「聖火台のあるオリンピック競技場」の作り方:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(25)(1/3 ページ)
東京高等裁判所 IT専門委員の細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は「聖火台のないオリンピック競技場」を題材に、システム開発における抜け漏れのない要件定義手法を解説する。
IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。前回は、正式契約なしに着手した開発の支払いをめぐる裁判を紹介した。今回は、主要な要件が欠落していたために使いものにならなかったシステムをめぐる裁判事例を解説する
聖火台のないオリンピック競技場
2020年東京五輪・パラリンピックのメーンスタジアムとなる新国立競技場の現在の建設計画では、聖火台を競技場の上部などには設置できない可能性があることが3日、複数の関係者の話で分かった。スタンドは木材が使われる屋根で覆われる構造となっており、消防法上、問題となる懸念があるという。
「新国立上部に聖火台設置は困難か」(共同通信 2016年3月3日)
筆者は数々のIT訴訟や修羅場を見てきたので、大概のことには動じなくなってしまった。しかし冒頭のニュースには、さすがに驚いた。まさか、五輪組織委員会も文部科学省も、そしてデザイナーさえも、聖火台のことは「誰かが検討するだろう」と放っておいたとは、現実は小説よりも奇なりとしか言いようがない。
こんなときは、「なぜ見逃したんだ!」「責任者は誰だ?」などの責任論が飛び交うが、ちょっと考えればすぐに気付くような抜け漏れや勘違いを犯してしまうのは、国立競技場の設計だけではなく、どんな仕事でも十分にあり得ることだ。
ことにITの開発現場では、システムの重要な要件を決め損ねたまま開発を行い、後になってから「何だ、これは!」と怒号が飛ぶことが日常茶飯事だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 定形外業務も自主的に調べるのがベンダーの努めです
契約内容に盛り込まれていない「オペレーターがデータベースを直接操作する機能」が実装されていないと支払いを拒否されたベンダーが起こした裁判を解説する - 美人弁護士 有栖川塔子のIT事件簿:そもそも要件定義って何なのよ
ITシステムの要件定義では、対象業務のフローや入出力を決める「業務要件」とシステムが持つべき機能を定める「機能要件」、システムの速度や容量、使い勝手やセキュリティなどを定義する「非機能要件」について、ユーザーとベンダで徹底的に議論することが大切です - 業務要件のモレを無くすためにマークすべき人とは?
ユーザーから要件をヒアリングするときには、単に業務プロセスを確認するだけでなく、オペレーターの振る舞いや属性に着目すると、思わぬ発見があるものです