自動運転技術とは――課題、安全基準レベル、ロボットタクシー、その現状と未来:ロボットをビジネスに生かすAI技術(8)(2/2 ページ)
Pepperや自動運転車などの登場で、エンジニアではない一般の人にも身近になりつつある「ロボット」。ロボットには「人工知能/AI」を中心にさまざまなソフトウェア技術が使われている。本連載では、ソフトウェアとしてのロボットについて、基本的な用語からビジネスへの応用までを解説していく。今回は、人工知能によって、人が運転しなくても自律的に動く自動車で使われる自動運転技術について。
無人運転車の現状と課題
Googleの自動運転車の報道が日本でも大きく取り上げられていますが、これは一足飛びにレベル4を目指す無人カーで、「セルフドライビングカー」と呼ばれます。米スタンフォード人工知能研究所でディレクターを務めた後、Googleの技術者になったセバスチアン・スラン氏とGoogleストリートビューのチームが協力して進めています。
米国では2011年、ネバダ州で初めてこの無人自動車の公道走行実験が許可され、その後、カリフォルニア州やフロリダ州でも実験が進められています。大まかな走行はGPSとGoogleマップ等の地図を参照するものの、各種センサーやレーザースキャナ等で、他のクルマや歩行者、信号機、各種障害物等、クルマ周辺の状況をリアルタイムで検知・判断した上で自律走行します。
欧州では2016年夏に、オランダでレベル4の自動運転のシャトルバスの運行が予定されています。無人のシャトルバスは、特定のルートを巡回するため、特定の道路のみ優先や専用レーンを整備することで高い安全性が確保しやすく、駅などの公共交通機関と施設などを結ぶ需要は大きいため、日本でも早い実用化を望む声が高まっています。
Googleのセルフドライビングカーやオランダの無人シャトルバス等、レベル4の自動運転車で最も大きな課題となっているのが悪天候によるセンサー等の誤動作や誤認識です。人間の運転時も同様ですが、雨、雪、霧などの天候不良によって著しくセンサー類の認識性能が低下することによる事故が懸念されています。そのため、無人シャトルバスの場合は、悪天候や夜間の走行は運行が行われない見込みです。
ロボットタクシーと無人シャトルバス
自動車と言えば、トヨタやホンダ、日産、富士重工(スバル)等の専業メーカーが製造販売を行ってきましたが、Googleが自動運転車を発表していることもあり、今後は新興メーカーや、これまで自動車とは無関係な分野の企業が新規参入する可能性があります。
例えば、パソコンやスマートフォンでは、Appleを除いては、OSメーカーと機器メーカーがはっきりと別れています。パソコンではOSのMicrosoftのWindowsが中心になり、ユーザは端末機器をNEC、富士通、レノボ、Acer、パナソニックなどから選択するといった構図です。スマートフォンでは同様にGoogleのAndroidを中心に、端末をソニー、サムスン、LG電子、ASUS、NEC、パナソニック等から選びます。
自動運転車の産業地図がどう変化するかはまだ予測できませんが、同様に操作を制御するメーカーとクルマ自体を製造するメーカーが異なる構図になる可能性もあります。
「Robot of Everything」をうたい、人が運転するあらゆる機械を自動化し、安全で楽しく便利なライフスタイルの創造を目指しているZMP社は、人型ロボットとロボカー技術においてたちまち注目される企業になりました。2014年に半導体世界最大手の米インテルが出資したほか、ソニーやコマツなども出資や共同開発を発表しています。
大きく注目されるきっかけになったのが「ロボットタクシー」です。サービス実現に向け、ネットサービス大手のディー・エヌ・エー(DeNA)と合弁で「ロボットタクシー株式会社」を設立し、名古屋や神奈川県藤沢市で実証実験を行っています。
藤沢市の実証実験(2016年2月)では、一般公募により選ばれたモニターが、実際の買い物シーンを想定したロボットタクシー車両による送迎サービスを疑似体験するデモが行われました。ドライバーが乗車し、湘南ライフタウンの中央けやき通りのみ自動運転を行うという区間限定のものでした。
現在、自動運転タクシーが想定している利用例としては、スマートフォンなどで利用者が出発地と目的地を指定して呼び出し、無人のタクシーが迎えに来て最短時間のルートで目的地まで送ってくれるというものです。高齢化社会や過疎化が進んでいる、交通量の少ない地方では特に、無人タクシーの実現に期待する声が高まっています。
同様に無人シャトルバスの需要も見込まれています。一日数本しかないバス区間を無人シャトルバスによって活性化できないかという考えです。ソフトバンクは「先進モビリティ」と合弁で、自動運転技術を活用したスマートモビリティーサービスの事業化に向けた「SBドライブ」社を2016年3月に設立しました。
先進モビリティは、東京大学生産技術研究所 次世代モビリティ研究センターの技術を基に自動運転技術を軸とした先進的なモビリティー社会の実現を目指す企業です。更に、ソフトバンクの通信基盤やセキュリティ、ビッグデータ分析・利用などのノウハウと連携し、日本最大級のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」のコンテンツやPRとの連携によるシナジー効果により、いち早く自動運転車の実現を目指します。
既に北九州市と、自動運転技術を活用した地域密着型のコミュニティーモビリティーの社会実証・実用化に向けた連携協定を締結し、具体的には、自動運転の走行実験、住民が使いやすい仕組みの構築、地域事業者とのシナジー実現、学術の振興および高度人材の育成等を行います。主に巡回バスやシャトルバスのような特定ルートを定時走行する公共車両の実現から着手し、まずは住民のニーズや公共機関網に関する調査研究から着手し、配車アプリの開発や自動運転車の走行実証を経て、2018年以降に実用化を目指しています。
図解入門 最新 人工知能がよーくわかる本
神崎洋治著
秀和システム 1600円(税別)
2016年3月、Googleの開発した人工知能(AI)が、囲碁のトップ棋士を破ったというニュースが流れ注目を集めました。実はいま、囲碁に限らず、さまざまな分野で人工知能の技術が急速に導入されはじめています。本書は、人工知能の関連技術、特に機械学習やニュートラルネットワークの仕組みなどの基礎知識や最新情報をわかりやすく解説します。AIの主要プレイヤーであるIBMやMicrosoft、Googleなどのビジネスへの活用事例も紹介します。
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