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マイクロソフトが考えるコンピューティングの未来とは特集: Build 2017(2/2 ページ)

2017年5月に開催されたマイクロソフトの開発者向けイベント「Build 2017」で、コンピューティングの将来像をどのように提示したかを考察していこう。

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さまざまなデバイスを越えて: 未来のコンピューティングとは

 「さまざまなデバイスを越えて」とは、こういうことだ。まず、現在では1人のユーザーが1台のデバイスで何かしらの仕事や作業を完結させることは多くない。会社ではデスクトップPCを使用して、外出中には何らかのモバイルデバイス(2in1 PCかもしれないし、スマートフォンやタブレットかもしれない)を使用して、同じ仕事に関連するデータやスケジュールなどを、管理したり参照したりする。あるいは、会社や事務所の中で場所を移動して同じ仕事を別のPCを使って行うといったことも考えられる。しかもそれらのデバイスがWindowsをOSとして採用しているとは限らない。

 つまり、複数のデバイス、複数のプラットフォームを越えて一貫したコンピューティング環境やデバイスに応じた自然な形でのコンピューティング体験が得られることが重要になっている。

 そして、複数のデバイス、複数のプラットフォームをシームレスにつなぐためにマイクロソフトが提供するのが以下のものとなる(リンク先は全て英語サイト)。これらはWindows 10 Fall Creators Updateに搭載あるいは2017年後半のリリースが予定されている。

 OneDrive Files On-Demandはクラウドにファイルを保存することで、必要なときにそれを任意のデバイスからアクセスしたり、自動で同期したりできるようにするものだ。クラウドに保存されていても、その操作は透過的に行える。これを使えば、iOS/Android/Windowsの各プラットフォームから必要なときに必要なファイルにアクセスできる。なお、iOS/Android向けのOneDriveアプリではローカルにファイルを保存しておくことで、オフラインの状態でもそれらを使えるようにする機能も(将来的に)追加される予定だ。

 Windows Timelineは複数のデバイス間で、自分がそれまでにしてきた作業をタイムライン上に表示して、あるマシンから別のマシンでの作業を簡単に続行できるようにしてくれるものだ。CortanaもWindows Timelineをサポートする(予定な)ので、iOS/Androidデバイスでも利用できるだろう。Windows Timelineでは以下で述べるUserActivity APIと呼ばれるAPIを利用して、ユーザーが行ったことをクラウドに保存しておき(アクティビティーフィード)、それを別のデバイスで参照することで、作業を継続して行えるような仕組みになっている。

Windows Timeline
Windows Timeline

 Microsoft Graphは簡単にいえば「ユーザーやユーザーのグループ、ユーザーが使用しているファイルや活動(アクティビティー)、コンテンツといった、大量のデータをさまざまなデバイスを越えてつなぐ」ための技術である。上で述べたUserActivity APIはUWP用のフレームワークだが、Microsoft Graphと統合されていることから、Microsoft GraphのREST APIを利用することで、UWP以外のアプリからもWindows Timelineを使用可能となっている。ユーザーやデバイス、プラットフォームをつなぐバックグラウンドとしてMicrosoft Graphは動作すると考えればよいだろう。

Microsoft Graphはユーザーのアクティビティーとさまざまなデバイスを接続する
Microsoft Graphはユーザーのアクティビティーとさまざまなデバイスを接続する

 デバイスが変わるたびにそのユーザー体験も大きく変わるのが、現在のクロスプラットフォーム/クロスデバイス時代の問題点の1つだ。そして、Project Romeの目的は「to deliver a more personal OS for the next generation of computing」(次世代のコンピューティングに適した、よりパーソナルなOSを提供する)ことにあり、プログラミングモデル、インフラストラクチャサービス、デバイスランタイムの3つの要素で構成される。これもまた、Microsoft Graphをベースとした技術だ。

 今述べたUserActivity API、Project Rome、Microsoft Graphがクロスデバイス/クロスプラットフォームでの「流れるような」(fluidity)ユーザー体験を実現する上で大きな役割を担っている。さらにいえば、そのバックグラウンドにはクラウドの存在が必須となっている。

