SPARC/SolarisのエンジニアドシステムであるSuperClusterとMiniClusterにはどんなメリットがあるの? SPARCクラウドって何?:「SPARCやSolaris 12は開発中止なんですか?」
SPARC/Solarisの“新発見”を紹介する「SPARC/Solaris World」。今回は、米国のオラクル本社からクラウドサービスとエンジニアドシステムのプロダクトマネジメントを担当するシニアディレクターのマイケル・パルメータさんが来日したので、SuperClusterやMiniClusterについて、あらためてお聞きし、SPARC/Solarisのプラットフォーム戦略と将来像についても聞いてきました。
来日したオラクルのクラウドサービス&エンジニアドシステム担当に話を聞きました
こんにちは。日本オラクルの吉田千華(よしだ ちか:写真左)と松崎穂波(まつざき ほなみ:写真右)です。
今回は、米国のオラクル本社からクラウドサービスとエンジニアドシステムのプロダクトマネジメントを担当するシニアディレクターのマイケル・パルメータ(Michael Palmeter)さんが来日したので、日本オラクル 執行役員でクラウド・システム事業を統括する山本恭典が、Oracle SuperCluster M7(以下、SuperCluster)やOracle MiniCluster S7-2(以下、MiniCluster)について、あらためてお聞きし、SPARC/Solarisのプラットフォーム戦略と将来像についてもお聞きしています。
グローバルでのSuperClusterの実績と採用理由
山本 まずは、今回パルメータさんが来日された目的について、教えてください。
パルメータ 新世代のSPARCサーバとOracle Cloudに対して、日本市場にどのような要望があるのかを確かめるために来日しました。
山本 あらためてSuperClusterの概要をお話しください。
パルメータ われわれのお客さまの多くは、ミッションクリティカルなビジネスアプリケーションを動かす必要があり、高パフォーマンスと高信頼性、セキュリティを担保するために堅牢なプラットフォームを求めています。SuperClusterは、セキュアなプライベートクラウドを必要とする大規模なエンタープライズ系のお客さまに向けて、セキュリティや効率性が高く、スケーラブルな運用ができるように開発しています。
山本 グローバルでは、どのようなお客さまがSuperClusterを利用されていますか。
パルメータ 金融機関、公益企業、電力、通信事業などの大規模なお客さまが多く、SAPや「Oracle E-Business Suite」(EBS)などのERP系、Oracle Databaseなどのミッションクリティカルなアプリケーションを利用するプラットフォームとして活用されています。
例えば、金融系では、インドのHDFC銀行が「Oracle FLEXCUBE」を使って、約3500万人の顧客にリテールバンキングのソリューションを提供しています。電力系では中東のお客さまやカナダのハイドロ・ケベックなどが、SuperClusterを活用されている代表的な事例ですね。ハイドロ・ケベックは、カナダの一部の地域で利用され始めているスマートメーターのアプリケーションをエンドユーザーに提供するプラットフォームとしてSuperClusterを利用しています。また、アメリカン航空では、マイレージプログラムのWebアプリケーションでSuperClusterを採用しています。さらに、メディア業界の事例としては、メキシコのスカイというケーブルテレビ会社でSuperClusterとMiniClusterを使って、SAPを利用しています。
最も身近な例としては、われわれオラクルが社内でSuperClusterを使ってERPを利用していますね。
山本 SuperClusterを採用されるお客さまは、何を決め手に採用し、SuperClusterにどのようなメリットがあると考えられているのでしょうか。
パルメータ SuperClusterを採用されるお客さまは、非常に膨大なデータを持ち、大規模なデータベースを運用されており、ミッションクリティカル対応や高いパフォーマンスを必要としています。また、従来のような高コストなストレージを使うのではなく、より低コストで、パフォーマンスや信頼性が高く、スケーラブルなシステムが求められているのです。
演算能力が高いプロセッサを搭載しており、ソフトウェアの運用効率が高いということもSuperClusterの特徴の1つです。SuperClusterではSPARC M7プロセッサとOracle Exadata Storage Serverを搭載しているので、非常に演算能力が高く、処理能力が速いストレージ技術によって、アプリケーションやデータベースを処理する能力が高くなります。そのため、必要となるミドルウェアの数を削減でき、ライセンスコストや運用コストの低減につながります。加えて、データセンターのスペースの縮小、省電力など、さまざまなベネフィットをお客さまに寄与できます。
SuperCluster セキュリティの特徴
山本 セキュリティ面において、SuperClusterはどのような特徴がありますか。
パルメータ まずはプロセッサの話からです。SuperClusterはSPARC M7プロセッサを使っていますが、このプロセッサは「暗号化アクセラレーション」「Silicon Secured Memory(SSM)」という2つの特徴的なセキュリティ技術を持っています。
