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次世代の高速無線LAN規格「Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)」とは?Tech Basics/Keyword(1/2 ページ)

最近、無線LANルーター製品の中に「Wi-Fi 6対応」といった記載が増えてきたと感じていないだろうか。この「Wi-Fi 6」とはこれまでの無線LANとは異なるものなのだろうか? 何が新しいのか、Wi-Fi 6の正体を解説しよう。

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Wi-Fi 6は多数のクライアントがある環境でも高速な通信が可能
Wi-Fi 6は多数のクライアントがある環境でも高速な通信が可能
「Wi-Fi 6」とは「IEEE 802.11ax」のことだ。IEEE 802.11axでは、多数のクライアントが密に集まるような場合にも高速な通信を行えるようになるのが特徴である。

 量販店などのオンラインサイトで、「Wi-Fi 6対応」をうたう無線LANルーターをよく見かけるようになったと感じないだろうか? この「Wi-Fi 6」とはどういったものなのだろうか? 既存の無線LAN「IEEE 802.11」規格とは違うものなのか? その辺りを解説していく。

Wi-Fi 6とは?

 Wi-Fi 6とは、次世代の無線LAN規格「IEEE 802.11ax」のことである。そもそも「Wi-Fi」(「WiFi」という表記も見かけるが、「Wi-Fi」が正しい)は、無線LANとなるIEEE 802.11仕様機器のうち、「Wi-Fiアライアンス」という無線LANの業界団体が認証したものに対して利用を許可している名称である。

Wi-Fi 6の認証に合格した製品に付けられる認証マーク
Wi-Fi 6の認証に合格した製品に付けられる認証マーク

 しかし、IEEE 802で規定されている無線LAN規格は、すでに幾つもの仕様が登場しており、「Wi-Fi」という1つの名前だけでは、仕様を区別できないし、新製品であることも示しにくい。もっとも「Wi-Fi」という名称が無線LANの普及にどういう影響があったのかは不明だが、「無線LAN」「IEEE 802.11何とか」に並ぶ名称として「Wi-Fi」という呼び方が普及しているのも確かだ。

 このため、Wi-Fiアライアンスは、IEEE 802.11n、同11ac、同11axの3つの仕様について、「Wi-Fi 4」「Wi-Fi 5」「Wi-Fi 6」という名称を使うことにした(Wi-Fi Allianceのプレスリリース「世代の異なるWi-Fiテクノロジーがひと目で分かる、世代識別の新たなアプローチ」)。

名称 仕様 策定年 最大転送速度(理論値)
Wi-Fi 4 IEEE 802.11n 2009年 600Mbps(0.6Gbps)
Wi-Fi 5 IEEE 802.11ac 2014年 6900Mbps(6.9Gbps)
Wi-Fi 6 IEEE 802.11ax 2020年(予定) 9600Mbps(9.6Gbps)
Wi-Fi 4〜6の規格

 なぜ、「Wi-Fi 1」とか「Wi-Fi 2」がないのかというと、IEEE 802.11n以前のIEEE 802.11a/b/gに関しては、すでに過去の技術であり、今後新製品に搭載されることもないからだ(もちろん、互換性のために対応する機器は今後も出荷される)。また、技術的な面からいうと、IEEE 802.11bなどは、通信方式が違うため、同じ周波数帯を使う他の仕様の無線LANに影響を与え、転送速度の低下などを引き起こす。そのため、今では利用しない方がよいとされている。そこで、共存が可能な最近の仕様のみに番号付きの名称を与えたと考えられる。

 ここでは、「Wi-Fi 6」こと「IEEE 802.11ax(以下11axと略す)」についての解説を行う。解説対象としては、11axであり、Wi-Fiアライアンスの認証などについては触れないが、基本的には「Wi-Fi 6」のことだと思っていただいて構わない。

 無線LANでは、接続する機器側を「ステーション」と呼ぶが、一般にはなじみがないため、ここでは「クライアント」と呼ぶことにする。なお、ネットワーク側に配置される機器は「アクセスポイント(Access Point:AP)」とする。

Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)の特徴

 11axとは、2.4GHz帯と5GHz帯を使う無線LANの仕様である。11axは、当初「HEW(High-Efficiency Wireless)」として標準化が始まった。IEEE 802.11acと11adは、当初「VHT(Very High Throughput)」と呼ばれており、HEWはその次の世代となる無線LANとして仕様を固めることになった。

Wi-Fi 6の特長(1): 大量かつ密集しているクライアントのスループット向上

 11ax最大の特長は、多数のクライアントが密集するような環境で端末のスループットを改善させることにある。現在では、スタジアムのようなスポーツ施設、劇場のような娯楽施設、大規模モールなどの商業施設、駅や空港などの交通関連施設、学校などの教育施設など、多数の人が密に集まるさまざまな場所で、無線LANによるインターネット接続サービスが提供されている。しかし、こうした環境は、従来の無線LANではあまり想定されていなかった。

 11axの目標の1つは、こうしたクライアントが密に集まる環境で端末のスループットを従来の11acの4倍以上に引き上げることである。そのため、11axには、より多数のクライアントと接続を可能にする技術が導入された。イメージ的には、通信帯域を周波数、空間で分割し、同時に多数のクライアント宛の通信を可能にするという感じだ。

より多くの端末をサポートする
より多くの端末をサポートする
IEEE 802.11の無線LANは、通信をフレーム単位で行い、時間軸上で複数の端末と通信するのが基本である。これに対して11acでは、MU-MIMO(後述)により、複数端末との同時通信を可能にした。11axではさらにOFDMA(後述)で周波数を分割して複数端末と同時に通信できるようにした。

