カメラが都市全体を見守る熟練者の“目”に、AIで警備業はどう変わる?:AIを活用するときの注意点とは?(2/2 ページ)
労働集約型の産業と見られがちな警備業だが、IT化を差別化の切り札に躍進を遂げてきた企業も確実に存在する。それらの企業は、AI活用に向けた検証にすでに本腰を入れている。その1社である綜合警備保障(ALSOK)の商品サービス企画部で次長を務める干場久仁雄氏の講演から、具体的な“中身”を紹介する。
カメラが都市全体を見守る熟練者の“目”に
苦労のかいもあり、ALSOKのAI映像解析は一部で実用の域にまで達しつつある。一例が高層ビルに配置されたカメラによる監視だ。従来、それらのカメラは事件や事故の発生の連絡を受け、状況確認やその後の監視のために利用されることが主であった。それが、絶えず定点観測することで、「事件や事故のいち早い察知」に主目的が変わりつつあるという。映像解析レベルも、飛行軌道などを基に、ドローンと鳥との誤認を回避できるレベルにまで達しているという。
また、警備車両の車載カメラ映像の分析により、物流インフラの要である道路の傷みの早期検出/メンテナンスへの活用の他、不審車両の察知によるテロなどの未然防止などにも応用が広がっている。
2018年1月には三菱地所と共同で、「カメラ映像のAI解析」による「おもてなし」強化の取り組みに着手した。これは新丸の内ビルディング(東京都・千代田区)内で、歩行者の「立ち止まる」「周りを見回す」「座り込む」といった挙動から、「迷っている」「急病で苦しんでいる」ことをAIが推察し、状況によっては警備員に現場へ急行するよう指示を出すことで、従来は人が見回って行っていた業務を補助するものだ。三菱地所は、スタートアップ企業の活動の場を創出する目的で、丸の内エリアを「オープンイノベーションフィールド」と位置付けている。今回のAI活用はその一環でもあるという。
「全ての通行人を、人による警備でカバーするのは現実的に不可能。近い将来には、熟練者の判断頼りだった土砂崩れなどの自然災害をAIで予測することで、都市空間全体にわたる警備サービス最適化につなげる計画だ」
AI活用に向けた3つの注意点
干場氏によると、AI活用において3つの注意点を肝に銘じておく必要があるという。
1つ目は、AIの本質を理解しておくことだ。言うまでもなく、AIは各種アクションへの最適解を返すように設計されたプログラムである。ただし厄介なのが、AIは学習によって反応結果が変わることだ。これはすなわち、AIが導き出す最適解の厳密な品質定義が困難なことを意味する。
「関係者と議論を交わすこともしばしばだが、この点がなかなか理解されないことが多い。とはいえ、AIの性格上、この問題は避けられない。対応策を運用フェーズに織り込むことを抜きにして、無用なトラブルを回避することは困難だ」
2つ目はAIのライセンス内容を把握しておくことだ。AIはライセンス料を支払っても全てが“自分のもの”にならないこともある。また、学習用のデータや学習成果など、AI利用にまつわる権利が明確化されていないものも残されている。そのため、利用前に関係者を巻き込み、その点について合意しておかなければ、後にトラブルに巻き込まれる可能性が高いという。
3つ目は、AIには“強いAI”と“弱いAI”があるが、その効用を享受するためにはいずれも人の手が不可欠であることだ。
「(それぞれにある)リスクを取り除くためには、人を介在させる仕組みが必要になる。また、同様の理由からAIのロジックに何らかの手を加える作業も、推論精度を高める上で不可欠だ」
干場氏は最後に、次のように訴えセッションを締めくくった。
「テロリストや万引き、酔客、迷子、プラント故障の把握など、AIでやりたいことは山のようにあり、それらはもはや現実のものになりつつある。ただし、そこで課題となるのがやはりAIの判断能力。現状、異常検出のために、例えば不審者であれば“厚着をしている”“顔が見えない”を判断材料としているが、われわれの知見では限界もある。だからこそ、ぜひとも他社の知見をお借りしたい」
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