また、SuperCluster内のアプリケーションサーバ、データベースサーバ、ストレージは、「InfiniBandパーティション」とデータ暗号化で内部接続されているため、非常にセキュアです。加えて「Solaris Immutable Zone」(Solaris 不変ゾーン:読み込み専用仮想マシン)など、Solarisが持つセキュリティ機能も利用でき、管理者権限を利用した乗っ取り攻撃や踏み台攻撃、さらにはバッファオーバーフロー攻撃からも守ることが可能です。
SuperClusterは、エンジニアドシステムであるため、「アプリケーションからデータベース、ストレージまでのシステム全体でセキュアであるか」を検証することができ、各コンポーネントに適宜パッチが提供されるため、常にセキュアで堅牢性を保つことができ、ツールを使ったセキュリティのカスタマイズも可能です。さらに、コンプライアンスレポートを自動生成するツールも提供しています。
山本 セキュリティをカスタマイズするために、オラクルはどのような機能を提供していますか。
パルメータ 例えば、コンプライアンス順守のためには、決済システムにPCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard)に準拠したカスタマイズを行う必要がありますが、われわれはそのためのツールを提供しています。セキュリティの要件やレベルは、業界や業種によって異なりますが、各企業や団体のシステムの権限設定やメンテナンスをオラクルは支援しています。
米国国防総省や連邦政府のような非常にハイレベルなセキュリティを求める機関に対しても、DISA STIG(Defense Information Systems Agency Security Technical Implementation Guide)に準拠したセキュリティ対策を施せるように支援するなど、要件によって、暗号化アルゴリズムやキーの長さ、通信ポートやプロトコルなどを適切に設定できるようにしています。SuperClusterは、監査役が監査に必要なところだけを見られるように設定するなど、細かな権限設定を行える点も評価されています。
SuperClusterでは、PCI DSSやDISA STIG、HIPA(Health Insurance Portability and Accountability Act)、SOX法、クラウドビジネスに必要なSOX2、CIS(Center for Internet Security)などのさまざまな標準規格に準拠でき、何百ものセキュリティコントロールを提供しています。
シンプルにセキュアな導入が行えるHyper Converged Infrastructure MiniCluster
山本 SuperClusterに加えて、新たにMiniClusterが登場してきましたが、どのような製品なのでしょうか。
パルメータ MiniClusterは、SuperClusterよりも、さらにセキュアなシステムです。SuperClusterは、お客さまがさまざまなチューニングを行って利用するのに対し、MiniClusterは「Virtual Assistant」という機能によって、システムやセキュリティの要件に合わせたサーバ構築を自動的に行える点が大きな違いとなります。構築を自動化することによって、さらに高いセキュリティを担保できます。
自動化ツールであるVirtual Assistantは、仮想マシンのプロビジョニング、OSやデータベースのインストール、デプロイといった、全てのライフサイクルでインフラ管理者を支援します。パッチの適用もVirtual Assistantからクリックすることで簡易に行えるので、非常に簡単に運用できると考えて設計しています。SuperClusterと比較して小規模の運用に適していますが、コンピュートリソース当たりのパフォーマンスはSuperClusterと同レベルとなっています。使いやすさや自動化によるメリットが、MiniClusterの特徴です。
山本 SuperClusterにも、Virtual Assistantが搭載されていますよね。
パルメータ SuperClusterとMiniClusterは、共通する技術を利用できるようになっています。例えば、SuperClusterの「Virtual Tuning Assistant」は、MiniClusterでも利用できるようになりました。同様に、Virtual Assistantは、現在SuperClusterでも利用できるようになっています。
ただし、SuperClusterで利用できるVirtual Assistantは、MiniClusterよりも機能が制限されています。MiniClusterのVirtual Assistantは、仮想マシンやデータベースのデプロイ、ライフサイクルの管理など多くの業務を行えますが、SuperClusterのVirtual AssistantではIaaSのサービスが中心で、仮想マシンやストレージの割り当てなどは行えますが、データベースのデプロイやパッチ適用の自動化には現在は対応していません。今後はSuperClusterのVirtual Assistantでも、これらの機能を利用できるようにする予定です。
