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ブロックチェーンベースの著作権保護サービス「ascribe」は履歴書DBとして使えるのかブロックチェーンの検証現場で何が起きているのか(2)(1/2 ページ)

リクルートテクノロジーズの社内ラボで行っている、主に非金融領域に対するブロックチェーンの活用に向けたR&Dを紹介する連載。今回は、ビットコインのブロックチェーンを「改ざんされない記録台帳」として利用し、「履歴書データベース」として実装した課程について。

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 リクルートテクノロジーズの社内ラボ、ATL(Advanced Technology Lab)で行っている、主に非金融領域に対するブロックチェーンの活用に向けたR&Dを紹介する本連載「ブロックチェーンの検証現場で何が起きているのか」。

 前回の「アーキテクチャから考えるブロックチェーン検証3つのステップ」に引き続き、今回も、現時点で一番実績があるビットコインのブロックチェーンに対して、「履歴書データベース」を素材として「どのように証跡記録を残していくか」に焦点を当て、見ていきます。

 第2回からは、検証システムを作る過程を説明していきます。まずは、本家ともいうべき「ビットコインのブロックチェーンを『改ざんされない記録台帳』として利用し、『履歴書データベース』を実装した検証」について説明していきます。

Web APIを活用したビットコインブロックチェーンの利用

 ATLは、ドイツのベルリンに拠点をおいて、リクルートのネットビジネスに貢献する可能性のある新しいテクノロジーの開拓や検証、若手エンジニアのプチ留学制度などを運営しています。現在は、新規性の高い技術に特化したスタートアップが集まるイスラエルのテルアビブおよびハイファにも対象エリアを広げています。

 ブロックチェーンについても、各所で関連のスタートアップやベンチャーキャピタルの方から情報を集め、まずはブロックチェーンに対するWeb APIを提供しているスタートアップと組んで知見を集めました。対象として、ベルリンでは著作権保護サービスの「ascribe」、テルアビブではブロックチェーン上のデジタル資産をメタ情報で管理する「Colu」が有望であると思ったため、それぞれとの打ち合わせを通して(技術面のみならず、CTOの技術力や相性なども含め)最終的にascribeとの共同研究を選択しました。

ascribeが提供する著作権保護の仕組み

 ascribeは、主にデジタルアート(デジタル化された写真など)の著作権を保護する仕組みをブロックチェーンベースで提供しているスタートアップです。

 大まかな流れとして、著作権保護の実現には以下のステップを踏みます。

  1. アーティストが作品を登録
  2. その作品のコピー数を決定
  3. 期限付きでそのコピーを貸し出す

 これらはascribeのユーザー(貸し出す側、借りる側、共にascribeのユーザー)間で行われ、上記ポイントで「誰が、いつ、何をしたか」について、それぞれ外部から確認可能な形でビットコインのブロックチェーンに証跡を残す(それら記録と対応する利用許諾などの法的文章をそろえる)仕組みとなっています。

 この証跡は、「ごく少量のビットコイン取引履歴を作る」形で残されていきます。その基礎として、そもそもビットコインでは各取引に関して、そのブロックチェーン上に「支払元のビットコインアドレスから支払先のビットコインアドレスへいくら送金」という単純な形で履歴が残されています。さらに、取引ごとに自由な文字列を書き込める部分(OP_RETURN)があります。ascribeでは、これら(支払い元、支払先のアドレス、およびOP_RETURN)を使い、証跡を記録していきます。

 上記で述べたような、ascribeで行われるデジタル作品の登録、作品の所有権の譲渡、そして作品の貸し出しは、それぞれのオペレーションにおいてブロックチェーンに対して図1のように記載されます。


図1 デジタル作品の登録

 図1を見てみると、1つのビットコインアドレス(「ビットコインアドレスA」)から複数のビットコインアドレス(「ビットコインアドレスB」「ビットコインアドレスC」)に送金されています。

 そして、トランザクションのOP_RETURNの部分を参考に、ビットコインアドレスAがFederation Wallet(ビットコインをプールしているアドレス)、ビットコインアドレスBが「デジタル作品のオーナー」、ビットコインアドレスCが「デジタル作品のハッシュ」だということが分かるようになっています(BとCをブロックチェーン上のみで区別するのは登録の段階では難しくもあります)。


図2 デジタル作品の所有権の譲渡

※実際は、デジタル作品Aのオーナーか新たなデジタル作品を登録した場合、その(オーナーの)ビットコインアドレスはビットコインアドレスBとは別のものになります。ascribeでは登録したデジタル作品とビットコインアドレスをひも付けるような形で管理しており、図2で言うところのビットコインアドレスBは「デジタル作品のオーナーと、デジタル作品そのもの」という2つの側面を持っています。


図3 デジタル作品の貸し出し

 このように登録、譲渡、貸し出しそれぞれのオペレーションで新しいビットコインアドレスを登録、送金を行いトランザクションに記録し、さらにそれらのアドレスをascribeが管理するエンティティ(デジタル作品や、所有権の譲渡、貸し出しなどのデータ)とひも付けて管理する形になっています。

「履歴書データベース」の流れ

 今回検証のために開発する履歴書データベースは以下のような流れで求職者が経歴を登録し、学校や企業などがそれを承認し、承認された経歴を就職希望先の企業に公開する形をとっています。

  • [1]求職者が自身の経歴を登録し、企業に対して承認の要求を行う
  • [2]求職者が所属していた学校および企業が受け取った要求を承認する
  • [3]求職者が就職を希望する企業に対し、所属していた学校および企業に承認してもらった経歴を公開する
  • [4]就職を希望する企業側が求職者に公開してもらった経歴を閲覧する

図4 履歴書公証データベースの流れ

“経歴”を“デジタル作品”と見立てた際のascribe APIの使いどころ

 履歴書データベースでは“経歴”そのものを1つのデジタル作品と見立て、オペレーション実行時に以下に示すように求職者や企業の実際の行動に即したAPI「Register」「Transfer」「Loan」を実行するようにしています。

  • [1]求職者が承認を要求した際に、そのデータをローカルのデータベースに保存するのにとどめている。あくまで、卒業証明や在席証明を発行するのは企業であり、この経歴自体も承認するまでは虚偽の可能性があるため、この段階ではascribeのAPIは実行せず、ブロックチェーンにも記録はしていない
  • [2]学校および企業が経歴の要求を承認する際に、ローカルのデータベースにデータを保存するのと同時にascribeのAPI「Register a Piece」「Transfer Edition」を実行。画像と経歴のデータをascribeに登録し、(それのコピーを)求職者に譲渡するという行動を記録している
  • [3]求職者が承認済みの経歴を就職希望先の企業に対して公開する(就職希望先の企業が経歴を参照できるようになる)ため、ascribeのAPI「Loan Edition」を実行し、閲覧許可の行動を記録している
  • [4]ascribeのAPI「List Loan Editions」を実行し、求職者に公開してもらった経歴情報を参照する。ここも参照のみになるため、ブロックチェーンには何も記録していない


ブロックチェーンに記録するオペレーション[2][3]に注目していく

 上記の流れについて、ascribeのデジタル作品を管理するAPIとのマッピングに注目すると、以下のような動きになります。

 なお実際には、ここに表記したAPI以外も実行はしていますが、今回はブロックチェーンにどのように記録されているかにフォーカスするため、ブロックチェーンへの記録を行っていない[1]と[4]は割愛し、以降では[2]と[3]のオペレーションで、ブロックチェーンにどのような記録がなされているかを中心に確認していきます。

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