ユーザーの協力義務(ゆーざーのきょうりょくぎむ):法律用語解説|システム開発契約(基礎編)(4)
契約書に書かれている法律用語、トラブル時にIT訴訟で争点となるかもしれない契約の種類。エンジニアなら知っておきたいシステム開発契約に関わる法律用語を、IT紛争解決の専門家 細川義洋氏が分かりやすく解説します。
ユーザーの協力義務とは何か
ユーザーの協力義務とは、請負契約のシステム開発で、「プロジェクトの完遂に向けてユーザーがすべきベンダーへの協力」です。
「しかるべき時期までに、システムの要件について、社内のコンセンサスを得て、ベンダーに伝える」「システム化の対象となる業務の内容や、既存のシステムやデータなど、ベンダーが開発をする上で必要な情報を、タイムリーに提供する」「プロジェクト中に発生するさまざまな問題(リスクや課題)について、ベンダーが相談したり判断を仰いだりしたら、真摯に対応する」などが代表例です。
ユーザーの協力義務を全うするためには
「協力」の中身は「何か要望されたら対応するレベル」と思われがちですが、協力義務を果たすためには、ユーザーに「自発的な姿勢」が求められます。
ベンダーのさまざまな要望に答えたり判断したりするには、しかるべき業務知識やある程度の技術知識を持つ人間をユーザーはアサインしなければなりません。そのためには、システム導入の担当者をあらかじめ育て、プロジェクト中に必要な工数も割り当てねばなりません。
要件の取りまとめや情報提供をするには、他部署に作業を命じることもあるので、「担当者にしかるべき権限を与える」か、「経営層などを後ろ盾に立てる」必要があります。
ベンダーが申し出る、「費用追加」「納期の延期」について可否判断を求められることもありますので、システム担当者は、経営層とすぐに相談できる関係が必要です。
ユーザーの協力義務の注意点
ユーザーが協力義務を果たさずにプロジェクトが失敗したら、ユーザーが損害賠償を払わねばならない場合があります。
「お金を払う側なのに」と思うかもしれませんが、システム開発プロジェクトにおいては、「お客さまは神様」ではなく、ベンダーと一緒に苦労をして汗をかく「プロジェクトメンバー」であると考えるべきでしょう。
ユーザーの協力義務のポイント
- ユーザーは、ベンダーに協力してプロジェクトを円滑に進める義務がある
- 協力義務を果たすためには、ユーザーに「自発的な姿勢」が必要である
- 協力義務を果たすためには、担当者に知識と権限が必要である
- システム開発のお客さま(ユーザー)は、神様ではない。仲間である
ベンダーのプロジェクト管理義務が争点となった裁判解説
- ベンダーよ、シェルパの屍を越えていけ 〜 細川義洋×山本一郎「なぜ、システム開発は必ずモメるのか?」
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- 最低限の知識も理解もないユーザーと渡り合うには?(前編)
- ソクラテスになれ――無知なユーザーとの仕事の進め方(後編)
- 2年超も仕様が確定しないのは、ベンダーの責任か?
細川義洋
ITコンサルタント
NECソフトで金融業向け情報システムおよびネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムでシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーおよびITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。
2007年、世界的にも希少な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。
書籍紹介
成功するシステム開発は裁判に学べ!〜契約・要件定義・検収・下請け・著作権・情報漏えいで失敗しないためのハンドブック
細川義洋著 技術評論社 2138円(税込み)
本連載、待望の書籍化。IT訴訟の専門家が難しい判例を分かりやすく読み解き、契約、要件定義、検収から、下請け、著作権、情報漏えいまで、トラブルのポイントやプロジェクト成功への実践ノウハウを丁寧に解説する。
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