悪いのはベンダー! 「わび状」という証拠もあります!:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(87)(3/4 ページ)
ユーザー企業が契約範囲外の作業を行わせたり、不合理な方針変更をしたりして頓挫したプロジェクト。だがユーザー企業は、責任はベンダーにあるとして、20億円の支払いを要求した。
裁判所の見解
東京高等裁判所 令和2年1月16日判決(つづき)
基本設計において、ベンダーが提示した画面設計のドキュメントが、新要件定義書1.0に従っていないものであったことを裏付ける具体的な事情はうかがわれないし、ユーザー企業のカスタマー部門からの指摘や要請がそのまま反映されていないとしても(中略)そのことをもって、直ちにベンダーの作業のクオリティーが低かったことを裏付けるとはいえない。
また、ベンダーは、RFP(提案依頼書)を作成する業務をユーザー企業から請け負い、実際に本件RFPを作成したこと、旧要件定義書などについて(中略)検収を経て納品がされていること(中略)、新要件定義書1.0を作成して納品している。
(中略)
さらに、ベンダーによるユーザー企業の現行業務の理解が不十分であったとしても、(中略)正確な情報が提供されていなかったことによると認められ、専らベンダーに責任があることとはいえない。
(中略)
ベンダーのプロジェクト管理体制などが不十分であることを認める趣旨の前記書面についても、これらの書面は、請負契約の注文者と受注者という関係の下で作成、提出されたものであって、前記認定事実に関る経緯の下では、そのような記載があることをもって、直ちにベンダーのプロジェクト管理体制の不備があり、それが基本設計工程の遅延の原因であったことを裏付けるものとはいえない。
裁判所は数々の根拠を基に、ベンダーに不備はなかったと論じ、ユーザー企業の訴えを退けた。
大事なのは事実との合致
判決文が長くさまざまな論点について裁判所が判断したため、文章の抽出に中略が多く、多少説明不足になっている点があることを、おわび申し上げる。
ただ、裁判所がわび状の内容だけを見て判断していないことはお分かりいただけたと思う。要件定義書と設計のズレ、納品の有無、ベンダーの業務不足の理由などについて、ベンダーにどれほどの責任があるのかを検討し、その上で、確かに管理体制などの不十分の記載はあるが、それは注文者と受注者の関係、つまり顧客の意に沿った文面を作成せざるを得なかったであろうベンダーの立場を考慮して判断をしている。
ベンダーの出すわび状や謝罪は、裁判において重要な判断材料ではあるが、それのみによって直ちにベンダーの非を追求するのではなく、他の事実と併せて検討すべきものであるという考えが、この判決文から読み取れる。
わび状の存在だけが全てではないのだ。
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