VMwareが「プライベートクラウドという言葉を使わなくなった」理由:「AWS」「Kubernetes」「IoT」で探る(2/2 ページ)
VMwareは、「『プライベートクラウド』とは言わなくなっている」という。なぜなのか。「AWS」「Kubernetes」「IoT」という3つのキーワードから、その理由を探る。
IBMによるRed Hatの巨額買収は、「KubernetesがエンタープライズITにおけるハイブリッドクラウドソリューションの有力な焦点になる」という見通しに基づいている。また、Google CloudはGoogle Cloud Platform(GCP)上のKubernetesサービスとの一貫運用を可能とするオンプレミス上のコンテナ環境「Cloud Services Platform」の一般提供開始に向け、2019年4月のGoogle Cloud Next ‘19で何らかの発表をすると考えられる。
コンテナをハイブリッドクラウドのプラットフォームとする用途や企業が、どのようなペースでどれくらい増えるかについては、誰も予測できない。そうした状況の中で、VMwareは上記の高橋氏のコメントにあるように、「コンテナ(=Kubernetes)」を新年度における3つの注力分野の一つとして推進しようとしている。
Kubernetesへの取り組みの本気度を象徴するのが、Heptioの買収と、その後の「VMware Essential PKS」発表だ。「VMware Enterprise PKS」と改称された従来の「VMware PKS」はVMware vSphereおよびVMware NSX-Tを含むものだが、Essential PKSはこうしたコンポーネントを含まない、素のKubernetesディストリビューションに近い製品。
VMwareはEssential PKS推進を通じ、vSphereを使わない多様なユーザー組織や部署へ同社の顧客対象を広げるチャレンジを進めていくことになる。
賭けその3:サービスとしてのインフラとIoT、クラウドの分散化の接点を探る
VMwareはIoTの可能性を熱く語るITベンダーの一社だ。そのIoTで、同社は「Project Dimension」を発表している(まだ正式な提供開始には至っていない)。これはvSphereベースのHCIとしての、IoTエッジ/マイクロデータセンターの設置や運用を代行するサービス。つまりVMware Cloud on AWS Outpostsと同様なマネージドvSphereサービスだ。
筆者はこれについて、VMware幹部に対し何度も「IoTゲートウェイのようなものには、vSphereは求められないのではないか」と質問してきた。答えはいつも同じで、「非力なIoTエッジを対象としているわけではない。処理パワーが求められるIoTエッジ、あるいはマイクロデータセンターのようなものが対象になる」という。
「Any Device、Any Application、Any Cloud」というVMwareのメッセージは分かりやすそうで分かりにくい。八方美人的に聞こえるからだ。だが、同社が企業におけるITニーズの求心力がどこにあるのかを忠実にトレースしようとしていると考えると、多少分かりやすくなってくる
これでIoTのスイートスポットをつかめるのか、あるいは多様な世界であるIoTに、果たしてスイートスポットがあるのかも分からない。ただし、エッジコンピューティングのニーズも高まってきており、「クラウドの分散化」などといった言葉で語られつつあることも確かだ。
一方、「Arm仮想化が象徴する、IoTとVMwareのビジネスモデルの意外な関係」という記事でも紹介したように、VMwareではProject Dimensionが、一般企業の中小拠点や店舗にも適用できるとの考えを持っている。
VMware Cloud on AWS Outpostsが、企業の全社データセンターにおける一部ワークロードを対象としたvSphere環境のマネージドサービス化なら、Project Dimensionはブランチオフィスのマネージドサービス化を促進するものとも表現でき、「IoT」というキーワードをあえて外した場合にも、一定の価値を持つソリューションになる可能性はある。
こうしてVMwareは、vSphereを製品として提供する企業から、(場所に関わらず)サービスとして提供する企業への移行を、少しずつ進めようとしている。
さらに面白いのは、今後これにKubernetesが加わる可能性があるということだ。
「2000店舗に展開の事例など、エッジでのKubernetesに注目が集まる」という記事で紹介したように、IoTエッジを(サーバ仮想化なしに)Kubernetes環境で動かしたいというニーズが高まりつつある。そこで、勝手な想像ではあるが、Project Dimensionという一本の傘の下で、vSphereベースのエッジインフラとKubernetesベースのエッジインフラをマネージドサービスとして提供し、ユーザー組織側は必要とされるITリソースに応じてこれらを適用して、統合的な死活監視/ライフサイクル管理ができるようになったとしたら、メリットを感じる組織は存在するだろう。
こうした世界に向かってVMwareが順調に進んでいくと仮定すれば、「プライベートクラウド」という、人によっては後ろ向きのイメージしか持たない言葉を同社が使う必要はなくなってくる。
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