技術力”だけ”あれば育成できる? 技術力より大切な「受け入れる気持ち」を高める方法:エンジニア育成担当者のためのはじめの一歩(1)
自分の技術力に自信がなく、新人や後輩の育成方法に悩むエンジニア育成担当者に向けて、すぐに使える育成スキルを紹介する本連載。初回は、技術力に自信のない人が持っているアドバンテージと、育成担当者に必要な「受け入れる気持ち」の高め方について。
業務を進めていくうちに、後輩エンジニアの育成を任されることもあるでしょう。そんなとき、技術力に自信がないと、後輩をうまく育てられるか不安になりますよね。でも、大丈夫です。技術力は、育成に必要なスキルの内の一つでしかなく、後輩よりも技術力があれば問題ありません。
筆者は、ソフトウェア開発現場で、エンジニア育成支援を仕事にしています。そこでは、育成者に育成のための簡単な知識を付けるだけでぐっと後輩が変わったことがありました。また、技術力が高くない人が、育成で貢献する場面も多く見てきました。
そこで本連載では、自分の技術力に自信がなく、新人や後輩の育成方法に悩むエンジニア育成担当者に向けて、すぐに使える育成スキルを紹介します。自信を持って後輩を育成し、職場へ貢献できるようになることを目指します。
第1回は、技術力のある人が育成時に起こしやすい問題を紹介し、問題が起こる要因や、育成に重要な能力、技術力に自信のない人が持っているアドバンテージを解説します。その上で、育成担当者に必要なものは何かを紹介します。
技術力の高い人が育成担当で困った事例
技術力の高い人が新人育成のときに見掛けた光景です。このような経験をしたり、見たりしたことはありませんか?
リポジトリと環境が用意できたから、このチケットやっといて。必要なドキュメントは、チケット詳細にあるから、分からなかったら聞いて
分かりました。やってみます(あれ、具体的なことはあんまり教えてもらえないのかな……)
任せたチケットどうなった?
ドキュメント見たんですけど、指定のライブラリが読み込めなくて
分からなかったら聞いてって言ったじゃん。他のコード読んだら分かると思うけどさ……
(私ができなさ過ぎるのかな。教えてもらう時間取ってしまって申し訳ないな)
すみません。ここが分からなくて……
タイムオーバー。俺が代わりに作ってコミットしといたから、見て勉強しておいて
(え、自分がこれまでやっていたのは、無駄……? 私は何の役にも立てないんだなぁ)
これらの流れを見て、皆さんはどう感じるでしょうか?
後輩に対して、このような接し方をしていると、技術的に育たないばかりか、心理的にも負担を感じてしまいます。個人的に、現場を見ていると技術が得意な人の方が、こういった対応に陥りがちな懸念があると思っています。
技術力の高い人が良くない指導方法を取るのはどうして?
技術力の高い人は、嫌がらせをしようとして、良くない指導方法を取っているわけではありません。
先輩は、後輩に教えたり任せたりするときに、今の自分より少し低いレベルに設定して話してしまう傾向にあるため、「この説明で大丈夫」と思い、説明が不足になりがちです。難し過ぎるタスクを渡してしまうこともあるでしょう。また、先輩が教える時間を取れないことや、先輩が教え方を知らないことが原因で、先輩が後輩のタスクを巻き取ってから、完成物を見て勉強をするように言っておくこともあります。しかし、この方法の学習効果は高くありません。
これらの方法で指導すると、後輩はいつになっても能力が身に付かず、この状況が繰り返されてしまいます。難し過ぎるタスクを渡すことが繰り返されると、挑戦しても無理だったという経験が積み重なり、技術に対して苦手意識を強めて、学習意欲が下がってしまうのです。
そして、さらに大きな問題になるのがメンタル面です。技術力の高い育成者は、後輩の技術力が低いことを理解できないため、後輩の行動を見たときに「やる気のなさ」を原因だと考え不満に思ってしまうかもしれません。育成者が、過去に我慢して義務感で技術力を身に付けた経験があると、自分の我慢した行動を正当化したい気持ち(認知的不協和)を抱きます。技術力が低いことを受け入れられずに、同様の義務感を求めることになるため、後輩への不満が大きくなります。不満を感じると、後輩に対しての接し方が厳しくなってしまいます。
言うまでもありませんが、そのような接し方が続くと、後輩は精神的につらさを感じることが多くなります。最悪の場合は、メンタル不調や退職につながってしまいかねず、とても危険です。
上記の良くない指導方法は、もちろん全員が取ってしまうわけではありませんが、技術力の高いエンジニアはこのような行動に陥る懸念があります。意識的に人間の仕組みを考え、接することで、十分に回避可能です。しかし、技術力に自信がない人の場合は、意識的に取り組まずとも無意識にクリアできる部分が多いのです。
技術力に自信がない人だと、どうなるの?
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