Windows 10向け最新機能アップデート「21H2」で何が変わるのか? Windows 10の更新プログラムはどうなる?:Windows 10 The Latest
Windows 11の提供が開始され、すっかり影の薄くなったWindows 10だが、2021年秋の機能更新プログラム「Windows 10 November 2021 Update(バージョン21H2)」の提供が開始される。November 2021 Updateでは、どのような機能が追加されるのか、その後の機能更新プログラムはどうなるのかをまとめてみた。
2021年秋の機能更新プログラム「Windows 10 November 2021 Update」では何が変わる
2021年秋の機能更新プログラム「Windows 10 November 2021 Update(バージョン21H2)」の提供が開始される。新しいWindows OS「Windows 11」がリリースされた後、November 2021 Updateでは何が変わるのか。
Microsoftは、「Windows 10」の2021年秋の機能更新プログラム「Windows 10 November 2021 Update(バージョン21H2)」が間もなく提供開始されると発表した。原稿執筆時点では、開発が終了しており、Windows Insider Programに参加しているMicrosoftアカウントでサインインした状態でMicrosoftの「Windows Insider Preview Downloads」ページを開くことで、ISOファイルがダウンロードできるようになっている。2021年11月中には、Windows Updateよる配信が開始される予定だ。
「Windows 11」が提供開始となったことで、Microsoftの開発の中心はWindows 10からWindows 11へ移っており、Windows 10がどのような方向に向かうのか気になる人もいるのではないだろうか。また、Windows 10 November 2021 UpdateとWindows 11のバージョン名が同じ「21H2」であることから、何が異なるのか疑問に思っている人もいるようだ。
そこで本稿では、Windows 10 November 2021 Updateがどのようなものなのかをまとめてみる。
November 2021 Updateの機能追加は3点
Windows 10 November 2021 Updateでは、以下の3点の機能が追加されている。
- 無線LAN(Wi-Fi)のセキュリティ規格「WPA3 H2E」のサポート
- Windows Hello for Businessの「Cloud Trust(クラウドトラスト)」のサポート
- Windows Subsystem for Linux(WSL)のGPUコンピューティング機能のサポート
November 2021 Updateは、あくまでWindows 10に対する機能更新プログラムで、Windows 10に提供されたセキュリティ更新プログラムをまとめたものに加え、幾つかの新機能を提供するものだ。November 2021 Updatを適用しても、ユーザーインタフェースなどが変更されたWindows 11にはならないので注意してほしい。
以下、November 2021 Updateで追加された機能について簡単に説明しよう。
セキュリティ規格「WPA3 H2E」のサポート
WPA3は、無線LANのセキュリティ規格として10年以上にわたって広く採用されているWPA2の後継規格である(WPA3については、Wi-Fi Allianceのプレスリリース「Wi-Fi Alliance、Wi-Fiセキュリティ規格『Wi-Fi CERTIFIED WPA3』を発表」参照のこと)。November 2021 Updateでは、その規格に追加された計算効率の高いアルゴリズム「H2E(SAE Hash-to-Element)」のサポートを行う。
WPA3は、WPA2に比べて高度なセキュリティを実現しており、パスワードを類推して何度もアクセスすることでネットワークに侵入することがほぼ不可能になっている。とはいえ、発表直後から、プロトコルの設計上の問題からWPA3であってもパスワードが盗まれる危険性が指摘されていた。WPA3 H2Eは、その問題点を解消するためのセキュリティ規格になるとして追加されたものだ。
WPA3 H2Eのサポートにより、サイドアタック攻撃(暗号処理の特性を外部から観察することで、内部の情報の取得を試みる攻撃)を軽減できるとしている。
November 2021 Updateでサポートされたことで、今後、WPA3対応の無線LAN機器でのH2E対応が進むものと思われる。
Windows Hello for Businessの「Cloud Trust」のサポート
