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君はライバルに協力するのかい?――ベンダーを探せ!コンサルは見た! 情シスの逆襲(3)(3/3 ページ)

営業部門の発案でオンラインショップを作ることになった、老舗スーパーマーケットチェーン「ラ・マルシェ」。仕事を依頼できるベンダーに心当たりのない担当者は、情シスの同期に協力を仰ぎに行くが……。

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情シスの憂鬱

 「いいのか?」

 総務を担当する常務の村上克典だった。情報システム部は総務の傘下で、村上は羽生の上司にあたる。昔から羽生のことをよく知る村上は、彼のことを何かと気に掛けてくれていた。

 「常務」

 羽生は席から腰を浮かせたが、村上はそれを制した。

 「いいから、いいから。ちょっと寄っただけだ。……それよりいいのか? 同期のライバルにわざわざ協力なんて」

 村上には小塚と羽生の会話が聞こえていたようだった。

 「ライバルだなんて……小塚と私では、出世競争の結果は見えてます」

 明るい声で答える羽生に、村上は口をへの字にした。

 「気に食わないねえ」

 「はい?」

 「どうも営業って奴は気に入らない。自分たちだけで会社が成り立ってるような錯覚を起こしやがって。奴ら社内に迷惑掛け放題だろう? 生産部門には納期を半分にしろ、経理には営業経費をよこせ――客のためだと言ってどんなムチャだって気にしない。われわれ総務も、奴らが社内プロセスを無視して事務処理を回すから混乱しっぱなしだ。君のところだって、いろいろと迷惑してるはずだ。特にあの小塚は問題が多い。この件だって、最後は君らが尻ぬぐいをする羽目になるんじゃないのか?」

 長年、総務部門にいて小塚たち営業のワガママに迷惑してきた村上は、彼らの必要性や実力は認めつつも危険性も感じていた。社内プロセスやコストを平気で無視する彼らがスーパーの実情を知らない新社長の下で会社の中枢を占めるようになれば、ガバナンスが崩壊し、会社は存続の危機に立たされる――村上はそう考えているのだ。

 「しかし、あいつの企画は、ラ・マルシェの未来のために必要なものですから」

 羽生は気弱そうな声でそう言ったが、村上は首を横に振った。

 「いいや。ラ・マルシェは単なる物売りじゃない。お客さまが良いお買い物をする体験というか空間を提供するサービス業だ。先代まで脈々と受け継がれてきた精神と強みを忘れちゃあいけない」

 村上はそこまで言うと、改めて視線を羽生の顔に向けた。

「君、何かないの?」

情シスは損な役回り

 「小塚のプランなんか吹き飛ばすような企画を、情シスとして出してみないか?」

 「私に企画なんて……」

 「大丈夫だ。君の出す企画なら、私が上を説得して実現してみせる。社長にだって納得させるさ」

 「社長を?」

 「ああ」

 村上の声は自信に満ちていた。

 「情シスって損な部門だろう? 営業のように数字で評価されることもなく、ベストを尽くしてシステムを安定稼働させても、感謝されることはない。そのくせ、一度トラブルが起きようもんなら会社中から袋だたきだ」

 「……そういうところは、ありますが」

 羽生もこれには同意した。システム安定稼働のために毎日深夜まで働いても、労われることはない。稼ぎのない金食い虫だと陰口をたたかれることもある。システムがトラブルを起こしたら、明日の朝までに動かせと命じられ、深夜だろうと正月だろうと会社に飛んでいき、やっと正常に戻ったかと思えば、周囲から散々非難される中、始末書を提出する。

 小塚のような営業畑で出世していく人間たちは、果たして自分たちのような苦労をしているのか。羽生の心に、普段はあえて考えずにおこうと意識している紫色のモヤのようなものが広がった。

 「考えてごらんよ。今はITの時代だ。ITがなけりゃ、われわれの商売はにっちもさっちもいかない。社長の言う新しい企画だって、ITを前提に考えてのことだ。社内一番のIT通である君が、企画を出さないでどうする」

 村上はそこまで言うと、「とにかく頑張って」と付け加えて去っていった。

 「ITの時代……ねえ」

 羽生はつぶやくと、PC画面の前面に出ていたメールソフトを閉じた。その後ろから、「ラ・マルシェ AI在庫管理システム企画書」と題されたWordファイルが姿を現した。

つづく




 「コンサルは見た! 情シスの逆襲」第4話「営業部のEUCだけど、契約だけ情シスでやれってこと?――情シスはつらいよ

書籍

システムを「外注」するときに読む本

細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)

システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。

※「コンサルは見た!」は、本書のWeb限定スピンアウトストーリーです

細川義洋

細川義洋

政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる

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