FinTechで始まる、APIで広がる、他業種連携によるビジネス拡大の可能性とは:特集:FinTech入門(8)(2/2 ページ)
FinTechによって広がりつつある非IT企業によるAPI公開。「Fintechが導くAPIイノベーション 実践企業がノウハウを語る、API活用セミナー」の模様から、FinTechの現状や、APIによる効果の1つである、他業種連携の可能性を探る。
住信SBIネット銀行が語る、FinTech企業とAPIを“公式”接続する重要性
2つ目の基調講演では、住信SBIネット銀行 FinTech事業企画部長の吉本憲文氏が、「銀行から見るFinTechとAPI公式接続の意義」をテーマとして、マネーフォワードとの業務提携事例を基に、FinTechの進展に伴うAPI公式接続の重要性について語った。
「現在、当社はネット時代の銀行“Bank 2.0”のポジションにいる。しかし、今後は、銀行がユーザーニーズを予測してサービスを提案する“Bank 3.0”へとシフトしていくことが求められる。そのためには、FinTech企業とのAPI連携が必要不可欠になる」と、“Bank 3.0”時代に向けて、銀行とFinTech企業との協業が重要なカギを握っていると指摘する。
この取り組みの一環として、住信SBIネット銀行では、2015年8月にマネーフォワードと業務提携を締結。顧客向けに自動家計簿サービスを提供するとともに、「MFクラウドシリーズ」を活用した金融サービスの共同検討、さらには住信SBIネット銀行提供の接続APIを用いたマネーフォワードとの“公式”連携の検討を進めている。セミナー開催後の2016年3月25日に公式連携の開始を発表した(参考)。
「銀行によるAPI公開は、世界的にも先進的な取り組みとなる。当社が提供する銀行機能接続APIを使って、マネーフォワードとの公式連携が実現することで、より便利でセキュアなサービスを開発することが可能になる。具体的には、ユーザビリティの向上、銀行側での顧客情報管理、システム性能の担保、金融犯罪対策といったメリットが得られると考えている」と、銀行がFinTech企業とAPI公式接続を行うことには大きな意義があると訴えた。
API公開は、業種間での相互送客を可能にし、“執事系”モバイルへの進化を加速させる
ベンダーセッションでは、日本アイ・ビー・エム システムズ事業部 クラウド・ソフトウェア事業部 シニアITアーキテクトの早川ゆき氏が、「APIエコノミーがやって来た! 今、必要なコトとは?」と題した講演を行った。
早川氏は、まず「モバイルテクノロジーの進化が、ビジネスに大きな変革をもたらそうとしている」と話す。「初期のモバイルは、シンプルで単機能な“草食系”だった。次に、ビジネスの現場で活用できる“ガテン系”、ビジュアル重視の“社交系”へとシフトしてきた。現在は、ビッグデータ分析によるレコメンドサービスなどを提供する“師匠系”モバイルが実現しつつある。そして今後は、業界を超えたAPI連携により、かゆいところにまで手が届く、最高のユーザーエクスペリエンス(UX)を提供する“執事系”モバイルへと進化しようとしている」(早川氏)という。
続いて早川氏は、「こうしたモバイルの進化に伴い、ユーザーのUXに対する要求も急速に高まっている。これに対して企業では、従来の安定した『エンタープライズIT』に加えて、変化の激しい『デジタルIT』(リテールなどよりB2C向け)にも対応し、加速するユーザーの要求に常にタイムリーに応えていくことが重要になる。ここで、『エンタープライズIT』と『デジタルIT』というスピードが異なる2つのITをシームレスにつなぐために必要不可欠になるのがAPI活用である」と指摘する。
つまり、オンプレミス環境にある「エンタープライズIT」の既存資産を、クラウド環境で開発される「デジタルIT」で素早くモバイル展開するためには、APIの公開・活用が必須条件になるのである。
さらに「APIの公開は、他業種のパートナーとのサービス連携を強化することにもつながり、ユーザーに最高のUXを実現する“執事系”モバイルへの進化を加速させる」と早川氏は語る。
「例えば、“執事系”モバイルでは、銀行から、鉄道・バス・タクシー、保険、人材・介護、旅行・ゴルフ、デパート・小売ストア、レストランなどまで、さまざまな業種のAPIが連携することで、業界を統合・融合したAPIエコノミーが生まれるだろう。今までは実現が難しかった業種間での相互送客が可能になり、銀行にとっては、新たな顧客を創出するチャンスにもなる」(早川氏)と、“執事系”モバイルによるAPIエコノミーがもたらす価値を訴えた。
このように、2つの講演でAPI連携による異業種連携の可能性が示されたが、早川氏の講演にあったように、業種間での相互送客を促進するには、ユーザーに「次に取るべき行動」を促す“執事”が重要となる。では、執事の役割を担うUIは、どうあるべきなのだろうか。現時点での開発のしやすさやユーザーへの普及具合から考えると、マイクロソフトやLINE、Facebookが最近フレームワークやAPIを発表した、「チャットボット」が有力候補なのかもしれない。
特集:FinTech入門――2016年以降の金融ビジネスを拡張する技術
「Finance(金融)」と「Technology(技術)」を足した造語である「FinTech」。その旗印の下、IT技術によって金融に関わるさまざまな業務や処理を利便化し、ビジネスの拡大を図る動きが国内金融業界から大きな注目を浴びている。大手銀行からスタートアップまで「FinTech」という言葉を用い、新しいビジネスを展開するニュースが相次いでいる。言葉が氾濫する一方で、必要な技術について理解し、どのように生かすべきか戦略を立てられている企業は、まだ多くないのではないだろうか。本特集では金融業界がFinTechでビジネスを拡大するために必要な技術要件を浮き彫りにし、一つ一つ解説していく。
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