品川でのホームレス経験が「エンジニアの原風景」になった:Go AbekawaのGo Global!〜Tyler Shukert編(後)(2/3 ページ)
グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回はTyler Shukert(タイラー・シューカート)氏にお話を伺う。次々と新しいWebサービスを生み出し、順風満帆な同氏を待っていたのは品川での「明るく楽しい健康的なホームレス生活」だった。
FirebaseとFlutterを武器にカインズ、HubSpot Japanへ
阿部川 そうした経験を経てカインズに入社したのですね。
タイラー氏 はい。カインズは当時からITに力を入れていました。ITの子会社を作って、本格的にちゃんとしたエンジニアを集めて自社で開発したりメディアを立ち上げようとしたりしていて、その一期生として入りました。
阿部川 カインズはホームセンター業界の中でもDX(デジタルトランスフォーメーション)でけん引するようなポジションにいますよね。入社後はどんなお仕事をされたのですか。
タイラー氏 Firebaseと「Flutter」というモバイル開発フレームワークを使ってモバイルアプリケーションを開発しました。ブロックチェーンの会社にいるときにFlutterを勉強していて、カインズに入社するときには一通りできるようになっていたので開発はスムーズでした。
阿部川 2020年に現在お勤めのHubSpot Japanに転職されます。
タイラー氏 ソリューションズエンジニアとしてお声掛けいただきました。簡単に言えばセールスエンジニアです。カインズは休みも取りやすいし、新しい考え方にも寛容です。古い「日本の会社感」は全くない、風通しの良い働きやすい会社でした。ただ「外資で働きたい」という強い思いがあったので転職を決めました。今は営業組織の一員として、API連携やインテグレーションなど、技術的にややこしい話が出てきたときに話をする立場で働いています。
阿部川 先ほど技術は大好きという話でしたが、技術に目覚めたのは大学生後半からでそんなに早くないですよね。もちろん技術習得に早いも遅いもないのですが、タイラーさんはFirebase、Flutterなど目の前に来てやりたいものを自分で探して勉強していますよね。なぜ、どんどん勉強したいと思えるのでしょうか。
タイラー氏 節目節目で「次に自分のツールボックスに欲しいものは何だ」と考えたときに、その場で与えられた選択肢から最善のものを選んできただけですが、根底にあるのは「楽しいことがしたい」だと思います。「もうかるかどうか」はあまり考えず、「どこかでいろいろな人に使ってもらえるサービスが作れたらいいな」とか「起業したら楽しいのだろうな」とか考えています。それでその楽しさを実現するためにどうしたらいいかな、と考えれば自然と勉強が進みます。
阿部川 起業のお話がありましたが、自分で何か物事を興したいというビジネスへの思いがあるのですね。最終的には何を目指していますか。
タイラー氏 うーん、これは私の欠点だと思うのですが、結局「楽しいことがしたい」以上のことがないんです。それに加えて基本的に面倒くさがりなんです。起業するというのは楽しいことばかりではないですよね。華々しいサービス提供の裏には面倒くさいことがたくさんあります。私はそれが億劫(おっくう)で、そっち(起業)方面に思い切りアクセルを踏めない感じです。自分で把握しつつも腰が重たいなという箇所なのですが。
阿部川 そうだったら、それができるパートナーを選べばいいんですよ。タイラーさんはタイラーさんのいいところを生かせることをやればいいし、タイラーさんがめんどくさいことをやってくれるパートナーが出てくれば、できないことではないと思います。
計画した通りにならないことが多いけど、そこに向かうことに意味がある
タイラー氏 どこかで起業したいという思いは漠然とありつつも、最近はオープンソースソフトウェアへのコントリンビューション(貢献)がすごく楽しいんです。自分が書いたコードをいろいろな人に使ってもらって、GitHubに自分のアイコンが載るんです。その方面では日本は進んでいないし、日本のオープンソース界ではまだまだいろいろできそうだなと思っていて、その方面に興味を持ちつつあります。
阿部川 以前この連載でGitHubの中の人にもお話を伺いましたし、ブロックチェーン関連だとリップルの方に「オープンソースを強みとしている」と伺いました。そういった「世界的な数字」に比べると、日本のオープンソースかいわいはもう少し広まってもいいですね。
タイラー氏 オープンソースは世界でもまだまだポテンシャルがあると思います。私が注目しているオープンソースプロジェクトに「Supabase」があります。Firebaseのオープンソース版のようなものです。
私はHubSpot Japanで働きつつ、Supabaseへのコントリビュートも積極的に進めています。最近ではSupabaseのコントリビューターとしてではなくて管理者側として迎え入れてもらいました。Supabaseに対していろいろな人がコントリビュートしてくれたのをレビューしたり、自分も機能を改善したり、ということを海外の方と連携しながらやっています。
阿部川 素晴らしいですね。恐らくタイラーさんはまず自分が楽しくて、1つ集中できることを見つける。それが人に貢献できると良くて、お金もちゃんと入るのであればなお良い、といった感じですよね。「これで世の中を変えたい」というようなことではなくて。思いのままに行くことがタイラーさんの強みなんでしょう。
年を取ったり家族がいたりするとなかなか無謀なことはできなくなっていくと一般的に言われていますが、実は結構そんなことはなくて、「やっちゃえ」でやれたりするんですよね。まだ28歳なので、これから変化していく可能性はまだまだありますよね。
Go Globalでさまざまなエンジニアの話を聞きますが、起業したりすごいスキルを持っていたりする人に「どうしてそれが実現できたのか」を聞いても「自然にそうなった」と答える人が多いんですよね。思うに「どうすればそうできるのか」と考えすぎてしまうと次に進めなくなるのでしょう。やりたいと思う、楽しそうだと思う、要求がシンプルだからこそ人並み以上の成果が出せるのではないでしょうか
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