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再考、Windows 10 Enterprise LTSC――LTSCで安定的な長期運用は可能か?企業ユーザーに贈るWindows 10への乗り換え案内(38)(2/2 ページ)

Windows 10のサービスモデルには、年に2回新バージョンがリリースされる「半期チャネル(SAC)」と2〜3年ごとに新バージョンが登場する「長期サービスチャネル(LTSC)」の2つがあります。LTSCはオフィスのクライアントPCを想定したものではありませんが、最新のWindows 10 Enterprise LTSC 2019のリリースを機に、あらためてその特徴や機能、制約を学びましょう。

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Windows 10 Enterprise LTSC 2019でできること、できないこと

 以上を踏まえた上で、Windows 10 Enterprise LTSC 2019で何ができて、何ができないのか、特にWindows 10 October 2018 Update(バージョン1809)と比較して見てみましょう。

●機能更新プログラムは提供されないし、延期もできない(一時停止は可能)

 Windows 10 Enterprise LTSC 2019には、Windows Updateを通じて機能更新プログラムが提供されることはありません。そのまま最長10年間、品質更新プログラムだけを受け取って運用することもできますし、将来のLTSCリリースにインストールメディアなどでアップグレードすることも可能です。

 当然のことですが、Windows Update for Business(WUfB)ポリシーで機能更新を受け取るチャネルの選択や延期を行うことはできませんし、「設定」アプリの「詳細オプション」にもその選択肢はありません(画面2)。

画面2
画面2 SACのWindows 10(画面左)とLTSCのWindows 10 Enterprise LTSC 2019(画面右)のWindows Updateの詳細オプション

 Windows Server Update Services(WSUS)を導入していれば、他のWindowsと同様に、管理者の承認に基づいて品質更新プログラムの配布を制御することができます。

●Windows 10 バージョン1809と同じ新機能を搭載

 Windows 10 Enterprise LTSC 2019は、Windows 10 Enterprise バージョン1809をベースに作られており、共通のセキュリティ機能を備えています。また、Microsoft EdgeやCortanaといった最初から削除されているもの以外については、Windows 10 バージョン1809と同じ新機能が実装されています。

 例えば、Windows 10 バージョン1709から正式版となった「Windows Subsystem for Linux(WSL)」は、Windows 10 Enterprise LTSC 2019でもサポートされ、機能を有効化できます。通常は、さまざまなLinuxディストリビューションのシェル環境をMicrosoft Storeから無料でダウンロードしてインストールすることが可能ですが、Windows 10 Enterprise LTSC 2019にはMicrosoft Storeアプリが存在しません。

 では、どうすればよいかというと、以下のドキュメントで説明されているWindows Server向けと同じ手順で、幾つかのLinuxディストリビューションから1つ以上をインストールすることが可能です(画面3)。

画面3
画面3 WSL対応のLinuxシェル環境は、Windows 10 Enterprise LTSC 2019でも利用可能。ただし、Linuxシェル環境のインストールは手動で行う必要がある

 Windows 10 Enterprise LTSC 2019は、Windows 10 バージョン1809と同じ最新の「Hyper-V」と「Containers」機能をサポートしています。Windows 10 バージョン1709以降の「Docker for Windows(18.03以降)」では、「Windowsコンテナー」を「Hyper-Vコンテナー」として実行することに加え、Experimental(実験的)機能を有効化することで、LCOW(Linux Containers on Windows)で「Linuxコンテナー」をプレビューとして実行することが可能になりました。

 これらの機能は、Windows 10 Enterprise LTSC 2019上のDocker for Windowsでも利用可能です(画面4)。これは、Windows 10 Enterprise 2016 LTSBではできなかったことです(LCOWをサポートしないバージョン1607ベースであるため)。

画面4
画面4 Windows 10 Enterprise LTSC 2019上のDocker for Windowsで、最新のnanoserverイメージ(mcr.microsoft.com/windows/nanoserver:1809)とUbuntuイメージをコンテナとして実行しているところ

