、即座に適切な対応プロセスを実行するような処理系である。
身近な例では、大量の売買情報を基にリアルタイムに値付けを行う金融商品やネット広告の売買システム、ネットワークトラフィックのログをベースに、自動的にリソースの拡縮や切り替えを行う監視システムなども、こうした「リアルタイム」の処理系といえるだろう。IoTの時代において「センサーから取得したデータをリアルタイムに処理して、現在起こっている状況に合った対応を行う」ためのシステムには大きなニーズが生まれている。もちろん、多数のユーザーのプレー状況に応じたイベントやシステム対応を行わなければならないネットワークゲーム、ソーシャルゲームも応用分野の一つである。
井上氏に代わって登壇した、日本マイクロソフト デベロッパー エバンジェリズム統括本部 テクニカル エバンジェリストの久森達郎氏によれば、Azure上において、こうしたリアルタイム処理は「Event Hubs」(データの受信、送信)、「Stream Analytics」(リアルタイム処理)、「Power BI」(ビジュアライズ)といったサービスの組み合わせによって実現されるという。
「Event Hubs」では、数千万イベント/秒、GB/秒といった超大規模のデータ受信に対応。解析や蓄積といった以降の処理を受け持つサービスに対して、適切にデータを送信する。「Stream Analytics」では、Event Hubsから送られてくるデータストリームに対して、任意のクエリに応じた処理をリアルタイムで行い、結果を永続的なデータストアや「Power BI」などによって作られたダッシュボードへ出力できる。「デバイスからのデータ収集、その処理、処理したデータの保管、出力や共有といった、ストリームデータ処理に必要な機能全般をエンドツーエンドで提供できるアーキテクチャを持ち、かつそれを低コストで利用できるのがAzureの強み」(久森氏)であるとする。
久森氏は、リアルタイム処理のデモとして、品川の日本マイクロソフト本社内に設置したデバイス(Windows 10 IoT Coreを搭載したRaspberry Pi)でリアルタイムに取得している温度データを、Azure上の「Event Hubs」で取得、「Stream Analytics」で処理し、それをデータソースとして「Power BI」のダッシュボード上でグラフ化するという流れを実際に紹介して見せた。各サービスの動作環境の設定は、基本的にAzureポータル上からGUIを使って行える。今回のデモは約1時間で作成したという。
「リアルタイム処理に関するインフラの経験がなくても、Azure上のサービスを組み合わせて使うことで、こうしたシステムを容易に実現できる。Azureについては約1カ月の無料試用も可能なので、関心があればぜひ試してほしい」(久森氏)
全てはユーザーが楽しめるゲームを開発するために
今回は、昨今注目を集める人工知能を中心に、機械学習やデータ解析などバックエンドの技術に関する四つのセッションを取り上げたが、いかがだっただろうか。さまざまな試みやソリューションを紹介したが、冒頭でも紹介した通り人工知能や機械学習、データ解析といったバックエンドの技術は、ユーザーに新たなUXを提示するための構成要素にすぎない。これらをUI/フロントエンドに生かしてはじめてユーザーが楽しめるゲームを開発することができるのは言うまでもないだろう。
UI/フロントエンドについては、人体の動きをゲームに取り入れたデバイスKinectを持ち、次世代AR/VR体験を提供するHoloLensの提供が期待される、Xbox/Windows 10が注目を集めている。Windows 10のゲーム向け機能を中心に、さまざまなデバイスやグラフィックエンジン、ゲーム開発ツールなど、ゲームのUI/フロントエンドに関する機能やその開発における最新情報についてまとめたリポート記事があるので、そちらも参考にしてほしい。
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