検収(けんしゅう):法律用語解説|システム開発契約(基礎編)(6)
契約書に書かれている法律用語、トラブル時にIT訴訟で争点となるかもしれない契約の種類。エンジニアなら知っておきたいシステム開発契約に関わる法律用語を、IT紛争解決の専門家 細川義洋氏が分かりやすく解説します。
検収とは何か
検収とは、契約によって定められた「債務」を受注者が果たしたかを発注者が確認し、「確かに債務が履行されている」と正式に通知することです。通知は通常「検収書」と呼ばれる書面に発注者が「印鑑」を押して、受注者に渡します。
システム開発請負契約でしたら、ITベンダーが納入したシステムに対して、ユーザーが「受入検査」を行います。システムが「定義した要件の通り」であると確認したら、ユーザーは検収書に印鑑を押してベンダーに渡します。
検収後の義務
発注者は検収を行うと、「お金を支払う義務」が発生します。
支払いが遅れた場合、発注者は「債務不履行」を問われ、もともとの代金とは別に「損害賠償」を請求される危険があります。
極端な例ですが、発注者からの支払いが遅れたために受注者が倒産したら、倒産によって発生するさまざまな損害の賠償責任が発注者に発生する可能性があります。受注者の支払いを待っていた別の業者や職を失った受注者社員への補償を求められることまであり得ます。
検収をすると「納品物の完成を発注者が認めた」ことになります。
検収後に重大な問題が発覚しても、それを理由に契約を解除して、お金を返してもらうことはできません。瑕疵(かし)担保責任で無償の修補を求めることはできますが、「使えないから返品する」というわけにはいかないのです。
発注者(ユーザーや元請けベンダー)は、慎重の上にも慎重を期して検収を行う必要があります。
システム開発の場合は「例外」もある
ただし、コンピュータシステムは非常に複雑で確認項目が多いので、発注者がITに関する知識が乏しくて全てを検査しきれない場合もあります。
「検収はしたけれども、後になって看過できない不具合が発覚したので、費用の支払いをしたくない」と裁判になった例が、かなりあります。
こうした場合裁判所は、「検収したのだから、お金を払うべき」と単純な判断はせず、納品されたシステムの出来栄えを確認した上で、費用の支払いを行うべきか否か決めています。
システム開発の場合は「検収さえしてもらえば、必ずお金をもらえる」というわけではないので、ベンダーは注意が必要です。
検収のポイント
- 検収とは、債務の履行を発注者が受注者に「通知」すること
- 通知は「書面」(検収書)で行われる
- 検収すると、発注者は受注者への「支払い義務」が生じる
- 義務を果たさないと、「債務不履行」を問われ、「損害賠償」を請求される可能性がある
- システム開発の場合は、例外もある
検収が争点となった裁判解説
- 検収後に発覚した不具合の補修責任はどこまであるのか(前編)
- ベンダーが確実に支払いを受けるための3つのポイント(検収書裁判解説 後編)
- 注文書=検収です、お金を払ってください!
- 納期が遅れているので契約解除します。既払い金も返してください
- このシステム、使えないんでお金返してください
細川義洋
ITコンサルタント
NECソフトで金融業向け情報システムおよびネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムでシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーおよびITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。
2007年、世界的にも希少な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。
書籍紹介
成功するシステム開発は裁判に学べ!〜契約・要件定義・検収・下請け・著作権・情報漏えいで失敗しないためのハンドブック
細川義洋著 技術評論社 2138円(税込み)
@ITの人気連載「「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説」を書籍化。IT訴訟の専門家が難しい判例を分かりやすく読み解き、契約、要件定義、検収から、下請け、著作権、情報漏えいまで、トラブルのポイントやプロジェクト成功への実践ノウハウを丁寧に解説する。
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