Dell EMCはどこへ行くのか、今後の企業文化、製品戦略、クラウド戦略を探る:「これは買収ではない」?(2/2 ページ)
EMCはデルに買収されることで、どう変わるのだろうか。企業文化、製品戦略、クラウド戦略の3つの側面から、ユーザーおよび潜在ユーザーにとって意味のあるポイントに絞って、EMC WORLD 2016での取材に基づきDell EMCの今後を探った。
EMCはある意味で開き直っている。EMC WORLD 2016でも、全ての製品発表の前提として、企業のIT投資は、既存の「第2のプラットフォーム」「モード1」に関する投資については今後下降曲線をたどり、新たな「第3のプラットフォーム」「モード2」への投資が増加していくことを認めている。
既存ITへの投資を減らし、新しいITに投資することが求められている。CIOは、既存ITではオフプレミスへの戦略を立てるとともにコスト削減を遂行し、オンプレミスで戦略的なアプリケーションを動かすとともに、オンプレミスあるいはオフプレミスで、新しいアプリケーションの開発を進める必要に迫られている。Dell EMCの存在価値は、これを助けていくことにあるという
そこでEMCは「既存のITに関してはコストを削減し、一方で新たなITに貢献しなければならないというプレッシャーに直面しているCIOたちに頼られる存在として、自社の価値を発揮していく」としている。
今回のEMC WORLDでは、製品戦略面での力点が分かりやすくなってきた。フラッシュとコンバージドインフラだ。この2つは製品戦略の全てではないが、EMC/Dell EMCの価値を顧客に理解してもらうためのベースとして機能していくものと考えられる。
ソフトウェア化やパブリッククラウドへの移行が話題となる一方で、フラッシュとコンバージドインフラは、企業向けハードウェアでは突出して成長が期待される分野となっている。どちらも多数のスタートアップ企業が登場しているが、EMC/Dell EMCは既存インストールベースの更新需要と、多様なニーズへの対応を柱に、この2つの分野で製品を展開していこうとしている。
フラッシュでは、「EMC DSSD」「EMC XtremIO」といった新しいジャンルの製品を販売している同社だが、一方で既存ストレージ製品シリーズのオールフラッシュ版提供にも力を入れている。ハイエンドの「EMC VMAX」に続き、ミッドレンジ/エントリの「EMC VNX」を一新、「EMC Unity」という新たな製品名で、オールフラッシュ版を標準構成に加えた。スケールアウトファイルストレージの「EMC Isilon」では、2017年中にオールフラッシュ版を提供する。後述するコンバージドインフラ/ハイパーコンバージドインフラでも、DSSDとの組み合わせやソフトウェアストレージ製品でのフラッシュの活用を発表している。
EMCは製品によってはTLC NANDを積極的に活用。「フラッシュがHDDに比べてはるかに高価」とはいえなくなってきていることを生かし、企業を対象に「オールフラッシュデータセンター」を推進しようとている。既存ストレージ製品のオールフラッシュ版の提供は、既存ユーザーに「自然な」オールフラッシュ版への移行を促す意図があると考えられる。
統合インフラ製品では、子会社VCEのコンバージドインフラ製品「VCE Vblock」で一定の成功を収めているEMCだが、ソフトウェアストレージを採用したハイパーコンバージドインフラ製品への取り組みがはっきりしてきた。2016年2月にはヴイエムウェアの「VMware VSAN」をストレージに使った「VCE VxRail」を発表した。
一方でEMCは、より大規模なスケールアウト型インフラのためのハイパーコンバージドインフラ製品「VCE VxRack」を発表済みだ。この製品では、基盤ソフトウェアとしてVMware vSphereに加え、OpenStack、ヴイエムウェアのPhoton Platformを提供することが発表された。
EMCは、コンバージドインフラ/ハイパーコンバージドインフラを包括的に提供することで、「既存のIT、新しいITともに、インフラ環境は構築するのではなく、購入と利用に徹するべき」というメッセージを押し出し、これによってコスト削減とスピード向上が図れると訴えていくことになる。
だが、オンプレミスのIT製品は、パブリッククラウドに比べて初期導入コストが目立つため不利だ。EMCグループの製品・ソリューションに関するスポークスパーソン的存在で、現在コンバージドプラットフォーム部門のプレジデントを務めているChad Sakac(チャッド・サカッチ)氏は、同社製品がコスト面での「ユーティリティ化」を必要としていると話す。
「購入コストが大きいオンプレミスのハードウェアと、経費となるクラウドサービスとの間で、TCOはどちらが優れているのか、顧客は比較に困っている。そこで将来、当社の製品を通じて、ユーティリティ的な支払方法と、購入コストを中心の支払方法を選択できるようにし、TCOに関する議論を明確化する必要がある」
複雑なクラウド戦略、「もっときれいな形で伝える必要がある」
上記のように、EMCの企業のオンプレミス向け製品戦略は比較的分かりやすいが、パブリッククラウドに関する戦略は複雑だ。
EMCグループ内ではvCloud AirとVirtustream Enterprise Cloudの2つのIaaSが存在しているが、どちらも広範なクラウドニーズに対応することを目的としていない。特に用途を絞ったサービスを展開しているVirtustreamは、ミッションクリティカルなアプリケーションのホスティングが行えるIaaSに加え、EMC WORLD 2016でEMCストレージと直結するバックアップサービス、およびPivotal Cloud Foundryによる開発環境を提供するサービスを提供すると発表した。
