モノづくり企業、デンソーが作ったSRE課の役割、「目標はこの部署が不要になること」:「個人や部署間の壁をできるだけ低く」(2/2 ページ)
結局、「SRE」とは何を意味するのだろうか。誰が何をどう、どこまでやることなのか。モノづくり企業、デンソーがデジタルトランスフォーメーションの過程で実践を通じてつかんだ意味とは。そしてなぜ、「将来、SREチームは不要になることが望ましい」のか。
「運用と経験は競争力の源泉」
SRE課で心がけていることは2つあると、石田氏は話した。
1つ目は、「運用は競争力の源泉」ということ。サービスでは、顧客に使ってもらって初めて評価が得られる。運用を確実に行い、そこで得られた顧客からの反応を基に、必要な機能の開発提案など、開発チームに対してフィードバックを行う対策検討会議を実施する。また、品質のつくり込みと運用の効率化のバランスを保てるよう、運用チーム側が課題の早期発見や早期解決を行う裁量を持てるようにSRE課として働きかける。
2つ目は「経験は競争力の源泉」という点だ。不確実性の高い世界なので、教科書的に学べることはない。経験からしか学べない。だからといって事故を招くわけにはいかないので、早期に対処すべきリスクと許容できるリスクを見定め、メリハリのついた開発・運用を心がけている。こうした見極めに必要な経験を、運用によって蓄積していくという。
各スクラムチームに配属されたSRE課のメンバーは、プロダクトバックログの作成と、受け入れ基準の策定でプロダクトオーナーを支援する。スパイクに入る前の、プロダクトバックログのリファインメントについても運用の観点からコメントを行い、必要であればSRE課としてスパイクの作業を行い、スプリントバックログにつなげる。
一方、SRE課ばかりにスキルやノウハウが蓄積されることを防ぐため、スプリントバックログでは開発チームとモブプログラミングを行うなどしているという。
プロジェクトごとにSRE課の関与度は異なるが、あるプロジェクトでは上図のような役割を担っているという。プロジェクトに入ったSRE課のメンバーが取りまとめを担当する形で、SRE課全体がプロジェクトの支援を実施している。
究極の目標は「SRE課が要らなくなること」
「よく、『スクラムマスターの最後の仕事は自分の首を切ること』だと言われるが、SRE課の究極の目標は『SRE課』が要らなくなること。SRE課が不要なチームがたくさん生み出せれば、SRE課が成功したと言える」(石田氏)
実際にこれを目指した活動をしているという。
現在SREチームが備えている技術的な素養を、各プロジェクトの開発チームが備えられるようにすること、そしてプロジェクトチーム同士が知識や経験を交換し合えるようにすること、を促進しようとしているという。
デンソーにおけるSRE課の活動は、GoogleによるSREの説明の中でいえば、サイロを低減することに重点を置いているという。だが、サイロを壊すのは困難だと石田氏は話した。
「サイロはあらゆるレベルにある。個人の中でも心と頭の間に壁ができることがある。個人とチームの他のメンバーとの間にもある。チーム間にも存在し、さらに部署、部門間でも存在する」
そこで、サイロをなくすことよりも、透明化することに力を入れているという。
具体的にはSRE課内での雑談を通じたアイデアや経験の共有から、デジタルイノベーション室全体としての雑談に広げていく。さらに、デジタルイノベーション室のノウハウを全社的に公開する、ソースコードを全社的に共有する「Inner Source」の取り組みを進める、社内で研修やトークの機会を増やす、など、個人や部署の考えやノウハウ、成果を共有し合う活動を進めているという。
石田氏は、デンソーのデジタルイノベーション室SRE課がこれまでの取り組みから学んだこととして、「開発・運用を回していくことにより経験を獲得し続けるしかない」とあらためて語った。「そのためにできることは何でもやる。みんなで楽しみながらやり続けようと思っている」
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