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大手の下僕として安定の日々を送るなんて、まっぴらゴメンだね!コンサルは見た! オープンソースの掟(2)(1/2 ページ)

大手企業の下請けとして粛々とやっていくか、イチかバチかで新分野にチャレンジするか、それが問題だ――大手カーナビベンダーに自社開発ソフトをソースコードごと提供してしまった松井は、何を考えていたのか。

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コンサルは見た!


コンサルは見た!」とは

連載「コンサルは見た!」は、仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)の筆者が@IT用に書き下ろした、Web限定オリジナルストーリーです。


登場人物

ジェイソフトウェア

miura

三浦大樹

システム開発企業「ジェイソフトウェア」代表取締役社長、兼技術トップ。

大手電機メーカーを早期退職して同社を立ち上げ、カーナビゲーション用ソフト「ボカ」を開発した。

セリエソフトサービス

matsui

松井雄三

「ジェイソフトウェア」の共同創業者。

創業後数年で同社を辞め、「セリエソフトサービス」を立ち上げた。

プレミア電子

kimura

木村美智子

カーナビシステムベンダー「プレミア電子」システム企画部長


takeda

武田

「プレミア電子」社長


前回までのあらすじ

カーナビゲーションソフト「ボカ」の開発元「ジェイソフトウェア」の三浦社長は、ボカを組み入れたカーナビシステム「バルサI」を製造する「プレミア電子」の木村システム企画部長から、突然の契約打ち切りを告げられた。

木村は、ジェイソフトウェアがボカのソースコードを提供してくれたおかげで、今後のカーナビシステム開発は同社なしでもできると冷ややかに言い放った。

第1話 ベンチャー企業なんて、取り込んで、利用して、捨ててしまえ!


kimura

 「御社、特に松井さんには感謝してもしきれませんわ」

 カーナビベンダー「プレミア電子」のシステム企画部長、木村美智子は楽しそうに笑った。

 その言葉を聞いて、「ジェイソフトイェア」社長の三浦は、既に会社を去ってしまったかつての盟友 松井雄三のことを思い出した――。

大企業の下請けなんて、まっぴらゴメンだね

 ちょうど2年前のことだった。三浦と松井の2人は、自社開発したカーナビゲーション用ソフト「ボカ」をプレミア電子に販売する際の契約を巡り、激しくやりあった。ボカのセールスと契約を担当した松井が、プレミアにボカのソフトをソースコードで提供すると約束してしまったのだ。

miura

 「松井、何てことをしてくれたんだ。ソースコードごと渡すなんて、虎の子の技術を盗ってくださいというようなものじゃないか!」


matsui

 「いいじゃないか。カーナビソフトの技術なんて、隠していたっていずれパクられるだろう? それよりも、また2人で新しい製品を開発しないか?」

 「新しい製品?」

 「ドローンだよ。ドローンを自動運転したり、集めた画像やデータを集めて分析したりするアプリを開発して売り出そうじゃないか」

 「何をバカな……。そんな商売になるかどうか分からないものに投資する余裕なんて、ウチにはない」

 「だからって、今後ずっとプレミアの下請けをやるつもりか? カーナビの国内シェアはプレミアがダントツだ。カーナビソフトをやるってことは、すなわち、あの会社に食わせてもらうってことじゃないか」

 「それのどこが悪い。プレミアと関係を続けている限り、わが社は安泰じゃないか。そうしたら好きなソフト作りに専心できる」

 「俺は嫌だね、そんなの。むしろ、ボカなんて全部売っちまって、新しい分野に挑戦したい。それにアプリを公開するってことは、世界のソフトウェア産業への貢献にもなる。そういう仕事こそわれわれベンチャーの喜びじゃないのか」

 松井の言葉に、三浦は目を大きく見開いて反論した。

 「会社がつぶれちまったら、喜びもへったくれもないじゃないか!」

 松井は三浦とならんで、ジェイソフトウェアの代表権を持っている。その彼がプレミアと結んだ契約は、三浦でも覆すことはできない。

 結局、プレミア電子にボカをソースコードごと提供するという約束は実行され、これを境に三浦と松井の間には確執が生まれた。カーナビで安定した経営を続けたい三浦と新しい分野へ挑戦をしたい松井。2人の溝は埋まることがなく、松井は半年後に数人の技術者を連れてジェイソフトウェアを去り、新しい会社を興したのだった。


 「三浦さん」

 木村の声で三浦は我に返った。

 「とにかく、私たちは御社からソースコードの提供を受けた。そして基本契約が適用される範囲は旧式のバルサI。これから作るバルサIIは契約の範囲外。われわれに何か非はあります?」

 契約や法律に疎い三浦は返す言葉もなく、プレミア電子を後にするしかなかった。

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