私の動画を無断で利用したので、著作権侵害で訴えます!:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(60)(2/2 ページ)
動画サイトにアップロードした自作の動画を勝手に使われたと訴えられた情報サイト。利用規約にのっとり、公式引用タグを利用しても、著作権侵害に当たるのだろうか――IT訴訟事例を例にとり、システム開発にまつわるトラブルの予防と対策法を解説する人気連載。今回は、Web上のコンテンツの「著作権」をテーマに解説する。
視聴フリー動画に著作権侵害は成り立つか
本件の動画は、もともとが誰もが見られるサイトに公開されており、その視聴に費用はかからない。誰もが無料で見られる公開情報であるなら、自社サイトのコンテンツに自由にリンクを張っても差し支えないし、損害賠償には当たらない――訴えられた情報提供サイト側は、そんな気持ちがあったろう。だからこそ、この争いは裁判にまで発展してしまった。
なお、本記事では「著作権」という言葉を使っているが、この場合の権利を正確に述べると、著作権の一部に定義される「公衆送信権」の問題といえる。
この訴訟のポイントは、まず「そもそもこの動画が著作物に当たるのかどうか」、つまり、この動画が個人Xの思想、信条を創作的に表したものであるかという点と、「リンクを張ることが、たとえ自由に閲覧可能な状態にあるコンテンツであっても著作権侵害に当たるのか」ということになる。
裁判所はどのような判断をしたのだろうか。判決文の続きを見てみる。
大阪地方裁判所 平成25年6月20日判決から(つづき)
本件動画は、Xが上半身に着衣をせず飲食店に入店し、店員らとやりとりするといった特異な状況を対象に、主としてXの顔面を中心に据えるという特徴的なアングルで撮影された音声付動画であって、一定の創作性が認められる。
(中略)
情報提供サイト運営者は、「ニコニコ動画」にアップロードされていた本件動画の引用タグ又はURLを本件Webサイトの編集画面に入力することで、本件動画へのリンクを張ったにとどまる。
この場合、本件動画のデータは、本件Webサイトのサーバに保存されたわけではなく、本件Webサイトの閲覧者が、本件記事の上部にある動画再生ボタンをクリックした場合も、本件Webサイトのサーバを経ずに、「ニコニコ動画」のサーバから、直接閲覧者へ送信されたものといえる。
すなわち、閲覧者の端末上では、リンク元である本件Webサイト上で本件動画を視聴できる状態に置かれていたとはいえ、本件動画のデータを端末に送信する主体はあくまで「ニコニコ動画」の管理者であり、Yがこれを送信していたわけではない。従って、本件Webサイトを運営管理するYが、本件動画を「自動公衆送信」をした(法2条1項9号の4)、あるいはその準備段階の行為である「送信可能化」(法2条1項9号の5)をしたとは認められない。
まず、問題の動画の創作性は認められ著作物とされた。しかし、たとえ著作物であっても、リンクを張っただけでは著作権を侵害したとはいえないという判断となり、著作権者である個人Xの請求は全て棄却された。
現行の法律では、著作権侵害には当たらない
世の中にある数えきれないほどのWebサイトが、リンクによるコンテンツの埋め込みを利用して、サイトを充実させている現実を考えると、全く妥当な判決ではある。
引用の範囲を超えるコピー&ペーストや、動画ファイルを情報提供サイトのサーバに保存して公開した――いわゆる「パクリ」をしたわけではないからだ。
著作権者である動画の投稿者は、ニコニコ動画にアップした時点で、動画がリンクによって他サイトからも閲覧できるようになることを理解するべきだったし、動画をアップするということは、著作使用権を認めるということになる。
もちろん、アップした動画を勝手に編集するなどすれば、これは著作人格権の問題となり、もっと別の議論もあるかと思うが、投稿された動画がそのまま見られる今回の件は、それには当たらない。
ただ、投稿した動画を情報サイト側が著作者に無断でリンクを張って情報サイト内で視聴可能とすることについては、政府内でその是非を含めた議論が行われているという話もあるので、今後、ルールに何らかの変更があるかもしれない。動画をアップする著作者も、それにリンクを張るWebサイトも、あるいは、それを何らかの形で利用している個人や法人も、この点を注視しておいた方が良いかもしれない。
細川義洋
政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。
独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。
2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる
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