一方、EMCのストレージでは、他の主要なパブリッククラウドに対してデータを拡張、ティアリング、あるいはバックアップできるツールを提供している。さらにEMC WORLD 2016では、「Enterprise Hybrid Cloud」を改めて紹介し、「Native Hybrid Cloud」を発表した。どちらもコンバージドインフラ/ハイパーコンバージドインフラシステムを活用。Enterprise Hybrid CloudではVMware vSphereを載せ、さらに管理製品のVMware vRealize Automationで社内の仮想化インフラとパブリッククラウドを統合管理できるようにしている。一方Native Hybrid Cloudでは、OpenStackやPhoton上にPivotal Cloud Foundryを載せて、ターンキーの開発環境を提供。このPivotal Cloud Foundryを通じて、Virtustream Enterprise Cloud、vCloud Air、AWS、Microsoft Azureへの開発環境の拡張と、統合運用を実現している。
多様なインフラ上で動作するPivotal Cloud Foundry、およびマルチクラウドへの展開が進むネットワーク仮想化技術「VMware NSX」は、EMC/Dell EMCにとって、マルチクラウドの世界における重要な付加価値提供ポイントとしての役割を果たす。
上記の取り組みを踏まえても、EMCおよび将来のDell EMCが、企業のCIOに寄り添うような事業展開をしていきたいなら、パブリッククラウドあるいはクラウドサービスについての考え方を明確に、分かりやすく提示できる必要がある。
そこで筆者は、EMCの事業部門責任者たちがプレスやアナリストからの質問に答える場で、「EMC、および今後のDell EMCにおけるクラウドサービス戦略とは、結局何なのか」と聞いた。
前出のEMCコンバージドプラットフォーム部門プレジデント、Chad Sakac氏は、次のように答えた。
「私たちの観点からすると、『クラウド』とは一つの考え方を複数の形で具現化する言葉だ。クラウドに接続できるストレージ、およびIaaSあるいはPaaSのレイヤで複数のクラウドにまたがるハイブリッドクラウド管理モデルを提供し、さらにvCloud Air NetworkおよびVirtustreamによる、ミッションクリティカルなアプリケーションなどの特定用途を対象としたパブリッククラウドを含んでいる。私たちがAWSなどに対抗しようと考えるべきではないし、そうした考えはばかげている。明確にこうしたサービスを受け入れようとしている。
ここで多少のニュアンスが必要だ。(他社のパブリッククラウドを)受け入れたうえで、複数の戦略的な観点からこれを見ようとしている。
例えば一つの見方は、『こうしたサービスをディスク製造業者と同じように考える』ということだ。おかしな言い方に聞こえるかもしれないが、『CloudPools』(クラウドへストレージ領域を拡張するEMC Isilonの機能)やその他のクラウドネイティブストレージ製品の狙いはここにある。Virtustream(のストレージサービス)を使ってもらえるなら素晴らしい。だがそうでない場合でも、他のクラウドインフラ上で価値を提供することができる。
『一つのクラウドしかあり得ない』『パブリッククラウドだけの世界になる』『一つのハイブリッドクラウドモデルしか考えられない』といった戦略はとらない。こうしたことが起こるとは思わない。
一方、Amazon S3を大規模に利用してきた顧客の多くが、S3互換のオブジェクトストレージ(「EMC ECS」)を社内導入し、大幅なコスト削減を達成できると認識するようになってきた。私たちはECSがベスト(なオブジェクトストレージ)だと思っているし、サービスとして使いたい人には、これを基盤技術として活用したVirtustream Storage Cloudを提供している」(Sakac氏)
このコメントを受けて、エマージングテクノロジー部門のC. J. Desai(C. J. デサイ)氏は、「金融機関などでパブリッククラウドを使えない場合でも、私たちのストレージ製品を社内導入して、クラウド的な経済性を実現できる。一方、拡張性などの観点から、パブリッククラウドを使うことに決めたという顧客もいる。そうしたシナリオでは、Data DomainやIsilonなどの製品がパブリッククラウドへのデータゲートウェイとしての役割を果たせる。必要に応じた選択肢を提供しているつもりだ」と話した。
とはいえ、EMC、そしてDell EMCのクラウド戦略が分かりにくいことは、Sakac氏も認めている。
「必要以上にオープンな言い方になるかもしれないが、特に今後数カ月あるいは数年を考えると、私たちが企業として(クラウドで)何をやっているのかを、もっときれいな形で伝える方法を生み出す必要があると思う。
私たちは非常に包括的なクラウド戦略を持っている。第2のプラットフォームに関してはオンプレミス、オフプレミスでクラウドブローカー機能を果たせる。第3のプラットフォームについてもPivotal Cloud Foundryというベストなクラウド基盤を持っている。あらゆるストレージ製品でパブリッククラウドへのデータ移行を実現している。コスト効率が最も高いオブジェクトストレージ製品も持っている。そしてVirtustreamおよびvCloud Air Networkもある」
だが、これらをもっときれいな形で伝えられなければならないと思う。あなただけではなく、多くの人々から『あなたの会社のクラウド戦略は何だ』と聞かれる。こうした人たちは、一文で完結するメッセージを求めている」
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