似たようなデータベース作ったからって、泥棒よばわりするのやめてもらえません?:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(76)(4/4 ページ)
私がおたくのデータベースをパクったですって? いやいや、こんなもん誰が作っても同じものになるでしょ。
平凡でも、ありきたりでも、ソフトウェアの権利は開発者のもの
今回は、同じような処理を実現するデータベースであっても、テーブルの構造やテーブル間の関係性に製作者の創意工夫が見られると裁判所が判断し、X社の著作権を認めた。
同じ処理を行うにしても、他の人間がデータベースの定義を行えば違う構造になっていただろう、この構造はこの開発者だからできたのだろうと推定できるものは著作権が認められる余地がある、というのが私の解釈である。
その判断の基準となるのは、「開発者が素晴らしい発明をしたかどうか」ではないし、「出来上がったソフトウェアが、これまで見たこともないような動作をするか」でもない。「開発者が、自分の考えでテーブルの構造や処理方式を生み出したかどうか」が問題なのであり、結果、それが“発明”ともいうべき独創的なものであることまでは求められないのだ。
“創意”と“独創”は必ずしも同じものではない、ということだ。
たとえ出来上がったソフトウェアが平凡なものでも、それが何かをマネたものではなく、異なる開発者が作れば異なる方式になるものであるなら、それは著作物として認められる可能性が十分にある。
技術者Yは、バス旅行の行程作成というどの旅行会社でも使うシステムであれば、誰が作っても似たようなデータベース構造になるはずだし、そうしたものが著作物として認められることはないと考えたのかもしれない。しかし、たとえ業務が平凡でも、そして、それを支援するソフトウェアが珍しいものではなくても、誰かが自分で考えて作ったものの権利は、その人間に帰属する。GitHubなどで明示的に公開されているもの以外は、他人の著作物は基本的に使えない。そう考えた方がよいだろう。
細川義洋
政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。
独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。
2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる
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