サーバ事業者さん。契約は結んでいませんが、あなたを訴えます:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(55)(2/3 ページ)
クラウドサービスベンダーに預けたプログラムが、HDDの故障で消失した。「さあ、訴えてやる!」。でも、誰を?――IT訴訟事例を例にとり、システム開発にまつわるトラブルの予防と対策法を解説する人気連載。今回は「クラウド上のデータの責任の所在」を考える。
消えたプログラム
まずは判例を見ていただこう。
東京地方裁判所 平成21年5月20日判決から
ある顧客企業が、サービスベンダーが提供するサーバ上でWebサイトを運営していた。このサーバは、サービスベンダー自身のものではなく、同社が契約したサーバ事業者のものだった。
あるとき、このサーバに障害が発生して顧客企業のプログラムとデータが消失してしまった。原因は人的な作業ミスではなく、HDDの故障だとされている。自身が保有するプログラムとデータを失った顧客企業は、これをサーバ事業者の不法行為(善良なる管理者の注意義務違反)に当たるとして、合計約2億円の損害賠償を求める訴えを提起した。
関係を整理しよう。
顧客企業(プログラム、データの持ち主):Webサイト運営
サービスベンダー:クラウドサービスを提供
サーバ事業者:サービスベンダーへサーバ機器をレンタル
なおサーバ事業者は、サービスベンダーにサーバを貸し出す際、約款に以下の「責任の制限」と「免責」事項を記載していた。
40条(責任の制限)
1 サーバ業者は本サービスを提供すべき場合において、同業者の責めに帰すべき理由により、契約者に対し本サービスを提供しなかったときは、契約者が本サービスを全く利用できない状態にあることを被告が知った時刻から起算して、連続して24時間以上、本サービスが全く利用できなかったときに限り、損害の賠償をする。
(中略)
3 第1項の場合において、被告の故意又は重大な過失により本サービスを提供しなかった場合には、前項の規定は適用しない。
41条(免責)
40条の規定は、本契約に関してサーバ業者が契約者に負う一切の責任を規定したものとする。
サーバ業者は契約者、その他いかなる者に対しても本サービスを利用した結果について、本サービスの提供に必要な設備の不具合、故障、その他の本来の利用目的以外に使用されたことによってその結果発生する直接あるいは間接の損害について、40条の責任以外には、法律上の責任ならびに明示または黙示の保証責任を問わず、いかなる責任も負わない。
また、本契約の定めに従って被告が行った行為の結果についても、原因のいかんを問わずいかなる責任も負わない。ただし、被告に故意又は重大な過失があった場合には、本条は適用しない。
「約款」を要約すると「損害賠償をするのは、自分たちの積極的な行為によってプログラムやデータが消失、破損しているときのみだ」ということだ。
判例のプログラムとデータの消失は、サーバ業者が保有するHDDの障害によって発生した。その障害は、人為的なミスによらないものだった。これは約款の免責部分に当たるので、サーバ業者の責任は追及できないと考えられる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- サーバ屋がデータを飛ばしただと? 1億円払ってもらえ!
IT紛争解決の専門家 細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は「レンタルサーバに保管したデータの保全責任」をめぐる裁判を紹介する。誰もバックアップを取っていたなかったデータが消滅したら、誰が責任を取るべきなのか? - あの日、何が起こったのか――ファーストサーバデータ消失オフレポート:「天に召されたデータに献杯!」
「お店のWebサイトが見られない」「顧客データ1万件が消えた」――6月20日に起きたファーストサーバの大規模障害にほんろうされた人々が、愚痴をこぼしながら名刺と杯を交換するイベントが行われた - ファーストサーバの障害、原因はプログラム記述ミスとプロセスの複合
レンタルサーバサービスを手掛けるファーストサーバは6月25日、6月20日17時に発生した大規模障害に関する中間報告を公表した - マニュアル無視、不十分なバックアップ――ファーストサーバが最終報告書
報告書によると、顧客に大きな影響を与えたデータ消失事故の背景には、不具合を起こした担当者が社内マニュアルを無視し、独自方式でメンテナンスを行っていた事実があった