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暗号資産の将来は「トップダウン」か「ボトムアップ」かGo AbekawaのGo Global!〜David_Schwartz編(後)(2/2 ページ)

グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。前回に引き続きRippleのCTO、David Schwartz(デビッド・シュワルツ)氏にお話を伺う。暗号資産業界で先陣を切るRippleにおいて同氏が最も重視するのは「エンジニアへの敬意」だった。

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暗号資産業界でエネルギー問題を扱う意味

阿部川 新しい、しかも変化の激しいブロックチェーンの市場や技術においては、なお難しいでしょうね。その中でRippleはエネルギー問題についても注力していますね。脱炭素化の視点や戦略が、他の暗号資産を活用する企業とは違うと感じています。

シュワルツ氏 はい、それはとても重要な点だと認識しています。例えば暗号資産「Bitcoin」は取引の安全性を保つために恐ろしく膨大なエネルギーを消費します。当初、Bitcoinが誕生したときは、人々はProof of Work(マイニング作業によって暗号資産の取引や送金を承認する仕組み)があることを称賛しました。

 Bitcoinが素晴らしい点は2つあって、1つは検閲を許さないこと、1つは全ての取引が公表され、その自由を運営上阻害するものがないこと、だと思います。ただ、これらの実行に必ずしもProof of Workは必要ありません。

 結果的にBitcoinはエネルギーの膨大な浪費という観点から、この地球上で一番高額な取引形式や証明(承認)の方法を作ってしまったのだと思っています。こうした状況を「金融システムや暗号資産そのものの持続可能性を脅かしている」と憂慮する人もいます。

阿部川 その意味から、Rippleは「暗号資産気候協定」(Crypto Climate Accord)のメンバーになっているわけですね。

シュワルツ氏 そうです。暗号資産に関わる企業が参加し、設定したゴールにコミットする取り組みです。

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Rippleは暗号資産気候協定の創立メンバーとして参画(出典:Ripple)

 Rippleが活用する暗号資産「XRP」は他の暗号資産に比べてエネルギー消費が少ないので大規模な変更は不要ですが、例えばBitcoinであればアルゴリズムの移行などの作業が必要です。ただ、関係する人々が「エネルギーの浪費」を問題視しないことと、脱炭素化を実現させることによるインセンティブが働かないことが問題です。

 RippleはXRP Ledgerを構想しはじめたころから、持続可能なモデルについて話しています。エネルギー消費とはどのようなことなのか。どうやって使ったらいいか。どれくらいエネルギーを消費するのか。炭素はどれくらい排出されるのか。代替手段は何かなど賛否も含めて、啓蒙(けいもう)し続けています。

 現在、暗号資産の気候に対する問題は大きな注目を集めており、米国も法制化も含めて重大な関心を寄せています。これが重要だと認識して、この取り組みを進めなければなりません。

阿部川 まずは問題をしっかり把握することですね。Bitcoinが悪いわけではなく、エネルギーの浪費を抑えるためには何をすべきかということですね。

シュワルツ氏 その通りです。私は決して、Bitcoinはなくなるべきだ、使われるべきではない、などと主張しているのではありません。Proof of Workを他のシステムに移行できれば、Bitcoinは今でも競争力のあるプログラムだと思います。私たちはより建設的に議論しなければならない。

 もちろん競争を否定するつもりはありませんが、技術は進化していかなければならないのです。そこに問題があるということを無視せず、建設的にそれに対処しようということです。人々が自ら意識しなければ、状況は良くならないのです。

阿部川 今から10年後、暗号資産の業界はどのように変化していくでしょうか。

シュワルツ氏 2つの視点がありますね。トップダウンか、ボトムアップか。

 暗号資産を活用する企業が取引や送金の仕組みを運営するトップダウンの視点では、グローバルレベルで「金融の流動性」が発達すると思います。世界中の全ての金融機関での現金のやりとりが、ほんの数秒で非常に安価で完了し、それが全て中央銀行の帳簿に反映される。そんな世界を想像してみてください。素晴らしいと思いませんか。問題があるとすればリスクの対処ですね。トップダウンで金融の流動性を担保するからには、リスクを極力軽減した上で迅速な取引ができるようにすべきです。

 ボトムアップの視点では、Bitcoinやオープンソースのブロックチェーン「XRP Ledger」のように一般の人々がブロックチェーンにアクセスできるツールが増え、資産の自由化がより加速すると思います。自分が持ちたい方法でより自由に資産を所有できることが大事です。10年あればそういったさまざまな資産をネットワークで自由に行き来させることができるようになると思います。

阿部川 わざわざ銀行に行く必要もありませんし、海外の銀行に口座を作って、そこ経由させて別の銀行に振り込む……といった手間もなくなりますね。

シュワルツ氏 その通りです。Rippleはどちらかというとトップダウンの考え方ですが、現在XRPを含む多くの暗号資産が使われていますから、ボトムアップにシフトする可能性もあります。ただ、ボトムアップで大切なのは使いやすさです。顧客体験が卓越していないといけません。それは暗号資産業界の大きなチャレンジですね。

