ベンダー一揆を回避したいなら、この情報をうまく使ってください:コンサルは見た! 偽装請負の魔窟(9)(3/4 ページ)
偽装請負に苦しむ先輩を助けるために、白瀬が乗り込んだのはユーザー企業の法務部だった。そのころ江里口はある老人を訪ねていた――。
白瀬の提案
「もちろん、われわれもことを荒立てるつもりはないんです。ですが、もうこんな偽装請負はやめにしたい。しかし、山谷さんや田中さんにお願いしても、正直らちが明かないんです」
「そうだろうね」
小関の息を飲む音が、翔子にも聞こえた。
「しょ、証拠はあるの?」と尋ねる小関の前に、翔子がプリントアウトの束を差し出した。
「サンリーブスや東通のメンバーたちがイツワの行員から受けた作業指示のメールや作業記録をそろえました。ここに来る前に他のベンダーも説得してきました。みな、サンリーブスの状況を見て明日はわが身と、自分たちの記録を出すことに合意してくれています」
「パートナー企業全社が?」
「ええ。偽装請負が違法行為であることは、皆さん承知しています。そして皆さん、少なからず迷惑をこうむっていたということでしょう」
「しかし……だからといって、私が内部で告発しても、山谷さんは次期取締役の有力候補だし、後ろ盾になる役員だっている。簡単に握りつぶされてしまうよ」
「もちろんです」
白瀬がうなずいてから背中を丸め、少しだけ小関に顔を近づけた。
「小関さんの上司赤谷法務部長は、次期取締役レースで今若干山谷さんに後れを取っていらっしゃるとか……」
白瀬は、このネタを同僚のイツワ担当コンサルタントから仕入れていた。
ニコリとしながら、姿勢を元に戻す白瀬に、小関の人の良さそうな顔が一度白くなり、それから再び赤みを取り戻した。
「これを、うまく使え……と?」
「それで事態が改善されるなら、ベンダーたちにも、赤谷部長や小関さんにも、そしてイツワ銀行にも、望むべき方向だと思いますが」
目の前で、小関の顔が明るく変わっていくのを見ながら、白瀬はこんな闇取引まがいの話を持ち掛けた自分に対する嫌悪感が、ほんの少しだけ心に広がるのを感じた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- コンサルは見た! 偽装請負の魔窟(1):口うるさいプロマネはチェンジだ!
システムと人間のトラブル模様を描く「コンサルは見た!」。Season5(全11回)は「偽装請負」が招く悲劇を描きます。美咲と白瀬は、心身ともにボロボロになっていくエンジニアたちを救えるのか――? - YOU、読んじゃいなよ――小説で学ぶシステム開発トラブル解決法「コンサルは見た!」、待望の電子書籍化
人気過去連載を電子書籍化して無料ダウンロード提供する@IT eBookシリーズ。第43弾は「コンサルは見た! Season1 与信管理システム構築に潜む黒い野望」。粗い要件定義書、荒ぶるユーザー担当者、銀行業務に明るくないシステム開発会社――箱根銀行のシステム開発プロジェクトのトラブルを若手コンサルタントが解決する痛快IT小説だ - AIシステム発注に仕組まれたイカサマを美人コンサルは見抜けるのか?!――システム開発トラブル小説「コンサルは見た!」、Season2が早くも登場
人気過去連載を電子書籍化して無料ダウンロード提供する@IT eBookシリーズ。第45弾は、「コンサルは見た!」シリーズのパート2が早くも登場。正式契約をにおわせて無料でプロトタイプを作らせた揚げ句、AIの学習データまで奪った悪徳顧客。だまされたシステム開発会社は泣き寝入りするしかないのか――? - コンサルは見た! 情シスの逆襲(1):裏切りの情シス
小塚と羽生――同期入社の2人を引き裂いたのは、大手高級スーパーのIT化を巡る政治と陰謀だった。「コンサルは見た!」シリーズ、Season4(全12回)のスタートです - コンサルは見た! オープンソースの掟(1):ベンチャー企業なんて、取り込んで、利用して、捨ててしまえ!
ソースコードを下さるなんて、社長さんたらお人よしね――「コンサルは見た!」シリーズ、Season3(全9回)のスタートです