人知れず消えた古い「仮想マシン構成バージョン」のサポート:山市良のうぃんどうず日記(217)
最新サーバOS「Windows Server 2022」のリリースに続いて、最新デスクトップOS「Windows 11」の一般提供が始まりました。これらのOSをプレビュー段階から評価している中、1年以上気が付かなかった、「Hyper-V」の重要な仕様変更を見つけました。筆者が気が付かなかっただけのことですが、そもそも公式ドキュメントが追い付いていないんです。
Windows Server 2012 R2の仮想マシン構成バージョンのサポートが消えていた
WindowsやWindows Serverの「Hyper-V」の「Get-VMHostSupportedVersion」は、サポートされる「仮想マシン構成バージョン」や、既定の構成バージョンをレポートしてくれるコマンドレットです。プレビュー段階では、Windowsの新バージョンの製品名やバージョン番号を予想するのに重要なヒントを提供してくれることもあります。
ただし、このコマンドレットの出力結果は、製品名やバージョン番号が正式に決まる前にフィックスされる場合があり、製品名やバージョン番号に関して正式リリース後も誤った出力結果のまま、ということもあるので注意が必要です(この後登場するスクリーンショットで赤の下線で誤りを示しています)。
「Windows Server 2022」の正式版でこのコマンドレットを実行してみたところ、Windows Server 2022の仮想マシン構成バージョンは「10.0」で、これがホストで既定の構成バージョンであることが分かります。
ちなみに、「Windows 10 バージョン1607」「Windows Server 2016」の既定の構成バージョンは「8.0」、「Windows 10 バージョン1809」「Windows Server 2019」の既定の構成バージョンは「9.0」です。半期チャネル(SAC)やプレビューリリースでも新しい構成バージョンがサポートされることがありますが、常に、直近の長期サービスチャネル(LTSC)の構成バージョンが既定になります(画面1)。
Windows Server 2022の出力結果にある「Windows 10(Manganse)」は、Windows Insiderにかつてあった開発ブランチ「MN_RELEASE」のコード名「Manganse(マンガン)」に対応するもので、この開発ブランチが製品版として一般提供されることはありませんでした。
その後の開発ブランチ「FE_RELEASE」(コード名「Iron/Fe(鉄)」)はWindows Server 2022に、さらに次の開発ブランチ「CO_RELEASE」(コード名「cobalt(コバルト)」が「Windows 11」になっています。
Windows Server 2022の出力結果は、Windows Server 2019の出力結果とは明らかに大きな違いがあります。仮想マシン構成バージョンは、Windows Server 2016において「Windows Server 2012 R2」以前の旧型式の仮想マシンをサポートするために導入され、Windows Server 2019までは「Windows 8.1」/Windows Server 2012 R2の構成バージョン「5.0」から、Windows 10 バージョン1607/Windows Server 2016より前のプレビュー(Technical Preview)バージョン「6.2」「7.0」「7.1」をサポートしていました。Windows Server 2022では「8.0」より前のバージョンのサポートが廃止されているのです。
「New-VM」コマンドレットの「-Version」パラメーターを使用すると、ホストの既定の仮想マシン構成バージョン以外を指定して仮想マシンを作成することができます。Windows Server 2022のNew-VMコマンドレットもまた、バージョン「8.0」より前のバージョンをサポートしなくなっています(画面2)。
いつからの変更なのか調べてみた
半期チャネルのWindows 10とWindows ServerのHyper-Vコンポーネントは共通です。Windows 10 バージョン1809/Windows Server 2019後にこの変更がいつ実施されたのか、Windows 10のバージョンをさかのぼって確認してみました。
Hyper-Vを有効化したWindows 10 バージョン1909は、Windows Server 2019のサポートにWindows 10 バージョン1903(May 2019 Update)/Windows Server, version 1903の構成バージョン「9.1」を追加した状態でした(画面3)。古いバージョンは引き続きサポートされています。Windows 10 バージョン1909はバージョン1903とOSのコアが共通であるため、バージョン1903も同じです。
次のWindows 10 バージョン2004では、Windows 10 バージョン2004(May 2020 Update)/Windows Server, version 2004の構成バージョン「9.2」の追加に加え、古いバージョンのサポートが廃止されました(画面4)。Windows 10 バージョン20H2、21H1、21H2は、Windows 10 バージョン2004とOSのコアが共通であるため、出力結果は同じになります(画面5)。
なお、古い構成バージョンをサポートするHyper-Vホストからエクスポートした仮想マシンを、古い構成バージョンをサポートしないHyper-Vホストにインポートすることは可能でした。その場合、仮想マシンの構成バージョン「8.0」としてインポートされました。
Hyper-Vホストを新しいOSにインプレースアップグレードした場合、通常、ロールバックやホスト間の移動のために、既存の仮想マシンの仮想マシン構成バージョンは維持されます。問題がなければ、「Update-VMVersion」コマンドレットを使用して、手動でアップグレードできます。しかし、古い構成バージョンの仮想マシンは、自動的に構成バージョン「8.0」にアップグレードされる可能性があります。その点に注意が必要かもしれません。
公式ドキュメントが追い付いていない
Windows 10 バージョン2004/Windows Server, version 2004で古い仮想マシン構成バージョンのサポートが廃止されたことは、公式ドキュメントには見当たりません。例えば、以下のドキュメントでは、Windows Server, version 2004および20H2に関する内容がすっかり抜けています。
- Windows Server 2022以降で削除された機能または開発されなくなった機能(Microsoft Docs)
- Windows Server バージョン1903および1909以降で削除された機能または開発されなくなった機能(Microsoft Docs)
Windows Serverのドキュメントにはなくても、OSビルドが共通なWindows 10のドキュメントで説明されていることもありますが、仮想マシン構成バージョンについては全く触れられていません。
- Windows 10で削除された機能(Microsoft Docs)
仮想マシン構成バージョンに関するドキュメントについても、2021年10月13日現在、最新情報としては、Windows Server 2019およびWindows Server, version 1903/1909までのことしか説明されていません。
- Hyper-Vの仮想マシンのバージョンをアップグレードする(Windows 10またはWindows Server)(Microsoft Docs)
ちなみに、Windows 11が半期チャネルから年次チャネルに変更されます。Windows 11のGet-VMHostSupporedVersionコマンドレットの出力結果は、Windows Server 2022の出力結果と同じです(画面6)。Windows 11用の仮想マシン構成バージョンは用意されていないため、Hyper-Vの機能に関しては、Windows Server 2022から変更はないと考えられます。
Windows 11の年次チャネル化に加えて、Windows Server 2022からも半期チャネルが廃止されることが決まっています。ライフサイクルが緩和されることで、現在のドキュメントが追い付かない状況が改善されることを期待しています。
筆者紹介
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2009 to 2022(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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