 Cloud-powered Clipboardは異なるデバイス間でのクリップボードを実現する。PCで何かを検索して、URIを得た後に、タブレットでそのページを表示しようとして、自分自身にメールをして、それをタブレットで受信してからブラウザでそのURIを開こうとしたことはほとんどの人があるはずだ。Cloud-powered Clipboardを使えば、デバイス間でのコピー&ペーストが可能になるので、そうした手間はもう不要となる。これもさまざまなデバイス間にまたがった作業や処理を円滑に行うためには欠かせない。

 クロスプラットフォームの観点からはXamarinが重要な役割を果たすことは明白だ。そして、これに関連して発表されたのが、XAML Standardと.NET Standard 2.0 for UWPの2つだ。XAML StandardはXamarin.FormsとUWPで異なっていたXAMLの構文を統一しようという動きだ。.NET Standardがマイクロソフト純正の.NET Framework、XamarinのベースとなったMono、Windows/macOS/Linuxで動作するように作り直された.NET Coreというさまざまな種類の.NETランタイムで利用可能なAPIを定めようというもの。特定のバージョンの.NET Standardに準拠しているPCL(Portable Class Library)は、そのバージョンをサポートしている.NETランタイムでの動作が保証される(下位互換性も保証されている)。

 これまでUWPでは.NET Standard 1.4までしかサポートされていなかったのが、今回の発表で.NET Standard 2.0のサポートが確約されたということになる(リンク先のドキュメントでは2017年5月18日時点でUWPでの.NET Standard 2.0のサポートは「vNext」となっているが、恐らく何らかのタイミングで変わるはずだ)。

 .NET StandardとXAML StandardについてはChannel 9で公開されている「.NET Standard 2.0, UWP support and UI futures」「.NET Standard 2.0 and .NET Core 2.0」「Three Runtimes, one standard… .NET Standard: All in Visual Studio 2017」なども参考にしてほしい。

XAML Standardと.NET Standard
XAML Standardと.NET Standard

 Fluent Design Systemはマイクロソフトが提供する新たなUIデザインシステムであり、現状ではUWPに向けたものとなっている。これもWindows 10 Creators Updateから導入される予定であり、これまでのWindows 10とは明らかに異なる上質なUIが提供されるはずだ。詳細については「Introducing Fluent Design」などを参照されたい。

Fluent Design Systemが持つ5つの要素
Fluent Design Systemが持つ5つの要素

 Build 2017では、この他にもVisual StudioからiOS/AndroidデバイスへのXamarinアプリの配備とテスト、デバッグを可能にするXamarin Live Playerの発表もあった。これはiOS/Androidデバイス上で、Xamarin Live Playerを起動しておき、そこにそのデバイスとペアリングを行ったVisual Studioからアプリを直接ダウンロードするというもの。あくまでも、アプリの開発とデバッグ、テストなどの目的で使用するものといった位置付けだ(機会があれば、実際の使い勝手なども紹介したいところだ)。

 また3日目の基調講演は、さまざまな技術とそのデモンストレーション、開発者による(少し短めの)トークセッションの詰め合わせになっている。これからのコンピューティングがどうなっていくかをマイクロソフトがどう捉えているかを把握したい人はぜひ見ておこう。


 本稿で概観してきた技術を使うことで、デバイスやプラットフォームを移り変わりながら、ユーザーがその場その場の状況に応じたユーザー体験を通して、自分がしたいことを的確にできようになる。マイクロソフトはそうした世界がやってくることを確信し、そのために必要なリソースや技術を用意しようとしている。2000年代初頭に.NETが産声を上げたころのことを考えると「遠くに来たもんだ」とも思えるが、実際のところは.NET構想が夢見た世界(ワールドワイドにさまざまなオブジェクトがつながったコンピューティング環境)がいよいよ現実のものになろうとしているのかもしれない。余談だが、ここのところ、サン・マイクロシステムズが提唱した「Network is the computer」(ネットワークこそがコンピュータ)というキーフレーズが頭を離れないでもいる。

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