山本 MiniClusterではなく、格安なサーバとNASを使った方が低コストでシステムを導入できるのではないでしょうか。
パルメータ MiniClusterは、設計思想そのものが「シンプル化」を目指したものです。最少のコンポーネント数で構成できるように効率良く設計され、アプリケーションやデータベースの性能を最大に発揮できるように最適化されています。
オラクルの他の製品を見ても、これだけの高可用性で、これだけのメモリ、コア、ストレージを搭載した製品としては破格な価格で、お客さまに十分なコストメリットの魅力を提供できると考えています。複数のベンダーから構成した場合、各レイヤーのハードウェアやソフトウェアの整合性を担保するためには大きなコストが掛かります。また、Virtual Assistantによって、管理者の手間を大幅に削減できるため、運用コストの面でも大きなアドバンテージがあると思います。
ハードウェアだけをとってみても、Oracle製品で同等のX86サーバやストレージを購入するのと比較して、同等か若干下回る価格を設定していますので、単体としてもお得ですし、自動化やライフサイクルを支援するVirtual Assistantがある分、さらにお得になりますね。
SPARC/Solarisのプラットフォーム戦略
山本 2017年1月13日にSPARC/Solarisの新しいロードマップが出ましたが、SPARC/Solarisの将来像についてお話しください。
パルメータ オラクルとしては、今後はクラウドに注力していくことが明確になってきています。クラウドビジネスを加速化するために、組織や業務プロセスの変更も行っています。現在は米国だけですが、2016年10月に「SPARC IaaS」というクラウドサービスを始めており、今後数カ月で欧州やアジア、日本でも展開していく予定です。
SPARCクラウドのミッションは、オラクルのお客さまに対して、最もシンプルでリスクやコストを最小に抑えながらクラウドを実装していただくことだと考えています。ただし、全てのお客さまが業務アプリケーションやデータベースをすぐにパブリッククラウドに移行できるわけではありません。セキュリティの要件や「規制によってデータを国外に置けない」「データをやりとりするのに十分なネットワークが整備されていない」などの理由でパブリッククラウドに移行できないケースもあります。Oracle Cloudをお客さまのデータセンターで利用する「Oracle Cloud at Customer」というサービスもSPARCクラウドとして提供予定です。これによって、オラクルのデータセンターでOracle Cloudを使っているのと全く同等の機能を使用することが可能になり、管理をオラクルに任せることもできます。
クラウドでは、ソフトウェアの開発を日々行い、機能追加していくことが可能ですが、われわれのSolarisもクラウド時代に合わせた開発に変えてくことに決めました。メジャーバージョンアップではなく、継続的な開発モデルに合わせて「Solaris 11.next」という形でリリースしていきます。これは、マイクロソフトのWindows 10やアップルのOS Xと同じ考え方です。
新たなSPARCサーバでは、M7の後継プロセッサが搭載され、さらにその次のプロセッサの開発も50%くらい進んでいます。また、クラウドのインフラにS7プロセッサを投入することが現在のわれわれの最も大きなテーマで、市場の反応を見ながら次世代のS7プロセッサのニーズがどれくらいあるのかを考えながら展開していきます。S7プロセッサは低コストで高パフォーマンスであるため、スケールアウトのプラットフォームとして長く使えるので、多くのお客さまに使っていただくことで、さらにコストメリットが出てくると考えています。
山本 ロードマップには、「Software in Silicon V2」「V3」と書かれていますね。
パルメータ 今後、SPARCでは、Software in Siliconの機能を増やしていこうと考えています。Java GC(ガベージコレクション)の最適化、Javaのストリーム処理に対するサポートの強化、インテルやPOWER8に匹敵するようなシングルスレッドの機能強化、並列処理の能力を高めるアーキテクチャの改善、スループットの向上などを実現していきたいと考えています。
SPARC/Solarisの将来
山本 SPARC/Solarisのチームの組織変更や、Solaris 12が出ずにSolaris 11.nextとなることで、SPARC/Solarisの将来を不安に思っている人もいると思いますが、メッセージをお願いします。
パルメータ Solarisのバージョンナンバーの付け方は、前述したようによりクラウドでの開発に合うようにSolaris 11.nextという形にしました。また、組織変更に関しても、クラウドを加速化させるために行ったものです。クラウドビジネスが予想以上にペースアップしたことで、Oracle Cloudなどのお客さまが期待されているところに適切に経営資源を配分するために組織変更を行っています。より完成したソリューションをより多くの市場に展開する戦略に沿ったアプローチを行っており、これまで行ってきたSPARC/Solarisのビジネスを弱めるものではないことを強調しておきたいと思います。
SPARCのコンピューティングパワーベースでの年間出荷は、過去3年間で最大のピークに達しており、サン・マイクロシステムズが創業してオラクルに入るまでの長い歴史に相当するくらいのコンピューティングパワーをこの3年間で出荷しているのです。