 無線LANは、フレームと呼ばれる単位で通信を行う。11axでは、1フレームで同時に通信を行えるクライアント数を増やした。従来の無線LAN方式では、1フレームでは最大1つ(11nの場合)、あるいは4つ(11acの場合)のクライアントとしか通信が行えず、それ以外のクライアントは別のフレームで通信していた(いわゆる時分割)。

Wi-Fi 6の特長(2): IoTとの接続を考慮

 この他に考慮されたのは、IoTなどの機器や組み込み機器との接続である。IoT機器との接続では、大きな帯域は必ずしも必要ないが、非常に多数のIoT機器を接続する必要がある。

 人間が無線LANを利用する場合、1人のユーザーはせいぜい数台、そして人間の体積以上に多数の機器を詰め込むことができないが、IoT機器では非常に狭い範囲に大量の機器が入る可能性がある。こうしたIoT機器や組み込み機器の中には、機器の制御、例えばドローンの操縦など、ある程度リアルタイム性を必要とするものも含まれるため、遅延を最小にしたい場合や、低速でもいいから屋外で遠距離と接続したいという場合が出てくる。

 11axでは、こうした条件も考慮して策定された。また、スマートフォンにしても、PCにしても、あるいはIoT機器などにしても、無線LANを使う機器の多くがバッテリーで動作するため、消費電力を削減することも目標となった。

Wi-Fi 6の特長(3): 最大転送速度の引き上げ

 11axでは無線LANの仕様として当然、最大転送速度の引き上げが成された。まずは、Wi-Fi 4〜6(IEEE 802.11 n/ac/ax)の概略のスペックを下表に示す。

仕様 IEEE 802.11n IEEE 802.11ac IEEE 802.11ax
Wi-Fi名称 Wi-Fi 4 Wi-Fi 5 Wi-Fi 6
2.4GHz対応 ×
5GHz対応
チャンネル幅 20/40MHz 20/40/80/80+80/160MHz 20/40/80/80+80/160MHz
最大転送レート 600Mbps 6.9Gbps 9.6Gbps
変調方式(最大値) 64-QAM 256-QAM 1024-QAM
MIMO(最大) なし 8x8 8x8
MU-MIMO 1 4(下りのみ) 8(上り、下り)
多元接続 CSMA/CA CSMA/CA CSMA/CA、OFDMA
Wi-Fi 4〜6の概略のスペック
11axの最大転送レートは、11acの6.9Gpsに対し、9.6Gbpsに向上している。

 自宅やオフィスなど、それほど密でもない環境の場合、最大転送速度は無線LANの性能に直接関わる問題となる。光ファイバーによるインターネットアクセスや、ギガビットを越える有線ネットワークの普及など、無線LANを高速化しなければならない理由は少なくない。

 こうした背景から、従来の11nや11acと同様、11axでも最大転送速度の向上が図られている。具体的には、変調方式を改良し、従来の4倍のbitを同時に送信できる1024-QAM(Quadrature Amplitude Modulation。直角位相振幅変調。直交振幅変調とも)を採用した。1024-QAMとは、簡単にいえば、10bit(=2の10乗=1024)を同時に送ることだ。1024-QAMとは一回の変調で1024種類の状態を表現できるため、0から1023の数字を1つ送信できるのと同じことになる。

直角位相振幅変調(QAM)は振幅と位相の組合せでビットを表現
直角位相振幅変調(QAM)は振幅と位相の組合せでビットを表現
QAM(直角位相振幅変調)は、位相差と振幅で複数のビットを同時に送信する変調方式だ。11axに採用された1024-QAMでは、一回に10bitのデータを同時に送ることができる。

 これまでの802.11acでは最大256-QAMで、一度に8bitを送信していた。このため最良の条件をそろえたとき、11axは、11acの4倍の帯域を持つことになる。ただし、このQAM方式は数が増えるほど、ノイズや環境の影響を受けやすくなるため、数値を下げて使う。1024-QAMは利用可能なQAMの最大値である。

利用帯域は11acと同じ

 無線LANの通信速度は、変調方式だけでなく、チャンネルとして使う周波数帯域(周波数の範囲)によっても変化する。広いチャンネルを使う方が通信速度は上がる。ただし、帯域を広くすると、無線LANが許可されているバンド内を大きく使うことになるため、隣接して運用できるアクセスポイントが使える周波数帯域が減ってしまう。

 無線電波は、障害物がなければ、遠方に届くこともある。自分では管理できない近隣のアクセスポイント(例えばとなりのビルにある別の会社の無線LAN)から電波が到達してしまうと、それが利用している帯域は制御できず、利用帯域がぶつかり、通信速度が落ちるといった問題が発生しやすくなる。もちろん、アクセスポイントには、空いている帯域を自動で探す機能もあるが、そもそも空いている帯域がなければどうしようもない。なお、11axが利用可能な周波数帯域は、11acと同じく20/40/80/80+80/160MHzの5種類である。

11acで導入されたMU-MIMOも11axで強化

 11acでは、複数のクライアントと同時に通信するMU-MIMO(Multi User MIMO)では、アクセスポイント側の能力としては最大8ストリームだが4ユーザーまでに制限されていた。つまり4台のクライアントと同時通信が可能だった。これに対し、11axでは、これを最大8ストリーム、8ユーザーに引き上げた。これにより、複数クライアントが接続する際に転送速度が落ちてしまうのを防ぐことができる。

 また、11acでは、下り(アクセスポイントからクライアントへの送信)のみだったMIMOを上りでも可能にした。ただし、MIMOは、利用可能な通信帯域を分割して利用するものなので、分割すればするほど、1クライアントが利用できる通信帯域は小さくなり、転送速度が落ちてしまう点に注意したい。

 次ページでは、11axの特徴である多数のクライアントをサポートするために導入された技術を解説する。

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