「日本企業に適した」OpenStack導入への二つのアプローチ:OpenStack Summit 2015 Tokyoリポート(2/2 ページ)
日本初開催となった「OpenStack Summit Tokyo 2015」では国内コミュニティや国内企業からも魅力的な取り組みが披露された。中でも「日本市場に最適化」したソリューションで市場創出へのアプローチを開拓した伊藤忠テクノソリューションズの取り組みを紹介する。
深い知見と構築ノウハウを持つ「Solinea」とも協業
CTCが提供するOpenStackソリューションのうち、知見と構築ノウハウなどで支援するのが「Solinea」だ。Solineaは、OpenStackをはじめとするオープンソースソフトウエアを用いたインフラの構築を支援する企業。米国サンフランシスコを本社に、東京とソウルにも支社を持ち、北米、ヨーロッパ、アジア太平洋地区で事業を展開する。
2015年10月26日、CTCと戦略的パートナーシップを締結。日本市場での展開に対し、グローバルレベルの導入ノウハウを提供するコンサルティングパートナーとして協業する。
「Solineaは、2010年から2012年にかけての第二版(Bexar Release)から、OpenStackを展開する初期コントリビューターです。当時から米国やアジアのテレコム企業や製造業におけるOpenStack導入で実績を積んでおり、自動車メーカーやクレジットカード会社、ゲノム研究組織、証券取引所、航空宇宙産業などの多種多様な業界へ、OpenStackによるインフラ構築を支援してきました。SolineaとCTCが協力することで、OpenStackのデザインから実装、サービス、サポートまでを一貫して提供できるようになります。Solineaでは、現状把握から、アーテクチャ設計、実装、導入支援などのサービスを提供しています」(Solinea CEOのフランチェスコ・パオラ氏)
現状把握のプロセスでは、クラウドの戦略策定、ワークロードやユースケースの分析などを行う。アーキテクチャ設計は、クラウドアーキテクチャや要求仕様の定義、PoC(Proof of Concept:新しい技術や概念が実現可能かどうか、試作やデモンストレーションで試し、確認すること)やパイロットデプロイの実施、アプリケーションポートフォリオのアセスメントなどを実施する。具体的な実装フェーズでは、クラウド環境の構築や設定、アプリケーションのマイグレーションといったメニューを提供する他、トレーニングサービスやDevOpsに向けた自動化支援なども実施する。
「アジアの自動車メーカーは、OpenStackとHadoopのプラットフォームを構築してビッグデータ分析を行うことで、車載アプリケーションの開発効率と安全性を高めています。従来2〜3年かかっていたデプロイサイクルを大幅に短縮させており、今では、開発環境だけでなく、テスト環境にもクラウドを適用しています。また、北米のゲノム研究組織では、PoCを3週間で実施し、6週間で最初のワークロードを稼働させることができました。組織内外にある各種クラウドを連携させ、ワークロードを自動化することで、複雑な要件を満たした分析ができるようになっています」(Solineaのパオラ氏)
アジャイル開発とアプリケーションフレームワークがポイント
Solineaのソリューションは、OpenStack環境を構築するものだ。一方で、OpenStack環境を利用するソリューションとしてCTCが提供するのが「CTC Agilemix」や「RACK」となる。続いて登壇したCTC クラウドサービス販売推進部 クラウドエキスパートの中島倫明氏は、国内企業が抱えがちな課題を整理しながら、それらが企業の課題解決にどう生きてくるのかを解説した。
ちなみに中島氏は日本OpenStackユーザ会の会長も務めており、技術はもちろん、国内OpenStackの状況やユーザー企業が抱く悩みにも精通する。現在、顧客からは「OpenStackはとてもよい。だが、すぐには必要ない」という声をよく聞くという。
「日本の伝統的なITシステムと伝統的な管理の仕組みは、しばしば建築業に例えられます。ウオーターフォール型開発が中心で、既存システムを改善していくケースが多い。そのため、自社にはスピードや機敏さは求められていない。──だから、今すぐは必要ない。こんな声が出てきます」(CTCの中島氏)
ウオーターフォール型開発は、部門ごとの縦割りでそれぞれが権限を持つ、日本の組織に適する開発手法でもある。しかし、そうした組織風土の企業へ、いきなりOpenStackでのPoCやスモールスタートを促してもうまくいかないという。ほとんどの場合、PoCのまま取り組みが縮小され、小さい規模でほとんど結果が出ないうちに終了してしまう。このため、最も大切なのは「経営陣に対してOpenStackがもたらす価値を適切に理解してもらう」ことと中島氏は述べる。
そこでCTCはこう提案する。一つは、パオラ氏が紹介したSolineaのアプローチをより大きな規模で適用していくこと。効果を出すことで経営層にも理解させ、組織全体を改革していくことにつなげる。もう一つは、それぞれの部門が管理するアプリケーションごとの障壁を取り除くこと。そこでポイントになってくるのが、組織文化の変革だという。
具体的には、アジャイル開発の方法を採用し、手作業のプロセスをできるだけ自動化することだ。CTCのアジャイル支援サービスであるCTC Agilemixは、そうした取り組みを企業がスムーズに実施できるようにするサービスとして展開する。「ハッカソン」「PaaSの有効活用」「アジャイルとクラウド活用」「継続的なサポート」といった特徴がある。さらに、OpenStackの取り組みでポイントになるのが、OpenStackでのクラウドネイティブアプリケーション開発を支援するフレームワークである、RACKだ。これらを併せて提案することで、「アプリケーション開発の障壁を取り除き、組織文化の変革に向けた取り組みにもつながる」よう支援できるという。
「成功への正しい道は、“組織文化をよく理解すること”です。そして、その文化を変えていくことです。われわれ導入支援側としては、顧客の文化を正しく理解していくことが何より大切。文化の理解と文化の変革を両輪にして、顧客の成功や成長を支援していきたいですね」(CTCの中島氏)
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