山本 ラリー・エリソンは、Oracle OpenWorld 2016で今後はIaaSにも注力していくことを発表していました。SPARC/Solarisは、IaaSのアーキテクチャとして代表的なものであり、SPARC/Solarisは以前よりも重要性を増していると思います。
パルメータ 私も、同感ですね。新世代のSPARCチップは、他のプロセッサよりもOracle DBが高速に稼働するように作っていきます。性能を高めることによって、コストを削減し、セキュリティやパフォーマンスを高めるように、SPARC/SolarisベースのOracle Cloudをデザインしてきました。お客さまがOracle CloudとSPARCコンピューティングでミッションクリティカルな運用を行い、大きなメリットを生み出して、ベネフィットを増やしていけるようにすることがわれわれの使命です。クラウドに注力して、他社よりも優れたベストクラウドポートフォリオを提供したいと考えています。
山本 2020年に東京オリンピックを控えた日本では、セキュリティが非常に重要になってきます。SPARC/Solarisのクラウドのセキュリティの高さをアピールしていきたいですね。
パルメータ そうですね。SPARC M7プロセッサやS7プロセッサよりもセキュアなシステムは、存在しません。「Oracle Exadata X6」は非常にセキュアなソリューションとして評価されていますが、Exadataに含まれているセキュリティ機能は全てSuperClusterにも搭載されています。さらに、SuperClusterには、Exadataのパワーでは実現できないメモリ保護や暗号化アクセラレーションといった機能も搭載しています。OSの機能も特徴的で、Solaris Immutable Zoneやコンプライアンスの自動化機能などが提供されています。
SPARC/SolarisのエンジニアドシステムであるSuperClusterとMiniClusterは、圧倒的に先進的なシステムなのです。これは長年エンタープライズマーケットにUNIXシステムを提供し続けてきた結果生まれてきたもので、MiniClusterのようにコストを下げながら市場に展開することで、お客さまに大きなメリットを提供しています。
山本 オープンシステムといえばSPARC/Solarisという時代があり、Linuxが台頭する中でも開発を続けてきた成果が、クラウド時代の今、実ってきている実感があります。最後に残ったUNIXとして、SPARC/Solarisへの期待が高まっていると思います。本日は、ありがとうございました。
取材を終えて
松崎 SPARC/Solarisはセキュリティも強いという認識でいましたが、SuperClusterやMiniClusterでは、さらにアプリケーションサーバ、データベースサーバ、ストレージの内部接続もセキュアに行えるという話があり、お客さまが持つセキュリティに対する課題をより一層解決できるのではと感じました。また、PCI DSSやDISA STIG、HIPA、SOX法、SOX2、CISなどのさまざまな標準規格に準拠でき、何百ものセキュリティコントロールを提供しているので、よりきめ細かいソリューションを提案できると思います。
吉田 「Solaris 12が出ずにSolaris 11.nextとなることで、SPARC/Solarisの将来を不安に思っている人がいる」という質問がありましたが、私もその1人でした。「サン・マイクロシステムズが創業してオラクルに入るまでの長い歴史に相当するくらいのコンピューティングパワーをこの3年間で出荷している」という話になり安心しました。それと同時に、クラウドシフトによる組織変更ということで、SPARCクラウド向けの技術やマネジメントツール、そしてSoftware in Silicon V2、V3の開発が進んでいくのを楽しみにしています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 2021年のSolaris 10延長サポート終了に向けて:Solaris 10からSolaris 11.3に移行することで何ができるようになるの?
- さまざまな選択肢を提供できるように:SPARCの新製品が続々リリース! クラウドでも利用できるって本当ですか?
- SPARC/SolarisやSuperClusterが、SAPに最適な理由とは何ですか?
- Linuxユーザーも知らないと損する「Silicon Secured Memory」の基礎知識:インメモリDB時代、プロセス内のメモリはどうやってセキュアにすればいいんですか?
- 日本の社会インフラを支えるシステムに、SPARC/SolarisやOracle Databaseがどう貢献しているのですか?
- 「Security in Silicon」は複雑化するITシステムのセキュリティ課題をどうやって解決できるんですか?
- Oracle Databaseを熟知したIT企業が認めるM7プロセッサ。何がスゴいの?
- クラウド時代にSPARC/Solarisに何が求められているのか――x86/Linuxにはない優位性や使い続ける意義を考える
関連リンク
提供:日本オラクル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2017年3月31日