納期が遅れているので契約解除します。既払い金も返してください:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(27)(2/4 ページ)
東京高等裁判所 IT専門委員の細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は頓挫した開発プロジェクトの既払い金をめぐる裁判例を解説する。
分割検収後に既払い金の返還をユーザーが求めた裁判
東京地裁 平成25年7月18日判決より抜粋して要約
あるユーザー企業(靴、カバンなどの製造販売業)の基幹システム更改をITベンダーが請け負った。システム開発費用は約8500万円だったが、両者はこれを「基本設計」「詳細設計と制作」「テスト」の3段階の分割検収とし、費用の支払いも検収ごとに行うことで合意した。
開発が進み、ユーザーは「基本設計」と「詳細設計と制作」の検収を行い、その分の費用約3150万円を支払ったが、ベンダーの最終納品が遅れ、当初計画の最終納期を2カ月過ぎても完成しなかった。
このため、ユーザーは、残りの費用の半額2625万円をベンダーに支払い、残金はシステムの完成後とすることとしたが、結局システムは完成せず、最終納期を11カ月過ぎた時点で、契約解除の意思を示すとともに、既払い金の返還を求めた。しかしベンダーは、3150万円については検収が済んでおり、2625万円についても、そこまでの作業を実質的に検収したものであるとして、返還を拒んだため、訴訟となった。
システムは、契約解除の時点で未完成だったが、一部の機能はリリースされ本稼働していた。
「検収したのだから、返還など求められないだろう」と考えるのは早計である。実際、検収後に返還が認められる例もある。
この裁判の場合、8000万円規模で11カ月の遅れというのだから、ユーザーが契約を解除したくなる気持ちは分かる。ユーザーに明確な非がないのに、何ら価値を残さずプロジェクトが終了したのだから、「ベンダーが債務を履行しなかった」との主張にも理はあるといえよう。
一方ベンダーは、「検収は有効であり、返還の義務はない」との主張だ。「契約の目的の達成」か「検収」か、裁判所はどちらに重きを置いた判断を下したのだろうか。
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