●Microsoft Edgeの不在とUWPアプリの不足の影響

 Windows 10 バージョン1709(EnterpriseおよびEducation)とWindows 10 バージョン1803(Pro以上)以降では、Microsoft Edgeを分離環境で実行し、安全なWebブラウジング環境を提供する「Windows Defender Application Guard(WDAG)」が利用可能です(日本語対応はバージョン1803から)。

 Windows 10 バージョン1809では「Windowsセキュリティ」アプリ(Windows 10 バージョン1803までの「Windows Defenderセキュリティセンター」)の「ブラウザーとコントロール」に、「分離されたブラウズ」としてWDAGのインストールが統合されました。

 Windows 10 Enterprise LTSC 2019にもこの項目とWDAGの機能が存在しますが、そもそもMicrosoft Edgeが搭載されていないため、機能するものなのかどうか、筆者は確認できていません。少なくとも、実行中のMicrosoft Edgeから新しい「Application Guard」ウィンドウを作成することは、Microsoft Edgeが存在しないのですから不可能です。

 また、Windows 10には「キオスクモード(割り当てられたアクセス)」という機能があり、ローカルアカウントに1つのUWPアプリを割り当て、サインインするとそのアプリだけを開始し、終了するとサインアウトするという専用端末を簡単に作成できるようになっています。Windows 10 バージョン1809では、これまで割り当てることができなかったMicrosoft Edgeの割り当てがサポートされました。

 しかしながら、Windows 10 Enterprise LTSC 2019にはMicrosoft Edgeを含めてビルトインのUWPアプリがなく、Microsoft Storeから追加する方法も提供されていません。

 唯一、割り当てられるのは「Windowsセキュリティ」アプリでした(画面5)。ただし、サイドローディング展開の方法でUWPアプリをインストールすれば、そのアプリを割り当てることができると思います。

画面5
画面5 Windows 10 バージョン1809(画面左)とWindows 10 Enterprise LTSC 2019(画面右)のキオスクモードのセットアップ画面

LTSCで本当に安定的な長期運用は可能なのか?

 LTSCを“安定的な長期運用のため”と表現しましたが、この“安定”とは、長期にわたって新機能が追加されず、操作性やAPIなどの仕様が変更されないという意味です。決して、SACよりもLTSCの方が厳しくテストされ、リリースされているわけではありません。“安定”の意味を誤解しないようにしてください。導入時にシステムを構築してアプリケーションが動いているその状態を、そのまま長期にわたって維持、運用できるということです。

 例えば、Windows 10 バージョン1809とWindows 10 Enterprise LTSC 2019は全く同じコードベースであり、後者から一部の機能が削除されているだけです。これらに対する累積的な品質更新プログラムは共通であり、Windows 10 バージョン1809に存在する不具合は、その機能をWindows 10 Enterprise LTSC 2019が搭載していれば同様に影響します。

 Windows 10 バージョン1809のリリースの騒動は、Windows 10そのものの品質レベルやサービスモデルの在り方に大いに疑念を抱かせるものでした。SAC向けのサポート(再リリース後30カ月)が完全に終わるまでは、Windows 10 バージョン1809とWindows 10 Enterprise LTSC 2019の品質レベルは全く同等と言ってよいと思います。

 Windows 10 Enterprise 2015 LTSBやWindows 10 Enterprise 2016 LTSBに提供されている品質更新プログラムの内容を見れば分かるように、いまだに毎月のように多数の不具合とセキュリティ問題の修正が行われており、品質更新プログラムを原因とした別のトラブルが報告され、その後、修正が繰り返されている状況です。

 さらには、Windows 10の不具合の中には、将来のバージョンで修正予定という扱いになることもあります。その場合、LTSCでは不具合が放置される可能性があります。

 これらのことを全て踏まえた上で、Microsoftが想定していない利用シナリオである企業のクライアントOSとしてLTSCを採用するかどうか、判断することをお勧めします。Microsoftの公式ブログでも最近、Windows 10のLTSCについての説明がありました。こちらも参考にしてください。

筆者紹介

山市 良(やまいち りょう)

岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(Oct 2008 - Sep 2016)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows Server 2016テクノロジ入門−完全版』(日経BP社)。


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