君の名は? 未来に再会したときに気付くかな――Windows/Officeにおけるサービスオプション名の変更:その知識、ホントに正しい? Windowsにまつわる都市伝説(93)(3/3 ページ)
Microsoftは自社製品や技術、機能の名称変更の理由を「ユーザーからのフィードバックに基づいて」「よりシンプルに」「より分かりやすく」と説明します。この言葉を目や耳にしたとき、筆者は少し警戒します。なぜなら、そうは思えないことが多々あるからです。英語表現なら分かりやすいのかもしれませんが、日本語環境となると……。
開発時と正式リリース時の名称変更は、探すのに困る
Windows 10発表時には、同時にWindows 10だけが備える多くの新機能も明らかにされました。しかし、Windows 10の初期リリース時に全ての機能が実装、提供されたわけではありません。例えば、音声アシスタント「Cortana(コルタナ)」は、日本ではWindows 10 バージョン1511で初めて利用可能になりました。また、Windows 10 バージョン1511までの「分離ユーザーモード(Isolated User Mode)」という追加機能は、Windows 10 バージョン1607以降は「仮想化ベースのセキュリティ(Virtualization-Based Security:VBS)」と呼ばれるようになり、この機能がサポートされるエディションではHyper-Vを有効化すると自動的にVBSが有効になります。
開発時や発表時と、その機能が正式に利用可能になったときで名称が変わってしまうこともあります。例えば、次の3つの機能がそうです。
当初 | 正式リリース時 | 備考 |
---|---|---|
Windows Update for Businessというクラウドサービス的な何か | Windows Update for Businessというグループポリシー設定 | Windows 10 バージョン1511で実装 |
Microsoft Passport for Work | Windows Hello for Business | Windows 10 バージョン1607で実装。Windows Server 2016ベースのActive Directoryドメイン環境とそれに同期されたAzure Active Directoryが必要 |
エンタープライズデータ保護(Enterprise Data Protection:EDP) | Windows情報保護(Windows Information Protection:WIP) | Windows 10 バージョン1607で実装。Microsoft Intuneなどのモバイルデバイス管理環境が必要 |
「Windows Update for Business」の経緯と機能については、本連載の第47回で説明しました。
- Windows Update for Businessってどうなったの?(本連載 第47回)
「Microsoft Passport」については前回も触れましたが、これはWindows 10の新しい2要素認証(2FA)技術であり、「Windows Hello」は本来、その中で利用できる生体認証オプションを指していました。しかし、現在では、“展開を簡略化してサポート性を向上するために”(Microsoft談、以下のWebページの注意を参照)、Microsoft PassportとWindows Helloは、Windows Helloという名前に統合されました。
- Windows Hello for Business(Microsoft Windows IT Center)
「Windows情報保護(WIP)」は、Windows 10において、個人データ(個人用)と業務データ(作業用)を識別し、業務データを自動的に暗号化して保護したり、個人アプリへの送信やコピー&ペーストなどで業務データが外部に漏えいするのを防止したりする機能です。
Windows Hello for BusinessとWIPについては、コンポーネントのファイル名、イベントログ、レジストリ、管理ツールに古い名称が使われていることがありますし、正式リリース前に公開された公式/非公式のドキュメントや書籍で表現が一致しないこともあります。前回紹介した「ターミナルサービス」や「SMS(Systems Management Server)」「MOM(System Center Operations Manager)」と同じように、古い名称の方を知っているのといないのでは、設定やトラブルシューティングにかかる時間が違ってくるでしょう。
WIPに関しては、Microsoft Azureの「Azure Information Protection(AIP)」との関係でややこしくなるかもしれません。AIPは、2016年9月までは「Azure Rights Management」という名称でした。Azure Rights Managementは、簡単に言うと、Windows Serverの「Active Directory Right Managementサービス(AD RMS)」のクラウド版です。そのため、AD RMSと対で「Azure RMS」と呼ばれることもありました。
現在のAIPは、Azure RMSの機能に、ラベルによる手動/自動分類機能などが追加され強化されました。そして、暗号化キーの提供方法として「Azure RMS」と「HYOK(AD RMS)」(HYOKはHold Your Own Keyの略)のいずれかを選択できます(画面8)。Azure RMSという名称は、暗号化キーを提供するクラウドのサービスを指す用語として、AIPでも引き続き利用されています。そして、AIPとよく似た名前のWIPは、AIPのラベルによる自動分類と連携することができます。
どうです、ますます混乱してきたでしょう。筆者も混乱しています。Office 365に関しては、本稿を書き出したときと、いったん書き終えたときで、状況がガラリと変わっていることに気が付いて急いで反映したので、間違っている部分があるかもしれません。ご了承ください。
筆者紹介
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(Oct 2008 - Sep 2016)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows Server 2016テクノロジ入門−完全版』(日経BP社)。
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