カーナビの要は使い勝手の良いアプリだ。よそには渡さん!:コンサルは見た! オープンソースの掟(4)(1/2 ページ)
何か変だと思わない?――大手カーナビベンダー「プレミア電子」とカーナビソフト開発会社「ジェイソフト」とのトラブル相談に乗っている江里口は、一連の流れに不自然なものを感じていた。
連載「コンサルは見た!」は、仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)の筆者が@IT用に書き下ろした、Web限定オリジナルストーリーです。
前回までのあらすじ
カーナビゲーションソフト「ボカ」の開発元「ジェイソフトウェア」の三浦社長は、ボカを組み入れたカーナビ「バルサ」の製造元「プレミア電子」から、次期製品開発の契約を切られたことを相談しに、「A&Dコンサルティング」のコンサルタント江里口美咲を訪問した。
「アンタが甘いからだ」とけんもほろろな対応をする江里口はだがしかし、三浦の話の中に気になる点があるらしく、ボカのソースコードを見たいと言い出した。
第1話 ベンチャー企業なんて、取り込んで、利用して、捨ててしまえ!
第2話 大手の下僕として安定の日々を送るなんて、まっぴらゴメンだね!
第3話 あまっあまのスイーツ社長なんて、大手に利用されて当然よ!
何か不自然だと思わない?
「うーん、僕には『プレミア電子』に非があるようには思えないなあ」
「A&Dコンサルティング」の社内。コンサルタントの江里口美咲に、同僚コンサルタントの白瀬智裕が話しかけた。
「そう思う?」
美咲はPCを立ち上げながら聞いた。
「だって、形としては、『ジェイソフトウェア』がフリーソフトとして、『ボカ』のソースコードを提供したんだろ? だったら、プレミアがそれをどうしようと勝手じゃないか。それに両者の間で結ばれた基本契約書には、『その効力が新しいバージョンに及ぶ』とは明記されていない。だったら、プレミアがソフトだけもらってジェイを切っても、法的には問題ないんじゃないかな」
白瀬はどちらかというと昔気質の人間で、「ビジネスの世界でも情や道理が大切だ」と考えるタイプだ。その彼から見ても、今回の話はジェイの三浦や松井の甘さが招いた結果であり、プレミア電子のやり方は道義的に多少の問題はあるものの致し方ないと思えた。
「ジェイの松井さんが、本当に無条件でソースコードを渡したのならね」
美咲はPCのブラウザアプリを立ち上げて、技術情報サイト「liberty IT」を開いた。
「ボカのソースコードを見てみないと分からないけれど、もしかしたら……。それに今回の件、何か不自然というか、プレミアサイドに焦りのようなものを感じるのよね」
「焦り」とはどういうことかと首を捻る白瀬に、美咲は説明した。
「考えてみて。これまでと同じようにジェイと一緒に新バージョンの『バルサII』の開発を進めても、プレミアには何の問題もないはずよ。自社メンバーの工数を割いてボカを勉強させるなんて効率的じゃないし、品質だって落ちかねない。それをなぜ、無理をして内製する必要があるのかしら?」
「ジェイを苦しめたいとか、もしかしたらつぶしてしまいたいとか?」と尋ねる白瀬に美咲は小さくうなずくと、PCの画面を見せた。
ドイツNo1.のカーナビメーカー「ダッシュ」のルンメニゲ社長来日。「日本のカーナビ市場の寡占状態はメーカーにも消費者にも不幸」と発言(liberty IT News)
「江里口さんは、プレミアの動きにはこの件が絡んでいると考えているんだね?」
白瀬を見つめて、美咲は小さくうなずいた。
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