PaaS、Docker、OpenStack――すでにここまで実現できる“変化に強い”インフラの作り方:特集:国内DevOpsを再定義する(3)(1/3 ページ)
これまで開発側の視点で語られることが多かったDevOps。今回はレッドハット クラウドエバンジェリストの中井悦司氏にインタビュー。DevOpsに必要な考え方と仕組みについて、インフラ側の視点で話を聞いた。
市場環境変化が激しい近年、「スピード」が差別化の必須要件であることは多くの企業に浸透した。とりわけ、大量データから顧客ニーズを分析し、迅速にサービス/製品に反映するIoTの波は、自社の強みを生かした新サービスの開発を加速させ、自動車業界におけるグーグル、クラウド業界におけるGEのように、業界構造の破壊までも引き起こそうとしている。
ただ一般に、日本企業は過去の実績を基に改善を重ねていくスタイルが主流。また、そうしたスタイルで多くの企業が成功体験を積み重ねてきた。だが、Webやモバイルが重要な顧客接点となり、ニーズの変化に俊敏に対応できることが不可欠となっている今、「慎重」ゆえに「変化を嫌う」日本企業のスタンスがあらためて問われているといえるだろう。特に、こうした文化が色濃く反映されたITインフラ構築・運用の在り方については、抜本的な見直しが迫られている。
変化が激しい中でも、着実にサービス改善、収益向上を図る仕組みとして、あらためて注目されているDevOps。本特集では主に開発の側面にフォーカスしてきたが、今回はインフラ側に着目し、クラウド、オープンソースソフトウエア(以下、OSS)に深い知見を持つレッドハット クラウドエバンジェリストの中井悦司氏にインタビュー。DevOpsに対する考え方と、PaaSやコンテナー技術といったインフラ側のテクノロジがサービス開発に与えるインパクトを、中立的観点から聞いた。
「ITを戦略的に活用する」ことの具体像が浸透
編集部 これまでDevOpsというと、ITとビジネスが直接的に結び付いたWebサービス系企業のもの、といった認識が目立ちましたが、昨今は製造、金融、流通といった従来型企業でも重要な取り組みという認識が広がってきたようです。中井さんはDevOpsを取り巻く状況をどのように見ていますか?
中井氏 DevOpsに限ったことではありませんが、日本では新しい技術や概念が出てくるたびに、ベンダーやメディアなどが「ITを戦略的に活用する」といった言葉と絡めて訴求する傾向があります。ユーザー企業でも10年以上前から言われ続けてきたスローガンだったのではないでしょうか。ただ、「ITを戦略的に活用する」とは具体的にはどういうことなのか、多くの方にとって想像しにくかったように思います。
しかし近年、ITに立脚してビジネスを成功させる企業がどんどん現れ始めました。Webサービス系企業が中心でしたが、「ITを使ってもうける」という新しいアプローチで成功したケースを目の当たりにして、「そういうやり方もあるんだ」ということに多くの企業が気付き始めたわけです。加えて、市場環境変化はますます速くなり、差別化には「スピード」が不可欠という認識も広く浸透していきました。
こうした中で、「ITをうまく活用すれば、ニーズの変化に追従できる」ということを、具体的な形で知る機会が大幅に増え、実際にそうした取り組みに乗り出す競合他社が増えた。そうなれば、置いていかれないために自社も取り組まざるを得なくなる――これが昨今の状況ではないでしょうか。
悪い言い方をすれば、Webサービス系企業が「スピード」というパンドラの箱を開けてしまったのかもしれません。しかし、世の中がニーズへの迅速な対応を求めている以上、何もやらずに競合他社に負けていくわけにもいきません。DevOpsが注目されている背景として、スローガンとしてではなく「ITを使ってスピーディにビジネスを展開しよう」という認識を、多くの企業が持つに至ったことは自然な流れだと思います。
今度こそ「従来型の考え」からの脱却が必要
編集部 「ITでもうける」というと、確かに多くの日本企業にとっては“新しいアプローチ”だったかもしれませんね。
中井氏 周知の通り、従来型企業ではIT部門がコストセンターとみなされてきたケースが多く、システムは「動いていて当然」であり、「今ある業務を確実に行うためのもの、楽にするもの」にすぎなかったということでしょう。「止まれば責められる」ことから変化を嫌う傾向が強いことも無視できません。
2013年ごろ「DevOps」という言葉が誤解されたことには、こうした要因もあったように思いますね。つまり「“今までと同じこと”を楽にできるか」という観点で各種ツールを見てしまった。例えば企画、開発、運用部門の情報共有を支援するコラボレーションツールなどを見たときも、ビジネスの観点がないままに、「今までのウオーターフォールをどう楽にしてくれるのか」といった観点だけで受け止めてしまう例が多かったのではないでしょうか。
編集部 「今までと同じこと」の延長線上で考えてしまう傾向は、インフラ側のテクノロジにおいてもよく指摘されることですね。
中井 そうですね。例えばOpenStackでも、「ビジネスのスピードを上げるために、システム構成要素を抽象化してセルフサービス型、マルチテナント型のインフラを作り、ユーザーが自由にリソースを調達できる環境を整備しましょう」と言っても、「仮想化統合基盤の置き換え」と見てしまい、「サーバー仮想化と何が違うのか」といった声が多く聞かれます。「スピード」を獲得するために抽象化・自動化を軸とした全く新しい運用管理アプローチが必要という話なのに、各システム構成要素を手作業で管理する従来型の運用管理の延長として捉えてしまう。要するに、ITに対する従来の考え方が根強く作用しているのだと思います。
参考リンク:いまさら聞けないOpenStack〜よく知られた「常識」と知っておくべき「常識」(@IT)
「二つの流儀」が言い訳に?
編集部 前回はガートナーが提唱する「二つの流儀」(バイモーダルIT)の話を紹介しました。DevOpsが今の経営環境に対応するための新しい取り組みであることを理解したり、その適用領域を判断したりする上で非常に分かりやすいと思うのですが。
中井氏 実は弊社もOpenStackやPaaS関連のソリューションを訴求する際に、バイモーダルITの考え方を紹介することがあります。ただ、懸念されるのは、この考え方が言い訳に使われてしまう傾向も見受けられることです。「うちはスピードや柔軟性が必要な部分は少ないから、スモールスタートでやってみます」と言ってスモールのまま終わってしまう。頭では理解していても、変化を嫌う従来の慣習から脱却できないのです。
もちろん、DevOpsやクラウドなどの適用領域を、目的に応じて切り分けることは重要です。しかし、私は企業の方々に「切り分けの比率を見誤ってはいませんか?」と問い掛けたいですね。「“変えるべき部分”は今後次第に増えていく」といった見方がすでに間違いであり、“変えるべき部分”は業種を問わず、今もたくさんあるはずです。にもかかわらず、「変えなくてもいい部分」にばかり注目し、多額のコストを掛け続けている。
今の経営環境を考えれば、サービス/システムの改修は頻繁にできるに越したことはありません。しかも現在は、アジャイル開発やCI(Continuous Integration/継続的インテグレーション)ツールなどによって迅速に作ったサービスを、クラウドやDockerなどを使って“迅速にデプロイ、リリースする”こともできるようになっているのです。多くて四半期に1回だったようなリリースを頻繁に行えるようになり、「企画、開発、テスト、リリース、運用・モニタリング、フィードバック」という一連のサイクルを迅速に回せるようになると、自社のビジネス展開は、競合他社は、自社の業界はどう変わるのか、突き詰めて考えてみるべきだと思います。変化の激しい時代に、固定化したサービス、変えられないインフラほど怖いものはありません。
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