未来のコンピューティングに向けてMSナデラCEOが抱く「3つの野心」――de:code 2016基調講演:ITエンジニアの未来ラボ(10)(2/2 ページ)
「de:code 2016」基調講演に、米マイクロソフトのCEOであるSatya Nadella(サティア・ナデラ)氏が登壇。マイクロソフトに起こっている「変化」と、その変化が開発者にもたらす「機会」についてスピーチを行った。
「生産性向上」を再定義する「Microsoft Graph」と「チャットボット」
2つ目の「野心」として挙げられたのは「生産性とビジネスプロセスの再構築(Reinvent productivity&business process)」だ。
「Office 365統合API」は「Microsoft Graph」になり開発が容易に
マイクロソフトの生産性向上アプリケーションといえば「Microsoft Office」と「Office 365」を中心としたビジネスアプリとサービス群がイメージされるが、ここでの「再構築」は「単にデスクトップで使われていたものをクラウドに展開するという意味ではない」とNadella氏は言う。
分かりやすい例として挙げられたのは「Microsoft Graph」だ。以前「Office 365統合API」と呼ばれていたGraphでは、Office 365をはじめとするマイクロソフトのクラウドサービス上に保存されているユーザー、メール、予定表、連絡先、タスクといった多様なデータに対し、REST APIを通じて一元的にアクセスできる。これによって、Office 365の機能を利用したカスタマイズや独自アプリケーションの開発などがより容易になるという。
ボットはWebと同じ驚きと可能性
「生産性」に関しては、オープニングで榊原氏が触れた「Conversation as a platform」も新たなチャレンジとなる。人間が持つ「最も強力」なコミュニケーションインタフェースである「言語」を、あらゆるコンピューティングに適用していくに当たり、Cortanaのようなデジタルアシスタントや「チャットボット」のようなアプリケーションに期待を掛けているとする。
「ボット」との会話によるコミュニケーションが、人とシステムとのインタラクションにどのような変化をもたらすのか。Nadella氏は、その可能性を示す例として日本マイクロソフトが「LINE」上で展開している女子高生AI「りんな」を紹介。
Cortanaが情報検索や実務をこなす「アシスタント」としてのAIだとするならば、「りんな」はユーザーの感情や心に働きかける「エモーショナル」なAIだという。デモでは、入力された短文に対して「りんな」が内容を理解しているような自然な答えを返す様子に加え、機械学習による画像認識機能を使い、「肉」や「清水寺」といった画像のみの情報に対し「お腹が空いた」「清水寺激混み」といった適切なリプライができることが示された。
Nadella氏は、こうしたAIをバックエンドに持つチャットボットに対して「Webという新しいプラットフォームが世に出たときのような驚きと可能性を感じる」とし、「今後、全てのコンピューティング、製品やサービスは、チャットボットのようなユーザーインタフェースを通じ、自然な言語によって利用できる世界が来る」と述べた。
「IoT」から「HoloLens」まで一貫したUXを提供する「Windows 10」
3つ目は「さらなるパーソナルコンピューティングの創造(Create more personal computing)」だ。Nadella氏はあらためて「これは、個々のデバイスのモビリティを問題にしているのではなく、ユーザー体験のモビリティを実現するプラットフォームを作ることを意味する」と述べ、それこそが「Windows 10」の役割だとした。
現在、身の回りにはさまざまなタイプのコンピューティングデバイスが溢れている。IoTのセンサーデバイス、スマートフォン、タブレット、Raspberry Piのようなシングルボードコンピュータ、モバイルPC、デスクトップPC、デジタルテレビ、ゲーム機、そしてマイクロソフト自らが手掛け、SDKの提供を始めたヘッドマウント型MR(Mixed Reality)デバイス「HoloLens」。「これら全てを通じたユーザー体験を、開発者はWindows 10上の開発でサポートできる」とNadella氏は言う。
Windows 10 Mobile(左)とWindows 10(右)の画面。伊藤氏がWOWOWの「Continuum」活用事例をデモ。端末をつなぐことで、Windows 10 Mobile端末はコントローラーとなり、Windows 10端末はビデオプレーヤーとなる
JALも採用。HoloLensの企業活用
HoloLensが標ぼうする「MR」は、現実世界の風景に対してコンピュータで生成されたデジタル情報を重ね合わせ、ユーザーの視覚に提示するタイプのインタフェースだ。この技術は、ゲームやエンターテインメント分野だけではなく「既存の全ての業界に影響を与えるものになる」という。Nadella氏は、日本航空(JAL)が航空機操作や機器修理のトレーニングに「HoloLens」によるMRを取り入れようとしている取り組みを紹介。
「MRを使って、コアとなるビジネスプロセスを変えていこうという取り組みは、この例だけでなく教育、医療、産業機械など、多くの分野で始まろうとしている」(Nadella氏)
「社会の変化を起こす重要な役割を、デベロッパーである皆さんが担っている」
最後にNadella氏は、再び「地球上のあらゆる個人と組織がより多くのことを達成できるようにする」という使命について言及。「その実現に当たって、この国で多くの取り組みを進めていきたい」と、マイクロソフトが日本を重要なマーケットとして認識していることを強調した。
「デジタルによる産業革命のただ中にある現在、日本のデベロッパーは、その技術を使って、今後の日本の産業構造そのものを変える力を持っていると考えてほしい。そこには大きなチャンスと同時に責任もある。技術のみではなく、その技術が社会や経済に、どのような影響を与えるのかについても考えなければならない」(Nadella氏)
Nadella氏は、同社が支援しているNPO団体「iLEAP」と「TOMODACHIイニシアチブ」による、日米の次世代リーダー育成を目指した文化交流活動「TOMODACHI Social Innovation in Seattleプログラム」について触れ、「社会への責任といっても、ただ単に学校にコンピュータを置いたり、貧しい子どもたちにネットを使わせたりすればいいというものではない。このプログラムでは、参加している子どもたち自身が、コンピューティングの力を使って、NPOの運営方法そのものを変えていく取り組みを実際に行っている。コンピューティングが彼らを変え、彼らが社会を変えることに取り組んでいるという事実が素晴らしい。社会の変化を起こす重要な役割を、デベロッパーである皆さんが担っていることを忘れないでほしい」と述べ、基調講演の前半を締めくくった。
次回は、今回紹介しきれなかった基調講演の後半についてレポートする。
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