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AGIは完成せず、AI失敗事例が続出――スタンフォード大教授が語る“幻想から冷める1年”2026年のAI界隈を予測

スタンフォード大学は2025年12月15日、同大学のAI専門家らによる2026年のAIトレンド予測を発表した。コンピュータサイエンス、医学、法学、経済学の各分野の専門家が、2026年のAI動向を予測している。

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 スタンフォード大学のHuman-Centered AI(HAI)研究所は2025年12月15日(米国時間)、2026年にAI(人工知能)分野で何が起こるのかを予測する記事を公開した。同大学の専門家らは、1つの見解で一致した。それはAIの「伝道」(evangelism)の時代から、実用性を厳密に問う「評価」(evaluation)の時代へと移行しつつある、ということだ。

 2026年は、「AIに何ができるか」という期待ではなく、「どれだけうまく、どの程度のコストで機能するか」という、より厳密にAIに向き合うための問いが必要になってくる。スタンフォード大学HAIのコンピュータサイエンスや医学、法学、経済学の専門家が、各分野で何が起きるのかを語った。

AGIは実現せず、AI失敗プロジェクトが続出?

 HAI共同ディレクターでコンピュータサイエンス教授のジェームズ・ランデイ氏は、「2026年にAGI(汎用人工知能)は実現しない」と予測する一方、AI主権が大きく加速すると述べた。各国がAIプロバイダーや米国の政治システムからの独立を示そうとする動きが強まるという。2025年には世界中で大規模データセンターへの投資が見られたが、2026年もそのトレンドは継続する見込みだ。

 ランデイ氏はまた、プログラミングやコールセンターなどの特定領域を除き、多くの企業がAIによる生産性向上をまだ示せていないと指摘。失敗したAIプロジェクトについての報告が増えるだろうと予測している。技術面では、チャットbotを超えた新しいカスタムUI(ユーザーインタフェース)を備えるAIの登場や、より小規模で高品質なデータセットとモデルの開発が進むとした。

科学・医療分野におけるAI活用の展望

 生物工学教授のラス・アルトマン氏は、科学と医療における基盤モデルの可能性に注目する。開発者は全てのデータタイプを統合する「早期融合」(Early Fusion)を構築することもできるし、モダリティー(情報の形式・種類)ごとのモデルを統合する「後期融合」(Late Fusion)を構築することもできる。2026年には、どちらがより良いアプローチになるのか、その優劣がより明確になる可能性があるという。

 また科学研究においては予測精度だけでなく、モデルが導き出した結論の根拠が不可欠であるため、ニューラルネットワークの内部構造やアテンション(注目)の解析を通じて、AIの「ブラックボックス」を開こうとする研究への関心が高まると予測している。

 一方、放射線医学教授のカーティス・ラングロッツ氏は、「『自己教師あり学習』により医療AIモデルのトレーニングコストが劇的に低下した」と述べ、大規模な医療データで訓練された新しい生物医学基盤モデルが登場する「ChatGPTモーメント」(実験的な存在から実用的な存在へと一気に転換するような瞬間)が近づいていると予測した。

法務・経済分野ではより高度なユースケースが求められる

 法学教授のジュリアン・ニャルコ氏は、法務サービス分野において厳密性とROI(投資利益率)が重視されるようになると予測する。法律事務所や裁判所におけるAIの活用では、もはや「書けるかどうか」ではなく、「どの程度の精度で、何について、どのようなリスクで」という点が問われるようになるという。またAIが単純な文書管理の部類を超えて、複数文書の推論や論点整理といった高度な業務に取り組むようになると予想する。

 デジタル経済研究所ディレクターのエリック・ブリニョルフソン氏は、2026年にはAIの経済的な効果について、より厳密で精緻な測定・評価が行われるようになるだろうと予測する。タスクや職業レベルごとにAIが「生産性を向上させているか」「労働者を置き換えているか」「新しい役割を創出しているか」を追跡する「AI経済ダッシュボード」が登場する見込みだという。

人間とAIの関係について長期的な視点から考える必要性

 コンピュータサイエンス助教のディーイー・ヤン氏は、短期的なエンゲージメントや満足を得るだけの段階を超えて、人間とAIの相互作用が「利用者の長期的な成長と幸福をどのように形成するか」を優先する必要があると指摘する。これを実現するために、将来的には「人間の能力を拡張するAIシステムの構築が、開発プロセスの最初から組み込まれるべきだ」としている。

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