教えて! キラキラお兄さん「テクノロジーで花業界をぶっ壊せますか?」:プロエンジニアインタビュー(7)(4/4 ページ)
小尾龍太郎さんは、オンラインで花を贈るサービスを運営する「Sakaseru」の創業者だ。ITエンジニアから花屋になり、「フラワー×IT」で起業した。しかしビジネスは思うように立ち上がらない。「これが最後」と思い詰めた小尾さんは――。
ひとりぼっちの再出発
ところが、その後も順調とはいえなかった。新サービスの売り上げがなかなか立たず、一緒にやってきた西山さんが撤退を決意してしまう。
ここでも小尾さんは、諦めなかった。
「開発費を払うから独立させてほしい」と西山さんに頼み込み、西山さんが無償で事業を譲渡してくれることになった。
2015年10月14日に株式会社「Sakaseru」を設立し、再出発した。一緒に歩んできた西山さんとは別々の道を進む形となったが、∞ Laboのメンター、伊藤さんがSakaseruに役員として参加してくれることになった。
しかし事業は赤字が続く。ある事業会社から資本参加の打診があったが、先方の社内事情があり、話が流れてしまう。スタートアップ企業の経営者は、タイムリミットに常に追われている。資金を使い果たす前に新たな資金調達を成功させるか、それとも事業を黒字化させるか、どちらかだ。
小尾さんは、1つの決断をした。
もうエクイティ(株式発行による資金調達)や、デット(借り入れによる資金調達)に頼るのはやめよう──外部からの資金調達に頼らず、自力でビジネスを黒字化することに注力した。
新たな商材は、会社移転などのときに贈る「祝い花」だ。
「会社移転では胡蝶蘭を贈るのが定番ですが、みんな見慣れていて大きな感動はありません。そこで、同じ金額でもっと記憶に残る花を贈ることを提案しました」
例えば、送り先の会社のイメージカラーやロゴデザインをあしらった花は印象に残る。圧倒的な美しさとユニークさで、Sakaseruの花は他との差別化を図った。
他にも数々の工夫をした。普通の花屋は即日発送を避けるが、Sakaseruは即日発送の体制を整えた。また、どのような花を贈ったのかを依頼主が写真で確認できるようにもした。サービスはWebベースだが、勝負所となったのは、オフラインの知恵と行動力だった。
祝い花のビジネスが成功し、Sakaseruは単月黒字化を達成した。
「フラワーTech」で花業界をディスラプト(創造的破壊)したい
Sakaseruは2016年に、ベンチャーファンドから資金調達に成功している。急成長を期待されるスタートアップの経営者として、小尾さんはさまざまな手を打っている最中だ。
「まずチーム形成を目指します。小売りの流通量も増やします。B2Cを伸ばすために、幾つかの施策を仕込んでいます。大手企業とパートナーシップを結ぶことも視野に入れています」
当面は顧客を増やすことに注力するが、将来的には「バリューチェーンの川上を狙いたい」と構想を話す。
「花屋を経験して分かったのは、花業界の特殊性です。例えば、花市場が開くのは月水金だけだし、競りに参加できる買参権は取得ハードルがとても高い」
バリューチェーンの川上、つまり花の仕入れを効率化できれば、ビジネスに協力してくれる花屋やフラワーデザイナーのメリットになり、お客さまの喜びにもつながる。小尾さんの試みは、もしかしたら花業界をディスラプト(創造的破壊)するかもしれない。
小尾さんは今、Sakaseruの社長であり、唯一のプログラマーだ。ビジネスについて話す小尾さんは、エンジニア時代とはたぶん違う顔つきになっている。自分ではその違いをどう感じているのだろうか。
「だいぶ変わったと思います。ITエンジニア時代は、自分の技術に自信を持っていたので、周囲への感謝や尊敬がそもそもありませんでした。でも今は、周囲の方々に感謝と尊敬の念を持って日々過ごしています」
小尾さんは、今の心境をこう語る。
「起業は怖いです。稼がなければ夢が終わってしまう。常にリスクがある。毎日、泥水を飲むような思いです。でも応援してくれている方々も、参画しているフラワーデザイナーも、Sakaseruに賭けてくださっている。自分が描いている未来像を実現したいと思います」
サービスをローンチさせ、単月黒字化を果たし、資金調達にも成功した。スタートアップの創業経営者として、むしろこれからが正念場だ。小尾さんの冒険は、まだまだ続く。
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