「私たちのことを話題にし続けて」 ウクライナのエンジニアが今、日本の皆さんに伝えたいこと:Go AbekawaのGo Global!〜緊急特別編(2/3 ページ)
ウクライナのキエフでIT企業を営み、自身もITエンジニアであるCyril Samovskiy(キリル・サモフスキー)さん。爆破された空港を避け、渋滞する避難の車列を離れ、南へと向かったキリルさん一家は今どこで何をしているのか。キリルさんから日本の皆さんへのメッセージ動画付き。
90%の社員がウクライナにとどまり、ビジネスを続けている
阿部川 会社の方々は、皆さんご無事ですか。
キリルさん いいえ。どう考えても、皆が安全なところにいるとは思えません。
社員の10%は他国に避難しましたが、それ以外の90%はウクライナにとどまっており、より危ないと思われる南東マリウポリでロシアに占拠されて、食糧や水などが供給されない恐ろしい環境にいる人もいます。3月初旬には電話で話せましたが、現在は音信不通で、どうなっているか全く分かりません。マリウポリは完全にロシア軍によって封鎖されています。
ウクライナ西部は比較的安全なようで、そこにいる社員たちはある程度仕事もできているようです。1日に仕事ができるのはほんの数時間程度なので進捗(しんちょく)もまちまちですが、なんとプロジェクトの8割は進行しています。
ただマリウポリ同様、多くの都市部と連絡が取れない状況です。ニュースでご覧の通り、キエフやハルキウなど、爆撃を受けた地域は壊滅状態です。そこにいる社員たちが安全かどうかはわからないことが多いです。
阿部川 連日、攻撃を受けて崩壊した街や建物の映像をテレビで見ています。恐ろしい状況ですね。キリルさんご自身は大丈夫ですか。スロバキアでは、食糧や水は足りていますか。
キリルさん 十分とはいえませんが、文句を言える状況ではありません。こうしてここにいられるのはとてもラッキーだと重々承知していますから、何も言うことはありません。もしまだキエフに残っていたら、物資も、思考も、何もかも破壊されていたでしょうから。21世紀の中央ヨーロッパでこんなことが起こるなど、誰が想像できたでしょうか。
クライアントに、そして世界中の人々に感謝している
阿部川 このような状況ですから、一日一日をしっかり過ごしていくことが大切であり、またそれが一番大変かと思います。メンタルもフィジカルも、やっていけそうですか。
キリルさん 一日一日は過ごせますが、未来が見通せないことが大きな重しになっています。コロナ禍が始まったばかりのときと似ているかも知れません。コロナ禍当初は外に出られず、ビジネスが止まってしまうなど「この状況が1カ月、1年、あるいは未来永劫(えいごう)続くのだろうか」と不安になりました。現在私たちは、ある程度コロナという敵のことが分かってきています。しかし今、私たちは敵のことをまだよく分かっていません。
朝になると生活が始まりますが、ビジネスの成長や開拓など全く考えられません。思考がその方向に向かないのです。もちろん人を雇うことなどできません。プロジェクトが続くかどうかも不明ですし、製品開発を進めることもできません。営業もできませんし、マーケティング活動もできません。製品を作り出したところで、誰がどうやって買うことができるでしょうか。
私たちがウクライナのことを思わないときはありません。身体は安全ですが、現実的にここでできることは何もありません。もちろんこの思いは、ウクライナに残っている人々の思いに比べればまだマシな方です。
200人の従業員を持つ会社の社長として、従業員を何とかして守りたい。今はそれしか考えられません。ですから、ウクライナはもちろん、ここスロバキアで、例えばビジネスを再開するといったことは考えられません。実際、防空壕(ごう)にいる人々に給与を配布するわけにはいきませんし。
ですから、できる限り今の状況をクライアントに説明し、理解を求めるようにしています。当社のクライアントは皆素晴らしい企業ばかりです。チームをサポートしてくれますし、このような状況の中でもしっかりと支払いをしてくれ、さらに支援金を送ったりもしてくれます。心からうれしく思いますし、人間の素晴らしさを感じます。
ビジネスのアップダウンがあっても、クライアントから思いもよらないサポートを目の当たりにすると、本当にありがたいと思います。今はここでこうしているしかないのですが、戦争が終わったら全ての方々にできる限りの恩返しをしたいと思っています。クライアントの方々の支援に、心から感謝をしています。
一人一人の志がたとえ小さなものでも、多くの方々が支援してくれれば、それは莫大(ばくだい)なものになります。例えば1人が5ドル寄付してくれて、それが通算70億人になれば、350億ドル(3.5兆円)と言うとてつもない金額になります。ですから世界中の全ての人々に感謝しています。
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