November 2021 Updateでは、Windows Hello for Businessに新たに「Cloud Trust」と呼ぶ、新しい展開方法をサポートし、パスワードレス環境の展開が数分以内で構築できるようになるという。ただし、November 2021 Updateのリリース時には間に合わず、2022年の早い時期にサポートを開始するとしている。
Windows Hello for Businessは、Windows Helloと同様、パスワードをPINや生体認証(顔認証や指紋認証)に置き換えてサインインできるようにする機能だ。
パスワードは、同じものが使い回されたり、推測や総当たり攻撃により突破されやすかったりする。また、ネットワークをパスワードが流れることから盗まれる危険性があるといった問題もある。そのため、安全な認証方法としてWindows Helloの利用が推奨されている。
Windows HelloとWindows Hello for Businessの違いは、パスワードの保存方法にある。
Windows Helloでは、パスワード情報をPCの「TPM」(Trusted Platform Module: セキュリティ情報を安全に管理するためのハードウェアチップ)に格納し、PINや生体認証によりTPMからパスワードを提示することでサインインを行う。
一方、Windows Hello for Businessでは、パスワード自体をサインインで使用せず、秘密鍵/公開鍵のペアによって認証を行う。TPMにはパスワードの代わりに秘密鍵が格納され、PINや生体認証によりサインインリクエストを秘密鍵で署名して送り、そのリクエストは公開鍵でチェックすることでサインインを可能にするという仕組みだ。
既存のWindows Hello for Businessでは、展開に時間がかかるケースがあった。November 2021 Updateでは新たに「Cloud Trust」をサポートすることで、数分以内に展開が完了し、パスワードレス環境がすぐに構築できるようになるとしている。
WSLのGPUコンピューティング機能のサポート
November 2021 Updateでは、新たにWSL上のLinuxバイナリがGPU(グラフィックスチップ)を計算に利用できるGPUコンピューティング(GPGPU:General-Purpose computing on Graphics Processing Units)機能をサポートする。
WSLでGPGPUの利用が可能になったことで、人工知能(AI)の学習などで計算の高速化が図れるようになった。Linux上には、さまざまな人工知能アプリケーションが提供されており、GPGPUのサポートによって、こうしたアプリケーションも活用できるようになる。
今後の機能更新プログラムはどうなる
November 2021 Updateは、このように大きな機能追加はなく、これまでのセキュリティ更新プログラムをまとめた「累積的なセキュリティ更新プログラム」の色合いが濃いものとなっている。
そのため、Windows UpdateによるNovember 2021 Updateの適用は、May 2021 Update(バージョン21H1)と同様、May 2021 Updateに対する品質アップデートとして含まれていた新機能を「イネーブラー」と呼ばれるプログラムで有効化するものになる。そのため、May 2021 Updateの適用以降に提供されてきた品質アップデートを全て適用していれば、November 2021 Updateへのアップデートは短時間で完了し、再起動も1回で済むようになっている。
Windows 10に対しては、May 2020 Update(バージョン2004)を最後に大きな機能追加が行われなくなっている。Microsoftの開発の主体がWindows 11に移行していたことが伺える。それでも、Microsoftは「2025年10月14日まで、少なくとも1つのWindows 10半期チャネルを引き続きサポートする」としていることから、Windows 10のサポートが終了する2025年10月14日までに何度か機能更新プログラムの提供が行われるのは間違いないだろう。ただ、それはNovember 2021 Updateなどと同様、大きな機能追加のないものとなりそうだ(Windows 11に導入された機能が、Windows 10にも展開される可能性は否定できないものの、今後もWindows 10に対して大きな機能追加はないと思われる)。
逆にいえば、Windows 10はサポートの終了する2025年10月14日まで大きな変更は行われない、ということを意味している。これまで機能更新プログラムが提供されるたびに、互換性の検証などを行っていたと思うが、「機能更新プログラム」が「累積的なセキュリティ更新プログラム」であるとすれば、検証などの手間は大幅に省けるだろう。
企業においては安定的な環境が得られるWindows 10を当面使い続けるというのも悪くない。もちろん、サポートが終了するまでに、Windows 11に移行する必要はあるが。
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