就活のお供は「魔法のスプレッドシート」と「インターン」:Kaggle グランドマスター インタビュー(後)(2/2 ページ)
Kaggleにハマった2人の大学生は、明確な判断基準を持って就職先を探し、決めた。グランドマスターは最終地点ではなく、その先を見つめていたから。
Kaggleでの経験をビジネスに生かす
リクルート入社後の2人は、それぞれの部署で機械学習のスキルをいかんなく発揮している。
荒居さんは「じゃらん」「ホットペッパーグルメ」「AirPAY」「Airレジ」などのデータを担当しており、直近では飲食の画像の改善業務を手掛けたという。
内容は、掲載される画像の一覧の中から重複した画像を取り除くというもの。
「この画像とこの画像は同じであるか異なるかを判断するだけで、何かを予測するというタスクではないので、教師なしで行っています。Kaggleで学んだことが生かされています」(荒居さん)
中間さんは「リクナビ」に代表されるHRサービスを担当している。
「私は、レコメンドシステムの改善を担当しています。Kaggleで扱ったことのあるテクニックを用いてモデル改善を行っていますが、ABテストを行ったところ改善率20%前後となり、設定したKPIを達成できました。Kaggleで養ってきたスキルやノウハウが実際の業務に役立つということが実感できています」(中間さん)
2人ともKaggleで培った経験やノウハウが、現在の業務に存分に生かされているようだ。
「社会人になってKaggleに割く時間が減ったか」という質問に、「それはない」という荒居さん。リクルートは、申請して認められれば就業時間の一部をキャリア形成に必要なことに使える人事制度が用意されているという。キャリア形成もミッションの一部として認められるのだ。こうした制度を利用すれば就業時間中にKaggleに参加できなくはないが、2人とも今はそうしていない。
「最近、Kaggleのコンペの傾向が変わってきて、計算により多くの時間が割かれるようになりました。その分、以前よりもコードを書く時間が短くなっています。計算だけなら仕事中にコンピュータにやらせておくことができますから」(荒居さん)
機械学習を実務で使うには、幅広いスキルやノウハウを養う必要がある
今後のキャリア形成についてどのように考えているのだろうか。
機械学習やモデリングにもはやり廃りがある。またKaggleはあくまでも一企業のプラットフォームなので、軸足を置くのはいいけれど、それだけではダメだというのが荒居さんの意見だ。今は希少性があっても、いずれはコモディティ化するかもしれず「そのときのために、今から幅広いエンジニアリングのスキルを身に付けていきたい」という。
機械学習をビジネスに生かしていく上では、どう運用していくかといったノウハウ、データ収集に関するノウハウ、施策の良しあしを判断する力といったものも求められていく。こうしたノウハウのうち、Kaggleからだけで養えるものはそれほど多くはないという考えだ。中間さんも同様で、今後はビジネスやエンジニアリングのスキルを幅広く身に付けていきたいと語る。
コンペでグランドマスターを取得した2人は、今後のKaggleへの取り組みをどのように考えているのだろうか。
「Kaggleは周囲の人と競いながら精度を上げていけますが、自分の解法を公開してくれる人がいるので、たとえ上位に入れなくても、それを自分でかみ砕いて次回は自分でも使えるようしていく、といったことができます。楽しく機械学習を学べる場として利用していきます」(中間さん)
実は、中間さんはノートブックでもグランドマスターを取得している。コンペとノートブックの両方でグランドマスターを取得している人は世界に10人もいないという。その1人が中間さんなのだ。
ちなみに、4つのカテゴリー全てでグランドマスターを取得している人はさらに少なく、世界で4人しかいないそうだ(2021年9月時点)。荒居さんは「4つのカテゴリー制覇にちょっと興味があります(笑)」と野心をのぞかせた。
2人とも、自分磨きの場としてKaggleに今後も参加してきたい考えのようだ。Kaggleで機械学習を学び、社会人として実務に必要なノウハウを会得し、さらに成長を遂げる2人の姿を、5年後にまた取材したいと思った。
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