皆、「自分の仕事にプライドを持って仕事がしたい」と思っている

阿部川 キャリアや将来についてどのように考えればいいか、エンジニアの方にヒントをいただけますか。

シュワルツ氏 最も大切なことは、プライドの持てる仕事、自分が信じることができることを探すことです。そしてビジョンを共有できる仲間を探してください。チームで難局に耐える方が、たった一人で難局を乗り越えることよりも楽です。

 ビジネスはプロフェッショナルスポーツのようなものです。チームの全員がベストを尽くし、皆が一所懸命戦い、練習し、努力する。自分たちより強いチームが現れれば負けることもあります。それでもチームの方が「相手の方が自分たちよりうまかった」ということを受け入れやすいのではないでしょうか。

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「プライドの持てる仕事、自分が信じることができることを探すことです」

 もしあなたがリーダーの立場なのであれば、メンバーが一所懸命努力していることを理解しなければなりませんし、皆「自分の仕事にプライドを持って仕事がしたい」ということを分かった上で対応しなければなりません。この仕事は価値があると強制することなどできないのです。皆が自発的に思えるようリーダーは導いてあげる必要があります。

 キャリアを探しているとき、自分にとって十分意味があることを探してほしいと思います。物事の表層的な部分だけではなく、あと一歩踏み込んで考えることが有効かもしれません。実際に自分の仕事を楽しみ、エキサイトして仕事をしている人をどうぞよく見てほしいと思います。成功するにしろ失敗するにしろ、自分にプライドを持って自分の興味のある分野や自分が重要だろうと考える分野を探してやってみてください。

阿部川 やりたいことが分かっていても、それを表現するのが難しいということもあります。

シュワルツ氏 私もそうでした(笑)。ですので何とか失敗から学ぼうとしましたね。ただ、どうしても成功しないなら、同じようなことを繰り返してはいけません。何が間違っているのかを見極め、次回からはそれを避けることです。

 これは言うほど簡単ではありません。特に物事の渦中にいるときは、一歩下がって俯瞰(ふかん)するのは難しいものです。ですから、時々でいいので一歩下がって少し離れたところから、第三者の視点に立って全体を見るようにしてください。「これは本当に自分が必要としていることだろうか」と自問自答してみてください。

 このような話をしていると、まるで「宝くじを当てたいので、当たっている番号を教えてくれ」と言っているような気分になってきます(笑)。あるいは「自分のアドバイスを聞いたところで役に立たないのではないか」とも思ってしまいます。多く失敗している男がその経験を基にアドバイスしているのですから。もしかしたら「私の言うことを聞いてはいけない」というのが一番のアドバイスかも知れません(笑)。

Go's thinking aloud

 Go Globalに登場いただく方々は早口の方が多い。頭の回転に口がついていかず、もどかしげに急いで言葉を紡ぎ出す。デビッドさんもそういう人だった。

 ブロックチェーンは、サトシナカモトの論文からわずか10年足らず、まだまだ新しい技術だ。新しいが故に、その消費エネルギーの多さや二酸化炭素の放出量などの環境面、横領など犯罪との関わりが批判の的になっている。それをどう考えているか。インタビューでは問いたいとも思っていたが、結果的に直接尋ねることはやめた。なぜか。

 Rippleは競合ひしめく暗号資産の市場で他のプレイヤーとは一線を画す。理由は3つ。国際送金に焦点を当てていること。XRP Ledgerがオープンソースであること。そして何よりエンジニアの誇りを第一に考慮する、このCTOがいることだ。エンジニアに対して誇りと行動を語り、信頼できる仲間を持とうと情熱的に鼓舞する彼が、自分だけうまくいけばいい、もうかればいいなどと考えるはずはないと確信したからだ。

 1950年代には「モノ」の輸送が始まり、1980年代はWebブラウザで「情報」が運ばれた。そして2020年代、インターネットは情報に加え、「価値」と「お金」を運ぶ、信頼のプロトコルとなるのか。世界規模の「分散型台帳」が批判を受けることなく実現するかどうか。「インターネットの次の次」の可能性は、そこにかかっていると言っても過言ではない。

阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)

アイティメディア 事業開発局 グローバルビジネス戦略室、情報経営イノベーション専門職大学(iU)教授、インタビュアー、作家、翻訳家

コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時より通訳、翻訳も行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在情報経営イノベーション専門職大学教授も兼務。神戸大学経営学部非常勤講師、立教大学大学院MBAコース非常勤講師、フェローアカデミー翻訳学校講師。英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーとして講座、講演を行うほか、作家、翻訳家としても活躍中。

編集部から

「Go Global!」では、GO阿部川と対談してくださるエンジニアを募集しています。国境を越えて活躍するエンジニア(35歳まで)、グローバル企業のCEOやCTOなど、ぜひご一報ください。取材の確約はいたしかねますが、インタビュー候補として検討させていただきます。取材はオンライン、英語もしくは日本語で行います。

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