システムの建築家――ITアーキテクト:ITエンジニア職業図鑑(9)(2/2 ページ)
プログラマ、SE(システムエンジニア)、プロジェクトマネジャー――IT業界のさまざまな職業を紹介する本連載。第8回は、要素技術の専門家「ITアーキテクト」を解説する。
ITアーキテクトの仕事
ITアーキテクトの仕事は「要求モデリング」と「アーキテクチャ設計」の2つだ。
要求モデリング
要求モデリングは、ビジネスや業務からの要求を踏まえて、大まかな実現方式を検討する。「過去の取引データを参照したい」「検索機能が欲しい」「5秒以内に検索できないと業務効率が悪い」などの複数の要求を満たす方法を考える。
建築に例えると、要求モデリングは、家に住む人をイメージし、時には話し合い、快適に過ごすためにはどのような設備が必要か決めることである。
アーキテクチャ設計
アーキテクチャ設計は、要求モデリングに基づき、具体的な構成要素とその組み合わせを立案する。
「ハードウェアリソースを有効利用するために、サーバ仮想化技術を使う」「データベースソフトのライセンス(使用許諾権)費用が高いのでオープンソースの利用を考える」などだ。
建築に例えると、「土地が広くないので、3階建てにして階段の下にトイレと納戸を作ってスペースを稼ぐ」などの設計方針を立てる、というイメージだ。
ITアーキテクトに必要なスキルは?
ITアーキテクトは、「アプリケーションスペシャリスト」「ITスペシャリスト」「プロジェクトマネジャー」出身者が多い。専門分野の高い技術スキルを持ちつつ、他の分野にもある程度対応できるスキルが求められるからだろう。
このようなスキルは、複数の職種を経験したり、他の職種との仕事を通じて彼らの考え方を盗み学んでいったりすることで積み重ねていける。システム開発現場での実装経験からは、発生する問題を予見する能力や技術的なバランス感覚が得られるだろう。
ITに関係したスキルさえあればいいというものではない。ビジネスの要求事項を踏まえてシステムの機能と品質を作りこまなければならないため、ビジネスも理解していなければならない。また、関係者の合意を形成するための調整能力・段取り能力などのコミュニケーション能力も必要である。
ITアーキテクトに向いているのはどんな人?
ITアーキテクトには、幅広い視野を持ち、多様な価値観を理解でき、専門外のことについても貪欲に吸収する姿勢を持っている人が向いている。また、分野や立場の異なる人とコミュニケーションをしなければならないため、物事の本質をつかんだ上で、枝葉末節をそぎ落とし、最後に判断する骨太な人が求められる。
日々の生活や仕事で発生する問題に対して、拙速な判断を下すのではなく、「なぜ起きたのか」「偶然なのか」「再現性があるのか」「どうしたら防げるのか」と考えられる人は、ITアーキテクトに向いていると筆者は考える。
ITアーキテクトの1週間
ITアーキテクトは具体的にどのような仕事をしているのだろうか。架空のITアーキテクトの1週間を紹介しよう。
曜日 | 活動内容 |
---|---|
月曜 | 顧客A社のXプロジェクトについて、ハードウェア・ソフトウェア構成案と概算見積を議論。週末の月次定例会に向けて、まとめ方をメンバーに指示出しする |
火曜 | 引き続き、Xプロジェクトについて。将来データベースを拡張することも考えながら、10年後の想定容量とディスク装置の整合性をアプリケーション担当と議論。A社の業務仕様が変更になっても問題なく対応できることを確認する |
水曜 | A社のXプロジェクト担当者と、週末の月次定例会用資料のイメージの刷り合わせと経営層への報告内容を確認する |
木曜 | ITスペシャリストと、Xプロジェクトのセキュリティ強化対策について議論。翌週の週次検討会に向けて資料をまとめるよう、メンバーに指示を出す |
金曜 | A社の月次定例会に出席。経営層にシステムの概要構成案および概算見積の取得結果を報告。昨今のサイバーセキュリティ動向を踏まえ、さらに対策強化することの効果を報告した |
物部康介(ものべ こうすけ)
野村総合研究所 ITアーキテクチャーコンサルティング部 上級システムコンサルタント
1998年国内大手製造業、2000年外資系ITベンダー入社。通信業における大規模システム導入、システム開発・運用に関するコンサルティングなどの経験を経て、2008年に野村総合研究所入社。
現在は、金融機関をはじめ、幅広い業種のシステム基盤を中心に、システム化構想・計画、システムグランドデザイン策定の支援などを行っている。
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