「PRが増えた=開発生産性が上がった」ではない AI時代のDevExを測る“3つの観点”:Datadog社内の実践に学ぶ(1/2 ページ)
Datadogは、AI時代における開発者体験(DevEx)の測定手法を公式ブログで解説した。AIコーディングアシスタントの普及で、個人のコード生成量は生産性と結び付かなくなっていると指摘している。
AIコーディングエージェントの普及で、開発者が生成できるコードの量は大幅に増えた。だがプルリクエスト(PR)やコミット、コード行数が増えたことを、そのまま「生産性の向上」と捉えてよいのだろうか。この問題に関してDatadogは2026年5月22日(米国時間)、AI(人工知能)時代における「開発者体験」(DevEx)の測定手法を公式ブログで解説した。
3000人を超えるエンジニアを抱えるDatadogでは、AI時代の変化を踏まえてDevExを測る取り組みを進めている。AIによって開発のスピードが上がる中、同社は開発者の生産性をどのような観点から捉えようとしているのか。
「コードの量」では測れない、AI時代の開発生産性
AIコーディングアシスタントの普及により、開発者が短時間で生成できるコードの量は大幅に増えている。しかし、PRやコミット、コードの行数が増えたからといって、生産性が向上したとは限らない。生成したコードに不具合があったり、後から大幅な修正が必要になったりすれば、かえって開発者の負担が増える可能性もある。
コード品質分析ツール「GitClear」が2億行を超えるコードを分析したところ、書いた直後に修正や書き直しが発生する「コードチャーン」は、AIの普及後にほぼ倍増していたという。Datadogは、AIコーディングアシスタントの普及によって、「生成したコードの量」だけでは開発者の生産性を測れなくなったと指摘している。
そこで重要になるのが、DevExという視点だ。コードの量だけを見るのではなく、開発者が利用するシステムやツール、開発のワークフロー、フィードバックを得るまでの時間など、開発を取り巻く環境全体から生産性を捉える。こうしたDevExを改善することで、開発サイクルの高速化やコード品質の向上、運用コストや技術的負債の削減につながり、新しい技術やアイデアも試しやすくなるという。
DevExの評価には、開発生産性フレームワーク「SPACE」(Satisfaction/Performance/Activity/Communication/Efficiency)と同じ研究チームが開発した「DevExフレームワーク」がある。「フィードバックループ」「認知負荷」「フロー状態」という3つの観点から、DevExに影響する25個以上の要因を捉えるものだ。
Datadogはこれに加え、2025年に「AIの導入と影響」という4つ目の次元を社内のフレームワークに追加した。AIコーディングツールの利用頻度を自己申告とテレメトリーで収集し、AIがソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC)の各段階に与える影響をシステムの計測データから測定している。
DORA指標を「北極星」に、指標とアンケートの2本立てで測る
DevExは、開発やリリースの成果を示す指標と組み合わせて見ることが重要だ。GoogleのDORA(DevOps Research and Assessment)指標が、デプロイの頻度や変更のリードタイムなどからソフトウェア開発および提供の成果を測るのに対し、DevExは、その成果を左右する開発環境やワークフローの課題を捉える。つまり、DORA指標で「どのような成果が出ているか」を把握し、DevExで「なぜその結果になっているのか」を探るという考え方だ。
Datadogは、開発・リリースの成果を測るDORA指標を最終的な目標(北極星)に据え、その成果を妨げているボトルネックを特定するための指標も併せて計測している。具体的には、以下3つの観点から開発環境やワークフローの課題を追跡する。
- プロセス効率
- ツール品質
- 認知負荷
さらに年2回、開発者を対象としたアンケートを実施し、数値だけでは分からない開発者の体験や満足度も把握している。
「プロセス効率」をどう測る? 注目する「PRスループット」
「プロセス効率」では、コードの変更をPRとして提出してから、レビューを経てマージされるまでに、どこでどれだけ時間がかかっているのかを追跡する。Datadogは以下の指標を推奨している。
- PR作成までの時間:開発者が変更をレビューに出せる状態にするまでの時間
- レビュー時間:レビュワーが着手するまでの待ち時間と着手から承認までの時間
- マージまでの時間:承認からマージまでの経過時間
- ロールバックとホットフィックスの比率:変更失敗をロールバックで解決した割合と緊急修正パッチを適用した割合
- コードレビューの実効性:問題を本番到達前に発見できているかどうか
AIを活用するSDLCではこれらに加え、チームや組織レベルのマージ速度を示す「PRスループット」の追跡を推奨している。Datadogでは現在、PRの約80%がAI支援によるものだ。AI支援のPRは1件当たりのサイクルタイムがやや短い一方、同時に進む変更の数は大幅に増えた。AIは個々の変更を大きく高速化するのではなく、開発者が複数の変更を同時に進められるようにするという。
PRスループットを見ることで、DORA指標だけでは見えにくいシステムの安定性への影響も把握できる。例えば、AIの活用によって一定期間にマージされるPRの数が10倍になった場合、PR1件当たりのインシデント発生率が変わらなければ、単純計算でインシデントの総数も10倍になる。開発速度を高めながらシステムの安定性を維持するには、PRの増加に合わせて、1件当たりのインシデント発生率を下げる必要があるという。
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