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BMWの事例に学ぶ、OpenStack導入とは事業に貢献する「シャドーIT」を拾うことOpenStack Summit 2015 Tokyo(1/2 ページ)

自動車大手のBMWは、どのようにOpenStackを使っているか。「OpenStack Summit 2015 Tokyo」におけるBMWのOpenStack導入担当者が行った講演から、情報システム部門がこれまで業務部門に対して一般的に提供してきたITサービスとは異なる姿を目指していることが分かってくる。

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 独自動車大手のBMWは、2014年よりOpenStackによる社内向けのプライベートクラウドを運用している。「プライベートクラウド」といっても、従来型の業務アプリケーションのための基盤ではない。「新しいアプリケーション」のためのプラットフォームだ。

 「新しいアプリケーション」というと、一般企業にはそんなものはほとんどないと考えがちだが、「シャドーIT」的なニーズを含めると、実はこうした用途は情報システム部門が想像するよりはるかに大きいというのが、OpenStack Summit 2015 TokyoにおけるBMWの事例講演のポイントの一つだ。

 BMWの本社情報システム部門でOpenStackを担当するシニア・ソリューションズ・アーキテクト、アンドレアス・ポシュル氏は、同社におけるOpenStackについて、「社内で受け入れられているということが大きな成果だ」と話した。「社内で大した宣伝もしていないのに、次々に人がやってきて、『とてもいいことをやっていると聞いた。私たちも参加したい』と言ってくる。ユーザーが自分たちからやってくるなど、これまで経験したことがない。従来は情報システム部門からプッシュしなければ使ってもらえなかった」という。

 OpenStack環境は、現在50のプロジェクトで使われている。そのほとんどは、デジタル化プロジェクト関連だという。車をクラウドにつなげることから、さまざまな情報サービスを生み出そうとしている人々だ。「こうした人たちは、完全に違う考え方をしている」。

 規模は、講演時点で物理コアにして400、ストレージは40Tバイトというから、非常に大きいというわけではない。だが、さまざまな部署から、仮想マシン数百個単位で追加的にOpenStackへ移行したいというリクエストが相次いでいるため、ハードウエアの調達を急いでいるという。ちなみに、現在BMWでは、OpenStackの運用を2.5人分の人的リソースで行っている。

 OpenStackの具体的な用途は、継続的インテグレーションのための開発・テスト環境、自動車関連の各種Webサービス、ビッグデータ/分析だという。Webサービスについては、フロントエンドは社外のホスティング環境で稼働しており、バックエンドを社内のOpenStackで動かしている。ビッグデータについては、物理マシンをInfiniBandで相互接続したHadoop専用クラスターが社内で別途稼働しているが、利用準備に時間がかかるといったことがあり、OpenStackが補完的に利用されているという。

 BMWの社内ITは、世界にデータセンターを4拠点持ち、約3800人のIT関連スタッフが、全て本社の情報システム部門の下で働いているという大規模な組織だ。同社ではLinuxとWindows Serverで合計1万2500台のOSインスタンスを稼働。これらは過去の標準化プロジェクトにより、ほとんどが「Xen」あるいは「VMware ESXi」上で仮想化されている。

 BMWがOpenStackを使って構築したプライベートクラウドは、全体と比べればほんの一部にすぎない。従来型の業務システムは含まれていない。「新しいアプリケーション」のためのインフラだ。

「新しいアプリケーション」のためのITインフラとは

 ポシュル氏は、BMWにおけるITを調理オーブンに例えて次のように話した。

 「以前はまきのオーブンで、外のカリッとした(おいしい)ローストポークが焼けた。だが、火をおこすのには時間がかかった。そこで私たちは、ガスや電気のオーブンを導入し、時間を短縮するなど、改善してきた。だが、外のカリッとしたポークを焼いていることに変わりはない。そのこと自体が悪いわけではない。だが、時には皿に全てを用意し、温めるだけにしたいときもある。そこで電子レンジが必要になる。つまり『進化』と『革命的変化』だ」


従来型のITは今後も進化していく必要がある。一方で、従来とは全く異なる環境へのニーズが広がりつつあることも事実だという

 これは、従来型のアプリケーションについては進化を進めるが、一方で新しいアプリケーションについては、これまでと全く異なる仕組みが必要だという判断だ。BMWは、後者のために2011年、プライベートクラウドの構築・運用プロジェクトを開始した。

 当初は自社で開発したクラウドオーケストレーションソフトウエアを使い、セルフサービスポータルをはじめ、フル機能のバックエンドシステムを備えた、全てを自動化する基盤の構築を進めた。しかしこれでは、「格好のいい機能はついていても、結局はガスあるいは電気のオーブンでしかなかった」。また、この基盤は独自のAPIを持っていたが、他のシステムとの連携が難しかった。さらに、自社開発で複雑な仕組みを作ってしまったため、メンテナンスが不可能であることが分かったという。

 そこでOpenStackに着目した。大規模なコミュニティが開発作業を進めているものであるため、自社で作る必要がない。また、業界標準のAPIを備えていて、各種の自動化ツールと連携できる。

 BMWの情報システム部門はOpenStackの採用に当たって、完全にIaaS(すなわち仮想マシン、ストレージ、ネットワーク)のみをユーザー部門に提供すると決めた。また、独自のOpenStackを作るようなことはしないと決めた。同社はSUSEのディストリビューションを選択し、これをそのまま使うことにした。問題や要望があれば、自分たちで直そうとするのではなく、SUSEに依頼するという。

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